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気の向くまま、思うがままの行動記録ですよ。
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    全てを終わらせる灰色の男

    だったかな???
    愛知県民がツイッターでそんなの見たよ〜と教えてくれて、一瞬で書く事が決定したお話ですよ。

    しかし主人公の名前+タイトル=ストーリーって……

    英語どころかローマ字も嫌いな私なので欠片も勘づきませんでしたよ!
    一体いつからの既存ネタなんだかも解りませんが、まあそこは気にしない!

    設定としては203夜ネタバレで書いていた『ネア=マナ』の、ピエロやってアレン育てていたのは実はネアだった!という無茶ぶり設定を元にしています。
    なんつーか、ピエロネアはアレン大好き過ぎて書いていて切なくなりますよー………





     ふと目を覚ませば、そこは青空の広がる世界だった。が、眼下に広がる全ては廃墟と化し、人の気配はない。

     けれど少年には見覚えのある場所だった。思い、目を瞬かせる。

     「ここ……は………」

     いつだかに見た、夢の世界だ。また瓦礫に突き刺されているのかと己の身体を見下ろすが、今回はそんな事はなかった。

     それにホッとして、辺りを見回す。つい期待に目を輝かせてしまうのは、それを待っているからだろう。

     確か、以前この夢を見た時は、途中からだったけれど現れたのだ。

     「………マナ……?」

     その人の名を小さく呟いて、心許なく辺りを彷徨う。一歩一歩と進む度、何故か視界が低くなっていって、進める歩幅も短くなる。

     流石は夢だと小さく笑ってしまう。………現実なら、あり得ない。大好きなあの人と一緒にいられた、夢のような頃に舞い戻る、なんて。

     「………レン!」

     自嘲げに唇を歪めた少年の耳に、不意に触れる、懐かしい声。それに少年は目を丸めた。

     聞き間違いか幻聴か、自分が作り上げた幻か。……都合のいい、ただの夢か。

     解らないけれど、立ち止まった少年は惑うように視線を揺らしてその声を探した。

     「アレンっ!」

     同時に響いた、大好きな音。

     思考などとっくに停止して、少年は駆けた。短い手足で精一杯、その声が聞こえた方角へ。

     転びそうになりながら、それでも必死に手足を振った。早くいかなければ、。また失ってしまいそうだった。

     急がなくては。もっともっともっと。そうして開けた瓦礫の山の先、ピエロ姿の大人がぽつんとひとり、立っていた。

     「マナ!!!」

     声を張り上げて名を呼んで、駆け寄った。

     視界が歪んで、自分が涙目になっている事を知る。が、構わなかった。情けなくても無様でも、何でもよかった。

     ただもう二度と触れる事が出来ないと、そう絶望の中、その人を忘れない為に刻んだ投影した己の姿しか、縋れなかったぬくもり。

     愛しい愛しい、自分が認めたただ1人の父親。その人が広げた腕の中に、飛び込んだ。恥も外聞も関係ない。年齢も、どうでもいい。

     ただその腕に抱き締めてもらいたかった。そうして、自分の名を呼んでほしかった。

     「マナ、マナマナマナ…………!!!!!!」

     ぎゅうっと小さな手のひらでピエロの服を握り締めた。シワになってしまうと解っていたけれど、優しいその人は大きな手で抱きとめて、そうして頭を撫でてくれた。

     それが嬉しくて。けれど切なくて。少年は大きな銀灰の瞳からぽろぽろと涙を落とす。それを指先で拭い、ピエロはコテンと首を傾けて笑った。

     「どうしたんですか、アレン。随分と甘えん坊ですね」

     「マナ、会いたかった………!ずっと、ずっと会いたかったんだ!」

     これが幻などではないと知る為に、手のひらが白くなる程力を込めて、少年はピエロを捕らえた。

     かつてはこんな風に素直に甘えられた事はなかった。いつだって可愛げなく口の悪い応対しか出来なくて、いつか愛想を尽かされるのではと怯えながら、それでも時折与えられる真っすぐな愛情に心を奮わせて寄り添っていた。

     犬の、あのマナと初めて言葉を交わした日に埋められた犬の名を呼びながら、それでも自分を映し愛してくれたただひとりの、そして初めての人間だった。

     愛される筈のない外見と性格を、それでものほほんと気にも掛けずに受け入れてくれた、人だった。

     マナは笑った。ピエロメイクの笑みではない、純粋な笑みだった。それを見て、少年は少し切なく眉を垂らす。…………これは、自分を知らない時の、マナの笑みだ。

     「そうですか。なら、一緒に行きましょうか」

     それでもよかった。しゃがんで自分に目線を合わせてくれる、優しい人。きっとあの犬にも同じようにしていた純粋な人。

     自分は彼を支え守る為に生きようと、決めたのだ。人には役目があって生まれるというならば、それがきっと自分が生まれた意味なのだと、そう思ったから。

     「うん。マナと一緒ならどこでもいい。今度はどの国に行くの?」

     ぐいっと眦に溜まった涙を拭って、少年は笑った。かつての幼い頃の姿では、しゃがんでもらっても僅かにマナの方が背が高い。

     見慣れたメイクを見上げながら、少年はマナに腕を伸ばした。

     「国じゃありまセン」

     にこりと笑い、マナが立ち上がる。声が、微かに変化して感じた。

     目を瞬かせ、少年はマナを見つめたまま、問うように声を落とした。

     「え…………?」

     伸ばした指先を掴もうとした大人の手のひら。にっこりと笑う、無邪気なマナの笑み。それなのに、どうしてだろう。

     …………背筋が凍てつくような、この悪寒。

     「アレン………、ほら、こちら、へ…………」

     無意識に震えた指先が、差し出された指先に触れる前に、力を失って垂れ下がってしまった。

     まるでそれを待っていたように、ピエロは目を瞬かせ、そうしてそっと唇だけを持ち上げて、笑った。惚けたように少年はその変化を見つめた。

     少しだけ理知的なその笑みは、自分を知る時のマナの笑みだ。犬ではなく、自分という個を知り、それでも頭を撫で抱き締めてくれた時の笑み。

     その微笑みで、ピエロは唇を開いた。再び少年はマナに腕を伸ばそうと、力の抜けた腕を叱咤して持ち上げる。差し出されたその手を掴む時、今度はピエロが意図的にその腕を引き、一歩を退いてしまう。

     「危ナイ。マタ、間違エタ。『赤腕』」

     そうして告げられた、その声。………否、音の響きの無機質さ。

     「………………っっっっ!!?!?」

     驚きに少年の瞳が丸まった。ピエロ同様、少年もまたふらつくようにして一歩後ろに下がる。

     「オ前ハ『あれん』ジャナイダロウ、『赤腕』?」

     それなのに付いて来てはいけない、そう囁くピエロ姿の大人は、間違いなく、かつて六幻に刺されノア化した褐色の肌の中、対峙した、あの男。………ネア、だ。

     驚きに目を見開いて見上げた先、彼は笑った。まるでマナのように柔らかく。

     「『あれん』ハ俺デ、ソウシテ、オ前ニナッタ」

     「貴、様…マナ、を、どうし………!」

     声が震える。明滅する可能性に、身体も震えた。それを押さえ込むように噛み締めた唇が、唸るように低く喉奥で呻く音を零す。

     それさえ気付いているのだろうピエロは、それでも笑んでいた。瞳を細めて、愛おし気に少年を見下ろして。……けれど決してその手が触れる距離には近付かずに。

     風が、虚空に舞うように吹きかけた。

     瓦礫の中の砂埃を舞い上がらせた気がする。だからきっとこんなにもざらざらと言葉が棘ついて形にならないのだ。そう握り締めた拳で己を納得させながら見つめたピエロは、ささやかにその唇を開いた。………笑い顔のメイクが、妙に滑稽だった。

     「まなハイナイ。モウ、まなダッタ肉体ダケシカ、イナイ」

     寂しい声。悲しい声。…………嘆いている、その声。

     戦慄きそうな唇を押さえ込み、それでもどうしようもなく瞳を揺らし、少年はピエロを見据えた。

     「何を言って……」

     「『赤腕』まなヲ、救イタイ?」

     問う声に、ピエロは答えない。ただ、己が思うがままに言葉を綴り、そうして問いかけてくるばかりだ。

     困惑、すべきかすら解らない。全てを撥ね付けて背を向ける、それもひとつの選択肢だった。

     それでも出来なかった。あまりにもその笑みは、自分の知るマナのものだった。双子といえど、心が同じ訳ではない。だからこそ、与えられる表情の中に含まれる感情を受け止める感性が、否と叫ぶ筈なのに。

     ………同じ、だった。自分の知るマナの笑み。自分を知る、マナの笑み。

     その可能性に、身体が震えた。足下がぽっかりと穴があくような、空虚な震えだ。

     ずっとずっと間違えていたのか。解らない。解る筈がない。………そうだと認めていいのかすら、解らない。

     「……オ前ガ望ムナラ、ソレモイイ。お前ガ辛イナラ、俺ガ終ワラセル」

     そうして震える眼差しを地面に落とせば、ふわりと待った、柔らかな音。……無機質なその音が、どうして優しいと感じたかなんて、解らない。

     まるで自分が恐れて惑い、目を逸らそうとした事さえ見抜いたかのようなその声に、カッと羞恥に顔を染めた少年が、睨み上げるようにピエロを見据えた。

     「訳が、解らない。何なんだよ、お前は…………!」

     吐き気がする。記憶が揺れて、意識が揺れて、頭を抱え、しゃがみ込んでしまいたい。

     拒むように恐れるように振られる白い髪。それを見つめながら、ピエロは小さく首を傾げ、困ったように、けれど受け入れるように頷いて囁いた。

     「俺ハオ前。俺ハまなニナリキッテイタ、タダノ道化。道化ハ『赤腕』ヲ拾ッテ育テタダケ」

     小さかった子供。犬に与えた自分の名前。それを受け継ぎ傍にいてくれた、優しい子供。

     あの頃、もう自分は壊れていた。たったひとりの兄弟を失って、その肉体は狂気の入れ物にされて。

     …………この手で壊さなくてはいけないその宿命を呪い、逃げていた。出会う事を、交わる事を、その身に突き立てなくてはいけない終止符の剣を。

     恐れ怯え、背を向けていた、のに。

     ふわり、ピエロが笑う。その顔を睨む銀灰が映していた。それが、どれだけ自分にとって歓喜を呼ぶかなど、きっとこの子供は知らないだろう。

     それでいい。解らなくても、受け入れられなくても、いい。ただ、知ってくれるといい。そう祈り、愛しいその眼差しに小さく囁きかけた。

     「道化ハ、まなヲ失ッテカラ初メテ、生キル事ヲ思イ出シタダケ」

     死ぬ事を夢見ていた訳ではないけれど。……ただ、生きる事が苦しかった。狂っている時間はまだよかった。それでも舞い戻る正気の時間こそが、狂気の時間だった。

     それを、小さな手のひらが包んでくれた。健気に寄り添い、不貞腐れて見上げながら、それでも全てを結局最後には許し、受け入れてくれた。

     優しい、子だった。愛しい命だった。だから守りたいと、いつからか思ってしまった。

     ………自分が見出した事により、最早逃れようもない連鎖に巻き込まれたこの子を、それでも守りたいと思ったのだ。

     「ダカラ、オ前ニ選バセヨウ。『赤腕』ハ『あれん』ニナルカ、否カ」

     「………僕は、アレンだ。アレン・ウォーカーだ」

     囁くピエロに、アレンは戦慄く唇を必死に持ち上げて、掠れた声を落とした。鋭い銀灰が、真っすぐにピエロを射抜く。

     「マナの名を、受け継いだんだ。死ぬまで前に進み続ける為に………!」

     それだけが、今の自分の拠り所だ。自分というものを支える、自分の始まりの意志。

     全てが砕けて消えたあの雪の日から、立ち上がり白い自分を受け入れ進む為、抱き締め続けた背く事のない、ただひとつの誓いだ。

     「………………、承知、シタ。ソレナラ、『あれん』手ヲ」

     それを見つめたピエロの瞳が、そっと細まった。それは泣き笑いにも見えて、少年は眉を顰める。メイクのせいだと解っているけれど、それでも思わず伸ばしそうになった指先を、驚きの中押さえ込んだ。

     頑に動かない腕を、ピエロは困ったように笑んだ。

     「俺ガオ前ニ溶ケテ、オ前ハ俺ニナル」

     囁く言葉の意味を考えるより早く、勝手に身体はその危機を感じ取ってまた一歩、退いた。一瞬浮かんで瞬いたのは、アポクリフォスの、強制的共鳴。あんな己を細切れにして覗き込まれるような真似、許せる筈がない。

     「なっ……………?!」

     「大丈夫、『赤腕』ハ消エナイ。デモ、『あれん』ガ残ル」

     とられた距離にピエロはゆったりと笑み、腕を伸ばした。……一歩、恐れるように躊躇いながら、ピエロは足先を前に進めた。

     相手は身動きひとつしなかった。背を向けて逃げる事も可能な状況で、それでもそこにいて話を聞いてくれる事が、嬉しい。

     以前の対話のように、無理矢理そこに座らせずともいてくれる。………それは暗に受け入れているのだと教えてくれる。

     「俺ノ能力ト、遺志。ソレダケガ、オ前ニ残ル」

     それ以外の一切は、何も残らない。記憶は赤腕が携えアレンとなったままに。そうして、ノアの記憶など欠片だってインストールはしない。……してなどやるのかと、己の内で猛り怒り狂うノアの意思にピエロは嘲笑った。

     「…ネ、ア………?」

     「記憶ハ、オ前ガ持ッテイル。ダカラ、でりーと、シナイ」

     可愛い子供。愛しい子供。……お前に、これ以上のどんな過酷な痛みを与えられるだろう。

     この言葉すら、きっとこの子には痛みなる。解っていて、それでも遺したがる自分は、十分身勝手なノアだ。

     解っている。……解っているから、せめて最後の我が侭くらいは、許されたかった。

     揺れる銀灰。それがあどけなく瞬いて、戸惑うように揺れたあと、あの幼い日々と同じ煌めきで、自分を映してくれた。

     ……………その歓喜を、どう表せばいいのだろう。

     「俺ノ記憶ハ、オ前ガズット、一緒ニ持ッテタ」

     すっと一緒だった。出会い語らい傍に寄ったあの日から、ずっと同じ場所にいた。この腕の中、凍える子供を抱き締めて、震える自分を守ろうと回される小さな手のひらに救われてきた。

     泣き出しそうに歪んだ少年の顔が、ひどく幼く震えて、ピエロを見つめる。その不純物を孕まない眼差しにピエロは嬉しそうに笑んだ。

     「………マナ…な、の………………?」

     震えた声。恐る恐る問うのは、信じ難さだけではなく、身の内で叫ぶ己の声に戸惑うからだ。………彼こそが共に生きた人だと、どうしてこんなにも身勝手に心は認めて泣きわめくのだろう。

     「違ウヨ、『あれん』。まなハイナイ。モウイナイ。ダカラ、オ前ガ終ワラセロ」

     問う眼差しに映ったピエロは、笑んでいた。優しく、嬉しそうに瞳を細めて。……愛しいと教えるように、その眼差しだけで全てを語るように。

     それに遣る瀬無く少年は顔を歪めた。この先に何が待つのか、解らない。何を成すかを知っていても、あるいはそれは、自分にとっては死よりも辛い選択になるのかもしれない。

     ………愛しい最愛の人の全てを終わらせる事、なのかもしれない。

     「オ前ハ黒デモ白デモ無イ」

     歪む眼差しを教えたくなくて、少年は固く目蓋を閉ざした。それにピエロは頷くように静かに音を綴る。

     「黒イ『ねあ』ト、白イ『赤腕』。混ザレバ境界線ハ消エル」

     耳に触れるその音は、無機質だ。人の音よりはゴーレムの音に近い。それなのに、その音は自分の中、谺すように響き折り重なり溢れる程の懐郷を呼ぶ。

     黒い彼では成せなかったこと。白い自分では足りないこと。

     それを、見据えなくてはいけないだろう。眼差しを開いたその時からきっと、それが自分に課せられる。

     解っているから、少年はなかなか睫毛を持ち上げられなかった。それを許すように優しい手のひらが頭を撫でた。

     真っ白な髪。真っ白な肌。……真っ白なままの、その心。

     あの日自分が与えた呪いだけが、生々しく彼に生を彩っている。それだけが、あの頃は彼を生かし道を刻む術だった。

     痛かっただろう。苦しかっただろう。それでも繰り返し告げて教えた言葉を胸に、この子供は立ち上がり、忘れぬ事を誓う為、自分と同じ手段を用いてその仮面を手に入れた。

     愛しく忘れ難い誓いを宣言するように、言葉を物腰を、その人に投影した。その先にあるのは別離であっても、その日まで決して分かつ事のない半身だと、いる筈のない人に教えるように。

     「新シイ『あれん』。進メ、誇リヲ持ッテ歩キ続ケロ」

     愛しい子供。可愛い子供。たったひとり、自分が育て全てを注ぎ慈しんだ子供。

     その身に与える試練は、残酷だろう。その細い身体にかかるにはあまりに重過ぎる枷ばかりだ。

     ………それでも、と。ピエロは少年の濡れた睫毛を指先で辿り、進む事を願った。

     「タッタヒトリノ、Gray-man…………」

     囁き、その額に口吻けを落とす。眠る時ねだる事も出来ずに見上げてくるだけだった、おやすみのキス。

     

     全てを終わらせる、時の破壊者。

     この身を与え、力も遺志も全てを捧げ、可能な限り君を守ろう。

     

     

     だからどうか、泣き濡れて踞りろうとも、立ち上がって前を見据えて。

     

     

     

     

     残酷な世界は、それでも楽園を夢見て、いつかは花開くものだから……………

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