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気の向くまま、思うがままの行動記録ですよ。
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    苦手と解っていても書きたいものは書くよ。

     そんなわけで舌の根も乾かぬうちに書いちゃったよ、W.A。
     ここに来る方で知っている人がいるかはかなりの謎ですが、まあ一応こちらにもそっとおいて置きます〜。
     ちょっぴりあやしい(?)のは荒磯の方を見習った……訳ではなく、純粋にこいつらこうなんだろうなぁとなっただけです。でもまあハグすら微妙な状態だし平気平気☆



     深夜……むしろ明け方というべき時間帯。ゲームのコントローラーを握っていた時任は、それをそっと床に下ろして電源を切った。
     通算……5時間、かな?そう心の中で時任が熱中していた時間を数えてみる。今日は随分少ないけれど、調度TVのロードショーを見ていたから、結局TVに齧りついていた時間は変わらない。
     それでも流石にもう寝なくては身体がもたないだろう。ペラリと雑誌のページを捲りながら、彼が寝るといってフラフラしながら寝室に向かう数秒後の未来を思い描いた。
     「なぁ…久保ちゃん」
     「ん?なぁに?眠い?」
     「うん……寝たい」
     やっぱりね、と解っていたような仕草で頷き、雑誌から顔を上げて時任を見遣った。
     いつものキツい眼差しが眠そうに半ば閉ざされている。そこまで無理してゲームしなくてもいいのにね、と思わなくもないけれど、彼は集中すると他に目も向けなくなるのだから仕方がない。
     さらり、時任に頭を撫でるように髪を梳く。
     大分、この拾った子猫は懐いてくれて、一度は自分から捨ててしまうような態度をとってしまったせいで出ていってしまったけれど、今度は彼が動けなくなっていた自分を拾い、結果、『触れない』という契りを破り、傍らにいる時、時折こうして撫でる事を許されている。
     それを時任も嫌ってはいないらしく、少し眉を顰める事はあっても、基本、好きにさせてくれていた。
     「いいよ。ベッド、使いな?」
     短い髪を撫でたついでに、その中に隠れた大きめの耳をくすぐるように撫でた。……あ、しまった、流石に引かれるかな?とか思ったけれど、時任はただくすぐったそうに首を竦めただけで終わった。
     その癖、少し躊躇いがちに間をあけて、こちらを窺うように上目遣いで見上げるのだから、無意識って怖いとか思ってしまう。自分もなのだけれど。
     「久保ちゃんは?ここで寝んの?」
     すり、と、多分これも無意識に撫でる手のひらに頬を寄せる。たまに、時任は甘える癖があるけど、その意味もタイミングも、残念ながら解らなかった。
     今もそうで、時任を拾って以降、ベッドを占領していた時任と、それを遠く眺めるばかりでソファーに寝そべっていた自分は、既に定着している。
     「?いつもそーでショ?」
     それなのに今更?と不思議そうに聞き返してしまう。
     「……………………」
     けれど、時任は何か言いたそうにむっと唇を引き結んでしまった。これは間違えたかな、と頭を掻いてみるも、適当な言葉は浮かばない。………本当に、自分は人と関わる事に慣れていないのだと心底思い知る。
     時任の仕草、言葉、行動、意識。どれも解っているようで、まったく解らない。ただ待つ事と観察する事に慣れてしまっているから、時任自身は全部知られているような錯覚をしているようだけれど、意外と驚いている事は多い。
     今もそうで、時任が何故そんな事を尋ねたのか、その意図など解らなかった。ゲームの中でそんな話はなかったし、今日見たTVもない筈だ。さて、何が理由かね、と脳裏に情報を浮かべてみる。
     「どしたの?」
     それでも一番いいのは、この機嫌を損ね易いけれど意外と情の深い子猫自身に教えてもらう事だ。答えてくれれば、だが。
     少しの間視線を彷徨わし、けれど促すように髪を梳いて頬を撫でてみると、ぎゅっと瞑られた睫毛が震えた。
     「一緒に…寝ちゃ、駄目か……?」
     「へ?」
     そうして落とされた爆弾発言に、思わず間抜けな返事を落としてしまった。まさかそんな言葉を彼から与えられるなんて思う筈がない。
     正直、今もまだ彼が警戒心を無くせない事も解っているし、触れる事を恐れているのは、自分以上に彼だという事も解っている。凶器になりうるその右腕は、煌めく世界を輝く瞳で眺めては確かめようとする彼にとって、破壊の象徴だろう。
     現に、俺の腕を折った事をひどく気に病んで凹んで、誰かの為に自身に枷を与えてもがく様に感嘆を覚えたのもついこの間の事だ。
     そんな彼が、こんな甘えた睦言を願うなんて、青天の霹靂もいいところだ。
     「〜〜〜〜〜〜っ、な、なんでもねぇ!おやすみっ」
     少しばかりの感動を覚えながら見下ろしていた時任の顔は、あっという間に真っ赤になって、ぷるぷると震え始めた。本当に子猫だな、なんて思っている間に、立ち上がり、駆け出そうと身を翻す。
     素晴らしいその瞬発力に拍手を送る気持ちのまま、ひょいと伸ばした腕で離れようとしたその右手を掴みとった。
     「ほい、ちょい待ち」
     同時に、クイッと引き寄せ、バランスを崩した時任をそのまま、自分の腕の中に招き寄せる。
     「だぁ?!あぶねぇだろっ?!」
     すっぽりと、見事に腕の中におさまってしまった華奢な肢体。腕の中で真っ赤になったままの時任は、先程までのしおらしさなど無くして、噛み付く勢いで叫んだ。……ここ、防音で良かったかな、なんて呑気に思った事がバレたら、更に怒鳴られそうだ。
     「転ばすようなヘマ、しないよ。……それより」
     いい子、と声には出さずに彼の髪を撫でる。形のいい頭を辿るようにゆっくりと、頬と耳の合間をくすぐるように親指で撫でても、特に抵抗らしい抵抗はなかった。
     「俺と、寝たいの?」
     これは、お誘い、なのだろうか。首を傾げて問い掛ければ、むっと顔を顰めて逸らされてしまった。……拗ねた、かな?
     「………………………悪いかよ」
     答えながらもついでのように身体も逸らし、腕の中から立ち上がってしまう。………怒らせたかな、と思いつつ、それでもそこにいるという事は、多分、照れ隠し。
     その幼い仕草に微笑んで、見上げた赤い耳に問い掛ける。
     「ベッド、狭くない?」
     一応一人暮らしの自分のベッドは、勿論身長のせいもあって大きなものだけれど、男二人で寝転がってゆとりがある、という程でもない。無理ではないけれど、ずっとひとり悠々と寝ていた時任にとってみれば突然窮屈になる筈だ。
     「ギリ平気だろ」
     けれどそれにも素っ気なく短い、けれど肯定の返事が返される。
     「そ?なら、寝よっか」
     「………いいのかよ」
     頷いて立ち上がれば、驚いたように時任が振り返った。………そこで驚くのもおかしな話だと、多分時任自身は解っていない。これはもしかして、と少し思う。
     ほんの微か、揺らめく眠そうな眼差し。そこに彩られる、自分と似通った怯え。それを溶かすようにふわり、音を注ぐ。
     「時任が嫌じゃないならね」
     「なら、寝る」
     「ん。……おいで」
     素直に頷いた子猫の愛らしさに目を細め、せめてエスコートくらいするべきかな、とこっそり思い、手を差し出した。
     …………とはいえ、多分、これも無意味な仕草だ。と自分でも本当は、解っていたりした。
     「?なに?」
     思った通りきょとんとした眼差しで差し出した手のひらを見つめられて、思わず苦笑が落ちた。
     やっぱりなぁ、と軽く首を横に倒し、今度は両手を差し出してみる。
     「ん?眠いなら、運んでやろうかなって」
     「……、歩けるっつーの!」
     むぅっと、少しだけその誘惑に揺れかけたらしい間を開けて、時任は怒鳴り返した。きっと、全部、無意識に。
     まっさらな時任は何も知らない。自分が言った言葉の危うさも、こちらが返した言葉の明確な意志も。……ただ、そこに滲む望みだけを、しっかりと嗅ぎ分ける。
     「そ?残念」
     「ったく、ほら、寝ようぜ」
     差し出された左手。多分、これはわざと。
     それを恭しく受け取り、そっと握り締めた。あたたかな時任の体温。少し…否、大分、自分よりも高い体温にホッとする、なんておかしな話だ。
     ………そもそも、この息が抜ける感じがホッとする、という事かも、正直解らない。
     それでも唇は知らず笑みを象って、それを見上げた時任が少し満足そうに笑う。が、それが眼鏡の奥の目元を見つめた途端、眉を顰めてしまった。惜しいな、折角屈託なく笑ってたのに。
     まあそれも俺のせいか。そんな事を思い、そっと顔を逸らして足を踏み出した。寝室までなど、そう歩く距離でもないけれど、それでもゆっくり、足を踏み締めるみたいに歩く。
     うっすらと浮かぶクマは、別に珍しいものでもない。時折くる、ただの不眠症状のサインだ。けれどそれを見上げる度、時任は顔を顰めてその手を伸ばし、こちらの眼鏡もお構い無しに、クマをぬぐい去ろうとする。
     ………メイクじゃないんだけどね、と苦笑を返してみても納得がいかないらしく、不機嫌そうな眼差しを向けられてしまう。
     先を歩くと、いつもは俺が先と歩を早める時任が、けれど今は大人しく歩み……ぎゅうと、左手に力を込めてきた。
     どうしたのだろうと振り返る。……じっと足元に落とされていた時任の視線。前髪に隠されて見えないその顔。………空いた片手で顎を捕らえ、その顔を覗き込んでしまおうか、なんて無粋だろうか。
     ほんの微かな逡巡の間に、すぐに彼は何かを定めたらしく、頤を上げた。
     …………それは潔い、真っ直ぐな眼差しだ。この身を飲み込む闇色の現実よりもずっと鮮やかで強烈で、驚く程にあっさりと自分を包み染めあげる仄かな光。
     この身が纏う、唯一の光。
     「ちゃんと俺様が守ってやるから、ぐっすり寝ろよ。久保ちゃん」
     ギュッと握り締めた手のひらと同じ、真っ直ぐな声と眼差しの強さ。何も知らず、何も携えない時任の、だからこその眩いまでの生粋さ。
     「うん、よろしくね、時任」
     ほんの微か、この唇はうっとりと染め上がっただろうか。銜えていた煙草がそれを隠しただろうか。
     そんな事を思い、そっと引き寄せた左手に、外した煙草の代わり、ささやかに口吻けた。


     まるで騎士の忠誠の真似事みたいだね、と。嘯くように心で思い、時任を見上げる。




     ………真っ赤になった子猫は、それでも毛を逆立てる事はなく、しなだれた左手を与えてくれた。

     

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