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気の向くまま、思うがままの行動記録ですよ。
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    カフェ物語19後半

    続きですよ。





     「ねえラビ、ユウが般若になってるよ?」
     あっさりとした素直な感想を口にしたアルマの後ろに隠れるようにして立つラビは、思わずリナリーを見遣って慌てた声を紡ぐ。
     「なんでリナリーには何も反応しないんさ?!」
     「日頃の行いじゃないかな?」
     「ひど?!」
     やはりこちらからも非常にあっさりとしたリナリーの素直な返事が返されてしまい、思わず涙目になってしまう。いつも思うけれど、どうしてこのカフェは オーナーの自分をこんなにもぞんざいに扱うのだろうか。
     それともそれが上に立つ人間の耐えるべき環境だろうか……思わずそんな経営者の孤独と苦悩などという名を持つ書籍でも作れそうな勢いで、隣のアルマの肩 にへたれ込んでしまう。
     それでも、やはりこのカフェを辞めようなんて思わないのだ。
     どんなに面倒臭くても、厄介事があっても、たまに相手が底冷えするような意識でもって他者を駆逐する事を考えてしまっても。
     ………どんな事があっても、ここを自分は守るだろう。
     思い、ラビはくすんとわざとらしい泣き声を落としてアルマの肩越し、かき氷を口に運ぶアレンを見遣った。
     愛おしそうに器を撫でる白い指先。ふわりほころぶ銀灰。すくいあげた氷の煌めきに心躍らせるようにうっすらと微笑む唇。
     その姿を囲むものに伝播する、喜びの情。まるでそれは心を潤わせる慈雨のようにただ静かに、気付かぬ程にそっと荒む心を癒し慰撫する。
     ただそこにあるちっぽけな菓子。あるいは紅茶。そんな、日常の中に溢れた当たり前のものが、ただ注がれた思いと差し出す笑顔によってその意味をまるで違 うものに変えるのだ。
     だから、ここは必要な場所。寒くて凍えている事も知らずに生きているものにとって、ここは憩える場所。休息の場所。………ぬくもりを、思い出させてくれ る場所。
     しゃくり、アレンが氷を口に含んだ音が谺する。同時に浮かぶ、歓喜と感謝と何よりも至福を教える微笑み。
     「あ……これ、餡の味がする………?あれ、でも、見当たらないのに?」
     同時に目を瞬かせ、驚いたように丸めた銀灰が口の中の溶けかけた氷と目の前の器の中の氷を比較するように舌と眼差しとで見つめた。
     「ちっ、相変わらず舌だけは肥えてやがるな」
     「なんですか、それは」
     それを奥にいる神田は耳聡く聞き取ったのか、盛大な舌打ちとともに、よく通るその声でアレンの疑問に答えた。
     「餡は蜜で溶いて伸ばして抹茶の下に掛けてある」
     さらりといわれた言葉に、即アレンの右手は反応して無意識に緑の山の中に餡のシロップがあるのを探してしまう。……が、多分それは無理だ。隠し味程度に 添えた餡のシロップは、いくら色合いが濃くとも、たっぷりとかけられた抹茶の緑に敵う筈がない。
     目的のものは見つからない。が、そうして探せば別のものを見出すだろう。そうひっそりと笑みを刻む神田の耳に、あ、とアルマの歓声のような声が響いた。
     「アレン!これ、氷の中にも餡あるよ、ほら、見える!」
     その声から推察するに、目を輝かせてアレンと一緒に器の中を覗きこんでいるだろう。かき氷の中には、粒あんを潜ませてあるのだ。こしあんとは違い食感も 楽しめ、氷の中に一体化している為、宝探しをしたような楽しみも味わえ、冷たく冷やされた餡と氷を頬張れる。
     この案は悪くはなさそうだが、はたしてこれを店内以外でも出来るかどうか。……そこか難しいところだと神田は眉を顰めた。
     そんな神田を振り返り、また生真面目に考え込んでいそうな横顔に、二人と一緒にかき氷を眺めていたリナリーが問い掛けた。
     「もしかして、練乳も作ったやつ?お店で使うのと色が少し違う……?」
     「今度の海岸の出店にいくなら、氷はあった方がいいからな。いくつか試作中だ」
     調度夏休みに入ればこの辺りは学生が減る。いくら休みの日は近所の住人が来るとはいえ、平日もいつも通りとはいかないのが現状だ。
     ならば人のいる場所に行けばいい。とても明快な理由により、夏場は出張カフェを行う事は決まっていたが、どうやらそれは海へ出向く事になるらしい。
     だからこの間ラビがバンをチェックしていたのかと朧に思い出しながら、アレンはシャクリと掬った氷を口に含んだ。
     氷には抹茶と餡が絡み合い、仄かな甘味とともに抹茶の渋みが心地よく響く。味を打ち消し合わない、調合のとれたシロップだ。そこにかけられた練乳の量 や、隠されていた粒あんの量によって、抹茶の味をより感じるタイプか甘味を強くさせ、抹茶を添えるタイプにするか変わるようだ。
     甘いものが苦手でもこれならばいけるだろう。逆に抹茶が強すぎるならば、餡や練乳を増やせばいい。
     この抹茶のシロップ自体、どうやら本当に抹茶を点てたものを使用しているらしい。となれば、味はかなり濃厚だ。………もしも提供するのであれば、練乳は もう少し多めでもいいかもしれない。抹茶本来の味を求める、甘さを控えたものを望む人用に宇治。練乳が苦手な人には取り除ける事を前提とした、甘さを強め にした宇治金時。
     そのふたつは最低限必要だろうか。そんな事をぼんやり考えていると、鮮やかな緑の氷を目を輝かせて眺めていたアルマがパッと顔を上げて神田を見上げた。
     「え、じゃあ色んな種類あるの?!僕、苺食べたい!練乳掛けて!」
     店のメニューとして出すのであれば、最低でも数種類はある筈だ。定番の苺がない筈はないとテーブルに手を乗せて身を乗り出したアルマを、神田は仕方なさ そうに片眉を上げて見遣る。
     これは味見として提供してくれそうだ。そうささやかな神田の表情の変化に目を煌めかせて笑んだアルマは、パンッと両手をあわせて軽やかに叩く。
     それに驚いたように目を丸めたラビが顔を向ければ、にっこり、楽し気にアルマが笑った。
     「そうだ!ねえアレン、それ食べている間はさ、ゆっくり休もうよ。それで、僕が代わりにお皿洗いとかするから、あとで苺…あ、練乳も乗せたやつ!食べさ せてよ。いいでしょ?」
     具合が悪くても頑張ってしまうアレンだ。その気持ちは、正直、アルマには痛い位よく解る。
     役に立ちたいのだ、いつだって。足手まといで何も出来なくて、それでも必要だと伸ばしてくれる腕に答えたい。足掻いて進んで、それを糧に足を踏みしめ、 もう大丈夫と笑いたい。
     ………そう、いつだって苦しくて呼気すら侭ならない時、涙に霞む視野にみんなを映し、このカフェにまた行くのだと、自分はこの身に潜むものと戦ってい る。
     アレンは、きっとそうした病魔とはまた違ったものを、それでも抱えて巣食わせて、必死に生きている。時折それがその身を喰らおうと顎(あぎと)を開き待 ち構えていても、抗い進む。………傷だらけのまま。
     そうして進まなくてはいけない時は、確かにある。それをアルマも知っている。けれど、それは常にずっとではない事もまた、アルマはきちんと知っていた。
     たまには誰かに甘えて休んで、ゆっくりと深呼吸をして、身体の中も心の中も空っぽにしなくては、疲れ果てて立てなくなってしまうのだ。
     だから自分にも出来る事を、免罪符付きでそっと提示した。
     今までだって食べたものの代金代わりに少しだけ働かせてもらう事はあった。出来る事はまだ皿洗いやキッチン補助などの裏方だけだけれど、それでも出来る 事はある。
     このカフェで働きたいといつも言っている自分が、また少しの我が侭と一緒に駄々を捏ねているだけ。………それなら、アレンとて申し訳なさに萎縮する事無 く受け入れてくれる。
     そう楽し気に細められた理知を孕むアルマの瞳がラビを見つめ、その隣のリナリーに笑いかけ、キッチン側に立チこちらを見ている神田に頷いた。……申し訳 ないけれど、今作っているらしい氷は破棄になってしまうとこっそり視線で謝った。
     「あら、素敵な提案ね」
     そんなアルマの意図を素早く汲み取ったリナリーが微笑みながら頷き、そっと店内側を見回した。
     まだ今日は人の入りは激しくはない。今暫くはアルマが洗浄に入っても負担とはならないペースで店は回る。そう判断して視線を戻せば、にんまり笑ったラビ が視界に入り、リナリーは苦笑した。
     ………どうやらこの食えないオーナーはアルマがこう言いだす事は見越していたらしい。
     すっくと立ち上がり、惚けたように事態を飲み込みきれずに目を丸めたままのアレンの頭を軽く握った拳で小突き、神田に何やら声をかけている。……多分、 仕込みの状態と今日のシフト変更についてだ。
     その声はアレンを挟んで逆側にいるリナリーには聞こえなかったが、アレンには聞き取れたらしい。慌てたように立ち上がろうとするアレンの肩を、やはり勘 づいていたらしい軽やかな足取りで戻ってきたラビが片手で肩を押さえてやんわりと押し止めていた。
     「え、ちょ」
     驚いたようにラビを振り仰げば、にっこりと年長者の笑みが目に映る。…………決してこちらの言い分は聞かない、甘やかす癖に聞く耳を持たない笑顔だ。
     ひくりと唇を引き攣らせてそれを見たアレンに、意図が通じたらしいと翡翠を柔らかくほころばせ、ラビはアレンの肩に乗せた手のひらはそのままに、ワクワ クと返事を待っているアルマに顔を向けた。
     「まあ仕方ないさね〜。アルマ、体調はいいん?」
     「ドクターが調子いいねって言ってたくらいだよ!」
     今日の受診でこの暑さでも体調に変化をきたしていないと褒められたくらいだ。証拠に、真夏の病院帰りにこうしてこのカフェに寄る事を許してもらえた。そ れが何よりの証拠と胸を張るアルマにラビの眼差しが優しく細められて頷いた。
     それを奥から眺めていた神田は、組んだ腕をそのままに軽い溜め息を落とし、眉を顰める。
     ……体調がいい事は喜ばしい。が、それはあくまでも変動的な最中での、運のいい一時の話である可能性は否定出来ない。
     それでも、今この場に置いて、一番動く事が出来そうにない真っ白な少年の周囲を窺う躊躇いの仕草を視野に収め、神田は苛立たしそうに頭を掻いた。
     どこもかしこも面倒な話だ。体調管理を行えば何とかなる範囲ならばまだしも、それすら凌駕する部分での事象までを当人の責任と切り捨てるわけにもいかな い。
     ならば出来る人間がそのフォローをする以外、手立てなどある筈がない。早々に思考を切り替え、神田は先程ラビに確認された一日の流れとフードメニューの 仕込みを脳内で確認し、アルマを睨むように見遣った。
     ………キラキラと期待に満ちた眼差しが、早く頷けと強請っていた。外の空気は相変わらずしんどいだろうに、それでもこの少年もまた、誰かの役に立つ事、 他者の笑顔を見出す事を生きる糧とする程に願っているのだ。
     「ちっ、仕方ねぇな。ただしちゃんと味も見ろ。じゃなきゃ作らねぇぞ」
     ならばもう、その腕を引き、背を支え、出来るところまでを歩ませる、それくらいしか自分に出来る事がない。腹立たしいが、どれ程腕に覚えがあろうと自分 達ではこの少年らを本質的な意味で生まれ変わらせる事は不可能なのだ。
     もう一度、彼らが望み歩み進む、その過程でのみ、それは実現出来る。
     だから歩めと背を向けて進み告げてみれば、パァと背後に咲き誇る、鮮やかな華の気配。
     「やった!じゃあ僕、アレンのエプロン借りるね!」
     神田がOKを出すのであれば、キッチンで動く事は実質許可されたという事だ。まだまだフロアには出れないけれど、それでも裏方でこのカフェの一員のよう に働ける時間は得難い幸福なひと時だ。
     はしゃぐような明るい声が喜びに満ちて店内を駆け巡る。それに気付いた常連達が微笑ましそうに笑みを落としていた。
     「あの、待ってくださ…………」
     自分を置いて何やら全てが決定されていってしまい、アレンは少し混乱した頭で現状を顧みる。
     店内は、徐々に客が入り始めていたが、それもいつもの常連が多い。夏休みに入り学生達が少ないせいか、今はまだ普段程には客数は少ないが、だからといっ て楽観出来るわけではない筈だ。
     ならば自分とて立ち上がらなくてはいけない。そう思いラビの手を振り払おうかと右手を持ち上げると………その手のひらを、ラビが空いた片手であっさりと 掴んでテーブルに落とさせた。
     思いの外、強引だ。そう思い目を瞬かせて視線だけで見上げた先、真っ白な髪の合間から少しだけ怒った翡翠が見下ろしていた。
     「残念アレン。もう遅いみたいさ〜?」
     戯けた声ににっこり笑った屈託のない笑み。いつも通りのその姿の中、慣れたものにだけが解る、ほんの少しのざらついた意識。
     怒っている、のか。あるいはこれは、気付かないでこの状況を作ってしまった自身の不明への、苛立ちか。
     困惑を少しだけ銀灰に織り交ぜながら、それでも仕方なくアレンは吐息を吐き出した。これはもう、どうしようもないらしい。無理に立ち上がり大丈夫と笑う のは、この不器用さを悲しませそうだ。
     どこか、彼のこうした部分は養父を思い出して困る。余計に、夏の暑さへの酩酊が増しそうだった。
     「…………ラビ、ちゃんと止めてください」
     軽い頭痛を抑えるように深く椅子に腰掛けて、長い溜め息を落としながら抵抗をしない事を教えるように身体から力を抜けば、ようやく肩を押さえ込む手のひ らが外された。
     「ん?オッケ〜☆じゃあアレン、しっかり休むさ!」
     「はい?」
     「ほら、『ちゃんと止めた』さぁ?」
     …………………それでもやはりまだ少しばかり腹を立てているのか、若干意地悪だ。そう思いながら、アレンは困ったように眉を垂らして苦笑を落とし、休む 事を教えるように器に乗せたままのスプーンを手に取った。
     そんなささやかな仕草に、けれどちゃんと含まれる意味を読み取ったらしいラビは、ようやくホッと小さく息を吐き出した。………相変わらず過保護な人だ と、こっそりとアレンは胸中で苦笑する。
     「そんな青い顔して頑張らなくても、ちゃぁんとみんな、いるんさ」
     鮮やかな緑の氷を口に含むアレンの頭を、くしゃりと軽く撫でてラビは告げ、ちらり、リナリーに目を向けた。
     ようやく口を挟んでいいのかと、アレン同様にラビの不機嫌を感じ取って控えていたリナリーが困ったように眉を垂らすアレンの顔を覗きこみ、頑張り屋の後 輩の鼻先を軽くその指先で弾いて微笑んだ。
     「だからちょっとくらいは私達にも頼っていいんじゃないかな?」
     「その代わり、元気になったら頑張ってくれればいいんさ。な、アレン?」
     「……………………………………あり、がとう………ございます」
     優しい声。優しい仕草。あたたかなぬくもりに満ちた空間。……どこか自分には不釣り合いだと思いながらも、それでも与えられた指先を、アレンは怯えなが ら掴んだ。
     あの夏の日から、始まった。静かに、ゆっくりと、それでも確かに自分を満たすもの。
     この先ずっと独りなのだと思い、言葉も笑顔も忘れ果て、ティムを抱き締め俯いていた筈なのに。少し具合が悪い、それだけで心砕いてくれる人達に囲まれて いる。
     なんて、幸せな事だろう。分不相応な程に、自分の周りは優しさで満ちている。
     訪れれば誰もに笑顔が灯る、このカフェのように。
     思い、ぎゅうとスプーンを握り締める。胸が苦しいくらい、一杯になって、困る。喉が干上がるのは、決して暑さに負けてしまったせいではない。
     それを誤摩化すようにしゃくり、アレンはかき氷を食べた。長い前髪で銀灰に浮かんだ水膜を隠すように微かに俯いて。ほろ苦い癖に甘い、深緑の鮮やかな氷 を掬う。
     「おいしぃ…です、ね。宇治金時も。海に行く時は、僕も頑張らせて下さい。約束です」
     こうして甘やかされて満たされて大事にされて…それだけでなど、いたくはないのだ。
     嬉しいけれど、それでも自分は与えてもらえた全てを返したい。この喜びを、みんなにも……訪れる人々にも、教えたい。
     こんな、ただのかき氷とて、心を織り交ぜ相手を思い、そうして与えたならば喉だけでなく心すら潤し満たす水源となるのだ。
     だから、与えてくれた全て、受け止めて噛み締めて、それをまた誰かに捧げる為に、自分も立ち上がらせて欲しい。
     そう真っ白な髪の合間、煌めく銀灰が真っ直ぐに見据えて囁く様に、カフェのオーナーは満足そうに笑って頷いた。
     「ならそれまでに暑気あたり治すさね。……さて、ユウが角出す前に俺もフロアに出てくるかな〜」
     「おまたせ!アレン、ゆっくりしててね。僕、頑張るから!」
     歩き出したラビと入れ替わるように、アレンのエプロンを借りたアルマが顔を覗かせる。そうしてカフェのユニフォームを着れば、まるで初めからスタッフの ようにアルマも見える。
     それが気に入っているのだろう、手伝う時はよくスタッフルームの姿見でユニフォーム姿を嬉し気に眺めている事がある事も、カフェのみんなはよく知ってい た。
     いつかは彼もここで働くだろう。少しずつではあるけれど、確かに快方に向かっているのだ。
     高校に入学して、晴れ渡る青空のように笑い、このカフェに駆け込んで、働きたいのだと上気した頬で意気込むだろう姿を、思い描く。
     それはなんて愛しく美しい、未来だろう。………痛みの中にいたならば描く事も出来ない、祈りの結晶だ。
     踞る事無く進み続け、足掻いた結果咲いた華。それは形は違えど誰もが携え芽吹きを待つ種から咲いた艶やかな華。
     このカフェにはそんな美しい華があちらこちらに咲き誇る。それをオーナーとして誇らしく眺め、ラビはアレン同様に頑張りすぎるきらいのあるアルマの頭を くしゃりと撫でると、眼下に座るアレンにウインクをひとつ、落とした。
     「かき氷の味見と、アルマの指導、よろしくさ〜」
     「お皿洗いくらいひとりで出来るよ!」
     ムゥッと頬を膨らませたアルマの、それでも明るい声が響く。そんな店内の片隅、しゃくりしゃくり柔らかく氷をすくうスプーンの音が響く。
     微かに俯く白い頬。長めの前髪も透き通る白。そんなアレンの面差しは、ほんのり影に隠され見えはしない。

     それでも、さらり流れる真っ白な髪の隙間、覗く耳が苺のように熟れている。


     与えられる優しさに戸惑う事ばかりの、まだ頼る事に慣れないひとりたたずむ少年。
     差し出される笑顔とあたたかな指先に躊躇いばかりが浮かぶ銀灰の瞳は、いつも揺らめいている。




     それ、でも。



     パクリ、口に含む氷が優しく溶けて喉を潤すように、注がれる慈しみがその身を優しく満たしていく。





     いつか心から零れる笑顔に染まり、喜びを奏でて歌う。
     そんな日を願ったあの夏の日の出会いから、幾度目かの夏がやって来た。
     

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