「邪魔すっぞー」
「へ?あ、おっちゃんじゃん。久保ちゃんなら今モグリんとこだぞ?」
「ありゃ、タイミング悪ぃな。まあ仕方ねぇか」
「久保ちゃんに用事?」
「用事っていうか、まあ祝いにきた筈だったんだが……」
「?」
「今年はお前がいるから、むしろ俺が邪魔かな」
「……なあ、おっちゃん?」
「なんだ」
「さっきから何の話だよ?」
「………………………」
「な、なんだよ」
「あー……そうか、そうだな。誠人がわざわざいわねぇな……悪かった。俺が気ぃ利かしとくべきだった」
「????」
「今日は誠人の誕生日なんだよ」
「ただいまー」
「おかえり、久保ちゃん!雪屋だいふくは?!」
「はい、仰せの通りに。暑いからって食べ過ぎないようにね」
「やったー♪あ、そういや、おっちゃんが来たぞ、昼間。……もう帰っちまったけど」
「そ。何か言ってた?」
「荷物置いてった。冷蔵庫に勝手に詰めてったけど」
「?中身は?」
「知らね。おっちゃんがお前帰るまで開けたら駄目って言ってたから」
「そっか。………ん〜、なんだろーね」
「早く開けようぜ!」
「はいはい。……えっと、これ?……ん?これって……」
「デッケェケーキ!なんだこれ、二人分じゃねぇだろ、この大きさ!!」
「あー、俺が半分はイけるから大丈夫」
「俺は無理っ!」
「そう言わないで、折角だから食べよ?」
「…………………」
「ん?あれ、ケーキ、食べれるよね?」
「食えるけど……なあ、それだけ?」
「ん?」
「おっちゃんがさ、言ったんだ。お前が教えてくれるって」
「???何を?」
「今日、久保ちゃんの『誕生日』なんだろ?」
「あー、やっぱそれは聞いたんだ?」
「ん。で、おっちゃんにもうひとつ聞いた」
「うん?」
「誕生日って、何する日?」
「………、………」
「おっちゃんはお前が帰ってきて、この箱開けて、そうしたらお前がちゃんと教えてくれるって言って帰っちまったんだよ」
「あれまぁ…俺に一番向かなそうな事回したね、葛西さん」
「?久保ちゃんは知らねぇの?」
「うーん…知らない、訳じゃないんだけどね?」
「じゃあちゃんと教えろよ」
「たいした事じゃないんだけどねぇ、俺の誕生日なんて」
「……っ俺は!」
「うん?」
「俺の誕生日ってのがあるとして、その日に、お前に「たいした日じゃない」なんて言われんの、ヤダっ」
「…………………………そうね」
「だから、ちゃんとお祝いってのするんだよ。だから俺様に教えろっての!」
「はいはい、照れ隠しで蹴るの止めなさいね、お前。まずはそうね、『誕生日おめでとう』から始めようか?」
「おう!」
「それから、ケーキに見合うご馳走が必要だから……宅配頼むかね。時任、好きなの頼んでいいよ?」
「久保ちゃんの好きなの選んだあとでいい」
「あれ?」
「?なんだよ?」
「………ん、なんでもないよ。それじゃあお言葉に甘えて。それからケーキ食べて、ああ、ロウソクもあるし、それもやろっか」
「??うん、ヤる」
「あとは………ね、時任?」
「?」
「一緒に住んでいる人はね、おめでとうの時、唇に言うって、知ってる?」
「?口以外で喋れねぇじゃん」
「うーん、ちょっと違うかな。ほら、おいで」
「うん?おい、久保ちゃっ」
「…………ね、ちゃんと重なった時に、言って?」
引き寄せた華奢な腰。
「〜〜〜〜〜喋れるかっての、馬鹿っ!」
唇の重なる間際、そっと甘えて囁けば、真っ赤なままの憎まれ口。
それでもちゃんと望んだ事は伝わって、躊躇いながらの辿々しい祝福の口吻けが捧げられる。
何も知らないまっさらな唇は、嘘も飲み込み無垢に変えて返してくれる。
でもね。
きっと、誰が教えなくても、お前は知らずに知って与えてくれる。
本当の事だけを見出し食んで、曲がる事もなく煌めき育つまっさらな君。
その唇が言祝ぐのなら、こんな自分の生まれた日も、少しくらいは愛しく思えるかな。
(………いつもなら俺の意見なんて聞きもしないで好きなもの、頼む癖にね)
((手段も方法も知らなくても、お前はちゃんと、祝う事の意味を知っている))
おまけ。
「そういや、お前の誕生日はどうしようか」
「?知らねぇもん」
「うん。だから、いつがいい?」
「へ?いつでもいいの?」
「まあ生まれた日だけど。解らないならいつでもいいんじゃない?」
「そーゆーもん?」
「うん。だって、会えて嬉しいって言う日だからね」
「〜〜〜〜っ、そ、そうかよ」
「うん」
「……じゃぁ……あの日でいい」
「うん?」
「久保ちゃんが俺の事拾った日」
「…………」
「出会えてよかったって、俺言っただろ。だから、その日がいい」
「……うん、そうね」

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