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気の向くまま、思うがままの行動記録ですよ。
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    残暑見舞い。

    こちらはあいつの大本命。ただし動物人間入り乱れのオカピカフェ仕様です。虎なとらちんのタイガーバーですよ!!





     日も暮れた頃、宵闇に紛れるように黒猫はひらりと塀から塀に歩を進め、軽やかな足取りで音もなく目的地の目の前に降り立った。
     しゃらん…と微かに鈴の音が首元から零れる。少し邪魔くさくそれを爪で弄るが、解く事は諦めた。………下手にそれを外しているところを見つかったら、あとが怖い。思い、何故か自分には意地悪や度を超したからかいを仕掛けてくるオカピカフェのオーナーを脳裏に浮かべた。
     ………途端、ボッと頬が熱くなって、自分自身で驚いて目を瞬かせてしまう。風邪を引いた覚えはないけれど熱でも出たのだろうか。軽く首を傾げて悩み顔で、けれど黒猫はそのまま眼前のドアを押してそっと店内に踏み込んだ。
     そこはいつも行くオカピカフェではなく、バイト先の猫カフェでもない。もっとずっとシックで落ち着いた装飾と、落とされた照明。そこにたたずむ客層もずっと年上で……少しばかり強面の肉食獣が多い。
     それもその筈で、ここはカフェではなくバー……しかも店主が虎のタイガーバーだ。
     通常であればそんなところに赴く事のない黒猫は、けれど躊躇う事もなくスタスタと中に入り込んでいった。視線の先には長身の、黄に黒の縞模様のオーナー…虎がたたずみ、ギロリとその鋭い眼差しを黒猫に向けた。
     その眼差しに晒されれば誰もが震え上がる、そんな凶悪な視線に、けれど黒猫はにこっと嬉し気に目を細めて笑い、ゆらり、長い尻尾を揺らして歩を早めた。
     「遅くなってごめん!」
     響いた声は明るく、店内にはそぐわぬものだった。もしここに客がいれば訝しそうな顔で振り返った事だろう。が、店内は静まり返り、ただオーナーの虎だけが入り込んだ迷い猫に視線を向けていた。……否、迷い猫ではない。虎自身が招いた客だった。
     「おうヨシヨシ、来たか!」
     鋭い眼差しに尖った牙を覗かせて……けれど虎はどこか無邪気な明るさを乗せた笑みで黒猫に答えた。
     とりあえず座れ、とカウンターの席を勧め、虎もまたカウンターの奥に消えた。隣に座ればいいのにとも思うが、どうやら自身の店の席に座る事は落ち着かないらしい。相変わらず働き者だと思いながら、戻ってきた虎が手にしていたコップを黒猫の前に置いた。
     それを見下ろし、パタパタと垂れていた黒猫の尻尾が揺れた。中身は甘いミルクティだ。本当はこのバーにソフトドリンクなどないけれど、酒が苦手な黒猫の為に用意してくれているものだった。
     えへへとはみかみながらそれを手に取り、黒猫はコクリ、一口飲んでからホッと息を吐いた。気付かなかったけれど、やはり日が暮れても暑いこの季節、急いで駆けてきただけあって喉はカラカラだった。
     それもこれもバイト先に訪れた西田が上がりの時間である事を知らないとはいえ、ずっと自分に構い通していたためで帰り損ねたせいだ。
     むうっと頬を膨らませかけて…けれど、悪意がないだけに怒りようもない。……実際、彼が訪れてくれるからこそ、バイト先でも必要ポジションが確立されたのだから、一方的に毛嫌いも出来ないのが悩みどころだ。
     「ちょっとバイトが長引いちゃって…、で、とらちん。何かあったのか?………まさか山中、また何かしたとか?」
     そんな事を考えながら、西田とはまた別の意味で厄介で、こちらは遠慮なく殴りとばせる原因しか持ちえない孔雀を脳裏に浮かべ、黒猫は眉を顰めて虎を見上げた。
     困った事に、あの孔雀は虎に懸想中なのだ。その癖、女の子が大好きで、このバーにやって来る黒豹やジャガーに色目を使っては虎に蹴り倒されている。………が、一番厄介な事は、この見かけによらず優しくお人好しな虎が、そんな駄目の見本市のような孔雀を憎からず思っている事だ。
     たまに孔雀からも相談をされる事があるが、そのどれもが自分の正拳突きを奮っても許される、そんな内容ばかりなだけに、幼馴染みというに値する虎の気苦労が計り知れない。
     もしも今日も何かあの孔雀が馬鹿な事をして問題を起こしたり、浮気したとか、そんな事を言い出したりしたら、今度はあのド派手な羽で爪研ぎでもしようかと少し乱暴な事を考えていると、虎は苦笑してぽんと黒猫の頭を撫でた。
     「ン?いやそうじゃねぇよ。平気。ちょっと今は顔腫れ上がってて出てこねぇけど」
     困ったような笑顔で告げるそれは……早い話、既に制裁が加えられただけで、あの孔雀が何かしらやらかした事実は既に転がっているらしい。
     やっぱりか!と毛を逆立てた正義漢の黒猫が、虎と同種である事を覗かせる切っ先鋭い牙を煌めかせながら自分を宥めるように頭を撫でる虎を見上げた。
     「…………今度俺も殴っていい?」
     優しい虎は甘い虎でもある。……結局、最後の最後、あの駄目な孔雀が本気で自分に惚れているという事実だけで許してしまうのだ。そう自覚を持っている、というだけでも凄い事なのかもしれないけれど、それでも孔雀の所行が許されるわけではない筈だ。
     むっと精一杯唇を引き締めて、いつだって自分は味方なのだと教えるように告げる黒猫に、にっと嬉し気に虎は目を細めて笑い、照れ臭そうに頬を掻いた。
     「ヨシヨシがやるこたねぇって。俺が殴るので十分。……で、今日はあいつはいいんだ。ほら」
     そう言いながらごそごそとカウンターの下を探っていた虎は、ごとんと少し重い音を響かせて取り出したらしいそれを黒猫の目の前に据えた。
     「ん?……これ、かき氷機?とらちん、バーで使うの?」
     ごつくて大きい…それは家庭用ではない、業務用のかき氷製造機だ。屋台で見かけるのと同じかもしれないと大きなつり目を瞬かせて、少し弾んだ声で黒猫が問い掛ける。
     それに軽く頷き、腕を組んだ虎は少し困ったように首を傾げた。
     「フローズンカクテルはあるんだけどな、それとは別で、かき氷にカクテル掛けて食うヤツを試そうかと思って。で、ヨシヨシも付き合ってもらえねぇかと」
     夏場にはやはり冷えた飲み物が好まれる。フローズン系も勿論数種類はメニュ−に載せているが、それとは別に、蒸し暑さにほてった身体を芯から冷やしてホロ酔いになれる、そんなかき氷を加えたかった。
     そう告げてみればきょとんと目を瞬かせた黒猫は………しょぼんと項垂れてしまった。先程までピンと立って跳ねるような動きを見せていた尻尾も萎れるように地面に垂れ下がってしまっている。
     何事かと目を丸めた虎の眼下、クルンと丸まって見える黒猫の後頭部が申し訳なさそうに揺れて小さな声を紡いだ。
     「えっと……で、でも…俺、お酒弱いよ?」
     「ああ平気、ヨシヨシは普通のこっちのシロップで食ってくれればいいし。流石によ、ひとりでかき氷作って食ってって空しいっつーか……」
     店のメニューだ、オーナーである虎が味を見て決めるのは当然だと解っている。が、しかし、それをひとり模索するにしても、この広い店内、虎がひとりガリゴリ氷をかいて咀嚼するのは侘しい。
     慣れている事とはいえ、普段のカクテルを増やすようなひとり晩酌とはまったく勝手が違う。かき氷など、虎とて記憶にあるのは黒猫達と一緒に行った祭ではしゃいで食べたものばかりで、ひとりで食べるようなものではないと思わず考えてしまう。
     そう告げてみれば、パッと顔を上げた黒猫の、大きな金の瞳が輝いた。
     「そっか、一緒に食べた方が楽しいもんな。じゃあ食べる!」
     キラキラと金の瞳はまるで星明かりのように輝いて、黒猫ははしゃぐように両手を上げて早速とかき氷機に手を伸ばす。
     それに嬉し気に笑い、虎はよく冷えた硝子の器を冷蔵庫から取り出し、一緒に冷凍庫から大きな氷塊を持ち上げて、今か今かと待つ黒猫の元に置いた。
     「おう。……どれからにする?いっそ虹色ってのもありか」
     「いいなそれ!」
     色とりどりのシロップもあると見せるその中、勿論虎が試すカクテルもブランデーも鎮座する。
     上手くそれらを避けていけるかどうか、ちょっとした運試しのようなかき氷パーティーが始まった。



     翌日。
     ………間違って食べたカルーアミルクのかき氷で二日酔いになった黒猫は虎に担がれて、明け方に虎のご機嫌取りにバーにやって来た孔雀共々家路へとつき、うっかりそれを目撃したオカピが、後日黒猫に意地悪を、孔雀に呪いを向けたのはまた別のお話。

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