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気の向くまま、思うがままの行動記録ですよ。
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    残暑見舞い。

    頑張りました。こちらは南国少年パプワです♪






     昼ごはんの片付けも終わり、掃除も洗濯も済んでしまえば、小さなパプワハウスの中、やる事がなくなってしまう。……筈もなく。
     「さて、今日は何作るかね」
     エプロンを解いて畳み、すでに慣れた思考回路で一日にこなさなくてはいけない家事をなぞっていく。
     朝も昼も山盛りに食べようと、パプワもチャッピーもおやつは欠かさない。
     素直に美味しいとはなかなか言わないけれど、それでも残す事なく平らげる仕草だけでそれは十分伝わる。喜怒哀楽が欠けたように見えた子供の無表情とて、慣れればその違いが如実に解るように、存外あの子供は解りやすい。
     そんな事を思い、シンタローは材料を探しがてらおやつを決めようと外に出た。
     ……途端、むわっと音がする程の熱気が身にまとわりついてくる。
     南国なのだから仕方がない事だが、暑い。即浮かんで流れた汗を拭い、シンタローは軽く吐息を落とした。
     「……鬱陶しい程に暑いな。ったく」
     日本のように湿気がないだけましだが、それでも暑い。冷やしたビールを飲み干したい気分だ。……そんなものはこの子供が主である家にある筈はないけれど。
     今度は残念そうな溜め息を吐き出すと、ふとシンタローは目を瞬かせた。
     「ん?そうか、久しぶりに作るかな♪」
     ビールは無理だが、他にも夏の定番の品はある。今からならば準備も出来るし、最後の主役はパプワ達が帰ってから一緒に取りに行けばいい。
     散歩がてらに歩いて、茹だる暑さに疲れた頃に手に入る涼ならば、普段の何倍も美味しいに違いない。
     そう目を輝かせる子供と犬を脳裏に描き、シンタローは再び家に舞い戻ると、早速準備に取りかかった。

     まだここに来てから作っていない、とっておきのおやつだ。


     驚きにはしゃぐ様が目に浮かぶと、知らず浮かんだ笑みは柔らかく唇を染めていた。






     タッタッタ…バン!ノックなどする筈もなく、軽快な足音のすぐあと、元気よくドアが開かれた。
     足音が聞こえた時点で振り返っていたシンタローは、ドアが勢いよく開閉する様を見て苦笑する。
     「ただいまー!シンタロー、おやつおやつ!」
     「わうわう!」
     予測に違う事なく、シンタローの視線の先にはパプワとチャッピーが楽しげに跳ねながら駆け込んできた。
     ……泥だらけのままの両手足でキッチン前に立つシンタローの元に駆け寄るより早く、シンタローの方が歩を進めた。
     そうして目を輝かせた子供と犬の両方をそれぞれ片腕ずつを使って抱き上げ、一緒に今入ってきたばかりのドアを潜り抜けた。
     「はーいはいはい、おかえり。ったく、ちゃんと泥落としてから入れっての」
     ちゃんと泥を落としてから入るのがおやつの時の鉄則だ。
     何度言っても忘れると軽い溜め息で窘めながら、それでもシンタローの声は怒ってはいなかった。
     それを腕の中で見上げながら、パプワはこっそりチャッピーと笑いあった。
     ……こうして叱る癖に彼は抱き上げて水場まで連れていってくれるのだから、自分達が治す筈がないのだと、いつ彼は気付くだろうか。
     出来ればずっと気づかないままでいてくれればいいと思いながら、パプワとチャッピーは冷たい井戸水で手足を拭った。
     「で?今日は何人連れてきた?」
     「エグチくんとナカムラくんがあとで来るぞ。それから」
     さらさらと滑る水滴を切りながら既に恒例と慣れきっているシンタローの人数確認に答えかけ、パプワは一瞬言葉を途切れさせた。
     同時に、不穏な気配がシンタローの傍らから湧き、ゾクリと背筋に悪寒が走った。
     「はぁい、シンタローさん、呼・ん・だ?」
     「あたし達はいつでもあなたの傍にいるわよ♪」
     ………文字通り湧いて出たイトウとタンノにもはや驚く事もなく、シンタローは即座にすりよる体躯を蹴倒して地面に叩き伏せた。
     「お約束な方々め!堂々とストーカー宣言すなっ!」
     まったくと腰に手を当てて告げる様は、乱暴な物言いの割に保父のような響きが垣間見える。……悪戯ばかりの子供を窘めるよりは、少しばかり荒々しい手段だが。
     そんなシンタローとイトウ達を見遣りながら、パプワはその手に日の丸の扇子を広げて掲げ、チャッピーと顔を見合わせながら、先程途切れた言葉を繋げた。
     「イトウくんとタンノくんは家の前にいたぞ。な、チャッピー!」
     「わう」
     「不審者を家に招いてはいけません!」
     明るく響くパプワとチャッピーの声に即座に被さった叱りつける声。
     その響きが消えるより早く、シンタローの足元に沈んでいたイトウとタンノがよよと涙を拭いながら身を寄せあって嘆き合っていた。
     「ひどいわ~、乙女の顔を足蹴にして」
     「耐えるのよイトウくん。堪え忍んでこその大和撫子よ!」
     ……明らかな当て付けの、幼い子供の構って攻撃にも類似したその仕草を、シンタローは半眼にした眼差しで切って捨てた。
     「そんな決まりはないし、貴様らは生体自体違う」
     同時にまた響くわざとらしいすすり泣きに溜め息をひとつ落とし、いつもの事とすでに慣れてしまっているパプワ達がしっかり手足を拭き終わったのを振り返りながら確認した。
     差し込む日差しはなお爛々と照っている。ただ立っているだけでも汗が滲むそれに、思い出したようにシンタローは暗雲を背負い湿気を増産しているナマモノ二匹を見遣った。
     「そうだ、こいつらでもいいか。パプワ、チャッピー、それからお前らも、いくぞ」
     調度人手が欲しいところだ。どうせ追い払ったところで群がるならば、初めから手伝わせた方が御しやすい。
     そうまたこの二匹が自分にまとわりつく免罪符を、知らず作って与えるようにシンタローが口ずさんだ。
     「?どこにだ?」
     突然の言葉に、キョトンと不思議そうな響きを混ぜたパプワの声が呟く。それに同意するように他の面々もシンタローを見遣った。
     そんな眼差し達に楽しげな笑みを浮かべ、シンタローはほんの微か、謎掛けじみた音色を零す。
     「おやつを取りにだよ」
     「あら、今日は果物?」
     「違う。氷を取りにいくんだよ」
     返された問いかけに、シンタローは悪戯を仕掛ける子供と同じ輝きを乗せた瞳で答えた。





     島の中心に程近くある大きな洞窟の中、息を白く染めながらシンタローは籠の中に積み上がった氷の塊達に満足そうに頷いた。
     「よし、こんなもんかな!」
     「贅沢なくらい氷を積み上げたわね、シンタローさん」
     各々が担ぐとはいえ、かなりの量だ。とはいえ、それでもパプワ島の暑さを考えれば帰りつく頃にはささやかなものに変わるかもしれない。
     いくら洞窟内には豊富に氷が存在しようと、やはりあまり馴染みがないのは、輸送手段が徒歩しかない事と、保冷する技術に難があるという現実だろう。
     そんな事を思いながら氷を担ごうとして…随分大人しい子供達を訝しそうにシンタローは振り返った。
     同時に、脱力した。あまりにそこには予想通りの姿が展開していたからだ。
     「わーい、氷像氷像♪」
     「わうわーう♪」
     一体どこをどうやって作り上げたのかは謎だが、何やら一心に氷を彫っていたらしいパプワの、跳ねて踊る中心には梟の氷像が鎮座していた。緻密で精巧な出来のそれの芸術的価値はシンタローには解らない。が、現実的にひとつ、確実な事実は知っていた。
     「削っちゃいけません!おやつが減るぞ!」
     ぴしゃりと叱りつけるように氷像を指差して折角掘削した氷を小さくしてしまった事に眉を顰めた。
     それに微かにパプワの眉が寄る。……折角の作品を見てもらえなくて少しばかり拗ねたようだ。しまった、とは思ったが、それでもこちらも理由があって氷を必要としているのだと、背を向けて新たな塊を掘削すべく手を動かした。
     その背中を仕方が無さそうに見つめたイトウが、間を取り持つように問いかけた。
     「あら、氷を食べるの?」
     「おやつは丹精込めて作らんか!」
     イトウの言葉が終わるより早く、当然シンタローが答えるような間は待たず、拗ねた子供は傍らの牙を輝かせて待つチャッピーと阿吽の呼吸でつれない背中に攻撃を仕掛けた。
     「イッデー?!違う、誤解ですご主人様っ!」
     毎度のそのやり取りにイトウとタンノは顔を見合わせて小さく笑い、随分と幼い我が儘を口にも態度にも出すようになったパプワを微笑ましそうに見つめた。
     ………どうしたってこの島の中心に存在するパプワは、子供らしい我が儘をなかなか漏らさなかった。
     それがシンタローがこの島にやって来てから、まるで見違えるように甘えて困らせて心を通わせている。きっとそれをどこかで知っているのだろう、パプワの少しばかり横暴な甘えも彼は結局は許してくれる。
     そう教えるようにチャッピーに噛みつかれて痛む身体を軽く摩りながら、少しぶっきらぼうな顔をしてもきちんと顔を向けて答えてくれるのだ。
     「ったく、これ削ってかき氷作るんだよ」
     怒らせても、ぶつかりあっても、それでもちゃんと目を合わせて言葉を向けてくれる。
     それに一歩、歩を進めてシンタローの傍らに立ったパプワが彼を見上げながらやっと満足そうに目を煌めかせて問い掛ける。
     「かき氷?なんだそれは」
     それに膝を折り、子供の首が痛まぬようにしゃがんで視線を合わせ、シンタローはぽんと積み重ねた氷を叩いて笑った。
     「実はこの間トットリが来てな。ミヤギが暑さにバテたからかき氷作りたいって機械持ち込んだんだよ」
     流石に文明の利器のないこの島の中、氷はあれどかき氷を作る為の機械がなかった。かち割り氷くらいならば出来るが、やはり甘いシロップに冷えたフルーツを好き好きに盛り合わせて頬張るかき氷には敵わない。
     氷の在処と、それからシロップ作り。今度この機械を貸すという約束で手伝ったそれらの結果、今パプワハウスにはかき氷の機械が子供達にお目見えするのを、シロップと果物共々今か今かと待っている。
     そう楽し気に弾んだ声に目を瞬かせ、首を傾げたパプワは、ぽんっと音がしそうな程鮮やかに日の丸センスを広げると、チャッピーとともに先程の梟の氷像を讃えながら問い掛けた。
     「ほう、で、それはどんな氷像だ?」
     「氷像から離れろっての!サラサラの粉雪みたいにして、甘いシロップかけて果物飾るんだよ。暑い時にはもってこいだろ」
     だから沢山の氷が必要なのだといってみれば、ようやく納得したのか、パプワは己の作り上げた氷像を見上げ、次いで籠の中の氷の塊を見遣った。
     その背後では早速と籠を背負い、イトウとタンノがはしゃいで手を叩き合っている。
     「あら、美味しそう♪」
     「氷がおやつになるなんて、パパに教えてあげなくちゃ」
     「あら、それならあたしだって!」
     ………途中から、どうやら親にシンタローを紹介するという名目にすり替わり、火花を散らせ始めたが、最早シンタローは視界に入れようとしていない。ただまたかと溜め息を落として己の分の籠を背負った。
     そんなシンタローの手を、グイとパプワが引いた。
     どうかしたかと見下ろした先、パプワが決めた、と明るく高らかに宣言を下した。
     「いっそみんな呼んで氷像コンテストも開催しよう!」
     「おいおい、かき氷からずれてるぞ」
     また何かおかしな事が決定されたと、シンタローが慌ててまったをかける。が、それが無駄である事くらい、シンタロー自身十分身に染みて理解していた。
     子供の目が輝いている。その隣、チャッピーの尻尾がはち切れんばかりに振られていた。
     「大丈夫!最後は溶ける前に食べればいいんだ!そうと決まれば、チャッピー!」
     「わぉん!」
     ワクワクとした声が幼く響く。シンタローの答えなど待つ事もなくパプワはそう告げながら、チャッピーとともに駆け出してしまった。
     きっと洞窟から出て、早速島中の住民達を呼び寄せた思いついたそれを楽しもうと準備に取りかかるのだ。
     「ったく、結局また島こぞってかよ。お祭り騒ぎの好きな方々め」
     そうぼやきながら、それでも昼間に作りおきしたシロップの山は、島のみんなの舌を満たしてなお余る。
     どこかで予感した……というよりは、きっとかき氷を食べれば他のみんなにもとはしゃいで呼び集めてしまうだろうパプワが目に浮かんだからだ。
     毒されているな、と思いながら、子供が鮮やかに作り上げた氷像を見つめる。

     溶けるより早くこの氷達が喜びの笑顔に変わる瞬間を思い描いて。



     ………浮かんだ笑みだけは、気付かなかったふりをした。

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