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気の向くまま、思うがままの行動記録ですよ。
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    試しに。

    ツイッターでお弁当屋さんの虎徹さんの小説の続く(?)を書こうにもお弁当のおかずに悩んでなかなか書けないんじゃいー!と嘆いていたら、仕出し弁当のメニューでも見とけとヘルプしていただいたよ。
    だがしかしそんなヘルプをくれた神奈川県民は支部に在住していないので何の話しだそれ?なわけで。

    折角なんでちょろっとお弁当屋さんの虎徹さんと、ヒーロー達&ユーリさんのお話をここにも投下させていただきますよ。

    虎&兎に関しては支部オンリーでやってるので、何それ?と思われた方はそっと見なかった事にしておいて下さい。
    そして案の定も字数オーバーだったので2つに分けますよ。
    こちらは空、薔薇&龍、炎、折紙です。


    そして今月号のSQ読みましたよー!!!
    うん、死んだと思われた人続々復活の中、未だ危篤状態(待て)のラビの存在が見当たらない事だけ嘆こうと思う。
    でも今月号のネタバレは書きたい。だがしかし、微妙に時間がない(明日はチビ達のお泊まりです)

    …………上手い事時間見出せたら褒めてやって下さい。




    来客:キース・グッドマン


     たったっとリズムよく走りながら、ジョンと一緒に店を目指した。
     ブロンズの公園の近く、長閑な一帯にあるこじんまりとした店。そこが見えると、ジョンはもう駆け出したい!と言うように大きく吠えて尻尾を振っていた。
     同じ気持ちでスピードアップに付き合うと、程なくその店…和食弁当『ワイルドタイガー』に辿り着いた。
     「こんにちは、ワイルドくん!」
     注文用の窓から少し弾んだ声で挨拶をすると、奥で準備をしていたワイルドくんが振り返る。
     すらりと細身で長身、不思議な形の顎髭は、店名であるタイガーの牙を真似たらしい。……前に弁当を買いに来たお子さんがネコちゃんだ!と言っていたけれど、彼は頑に牙である事を主張している。
     もっとも、子供達がネコと言っても気にした風もなかったけど。……私が聞いたら叱られてしまった。悲しい。
     そんな事を思い出してヘニャンと眉が垂れかけたが、振り返った彼は笑顔でエプロンで手を拭きながらやって来た。
     「おう、いらっしゃい。お、今日はジョンも一緒か!」
     うん、いつも通りの笑顔だ。嬉しくてこちらもつい笑顔になる、そんな笑顔なんだ。証拠に、ソウルメイトであるジョンも彼が大好きで、彼に名を呼ばれると普段は聞き分けがいいのに、大きな身体をビョンッと伸ばして受け取りの小さなカウンターに前足を乗せてしまう。
     初めは慌てて駄目だよっと叱ったっけ。……何せここはお弁当屋さんだから。食べ物屋で犬は御法度だという事くらい、私だって理解している。けれど彼は元気がいい犬だと笑ってジョンの頭を撫でて、後で拭くから気にするなとジョンの足跡がついたカウンターを途方に暮れた顔で見ていた私に言った。
     そして、それ以来すっかりこの店の虜だ。彼の作るものは彼の人柄そっくりに、優しくてあたたかい。たまに内緒だと言っておまけをしてくれたりもする。
     彼の作ったお弁当をドッグランでジョンが遊んでいる間に食べる。それは休みの日の光景として定着してしまった。ちなみに、最近はウインナーがタコさんになったんだ!初めに見た時は驚いた、とても驚いたよ!
     何でもお子さんが買いにくるとそうしてあげていたらしい。間違えて私のお弁当にもそれを入れてしまった時、その可愛らしさにびっくりして、思わず食べ終わった後にそのまま舞い戻って感激を伝えてしまったくらいだ。
     そうして、彼はそんな些細なやり取りを覚えていて、またやって来た時にこっそりサプライズしてくれる。そんな素敵なお店なんだ!
     「うん、散歩の途中だよ!ここは公園が近くて素敵だね」
     ニコニコと中心地では珍しい大きな公園…ドッグランも併設してくれているそちらの方を眺めながら言うと、同意するようにジョンが吠えた。
     「俺もそれが気に入ってる。この辺り長閑だしな」
     ジョンの鼻先を撫でながら彼が頷いた。私も頷く。この辺りはシュテルンビルトの中心であるジャスティスタワー付近だと忘れるくらい、のんびりと、そしてどこかレトロであたたかい雰囲気に包まれていた。
     「そうだね。あ、日替わりをひとつ頼むよ!あと日替わりミソスープも!」
     「みそ汁な。お前いつもそれだよな。あ、今日豚汁だけど、平気か?」
     注文に「なかなかみんな覚えねぇんだよなぁ」と言いながらいつもの訂正を入れられた。でも、知ってる。彼がそうやって軽口を叩いてくれるのは、ここの常連に認定されているからだ。
     ジョンと二人顔を見合わせて思わずにっこりしてしまった。好きなお店の人と親しくなれるなんて、素敵だ!
     「うん、ここでは見た事がないから、平気な筈だよ!」
     「あ、やっぱ駄目なのあるんだな」
     そうして答えた返事に、彼はクスクスと悪戯っぽく笑った。しまった!彼にはまだセロリが食べられない事を言っていない!
     「!引っ掛け?!」
     ガンッ!とショックを受けてオーバーリアクションをしてしまうと、きょとんとした彼は首を傾げた。
     「え、そこまで驚かんでも。食えないものくらいあるだろ」
     それに彼は笑った。ジュ、ジャッと何か炒めている音が微かにその合間に聞こえた。日替わり弁当を作ってくれているんだ。その声はまるで呑気で今のやり取りを気にした風もない。
     ……多分、彼は好き嫌いくらいは仕方ないと思ってくれるだろう。
     それでも食べられない物があるのは、食べ物自身にも、それを精魂込めて作っているだろう農家の方にも申し訳ない。
     「……うう、でも食べ物は悪くないのに食べられない私…悲しい。そして申し訳ない」
     しゅんと項垂れる私にカラカラと明るい、彼のおおらかな笑い声が響いた。
     能天気と言われやすい私だけれど、意外と色々な事に凹んだり躓いたりもする。けど、こうやってそんなもの気にもしないで笑い飛ばしてくれる彼の声を聞いていると、不思議とすぐにポジティブに戻れるから凄いと思う。
     「気にすんなよ、そこまで。あ、そういやジョンにクッキーってやっていいか?」
     「え?ジョンに?……その…申し訳ないんだが……」
     が、彼の申し出に再びしゅんと肩を落としてしまった。犬は人の食べ物を食べてはいけないのだ。私達の食べ物は、彼らには緩慢な毒になる。
     彼の心遣いは嬉しいけれどどうしようと項垂れると、すぐにその意味に気付いたように彼は優しく笑った。
     「あ、砂糖不使用の犬用だぞ?」
     ほら、と見せてくれたそれは、ビニール袋に入った骨の形をしたプレーンなクッキーだった。型抜きとかとは違い、プクリと膨れていて一見クッキーっぽくはないけれど、そうと言うからにはクッキーなんだろう、きっと。
     「それならぜひ!……あれ?ワイルドくん、犬を飼っていたかな??」
     顔をほころばせて大きく頷くと、彼は袋の中からひとつ取り出し、ジョンの鼻先に押し付けた。ジョンは目に見えて嬉しそうにはしゃいで、ぱくりと大きな口でそれを食べてしまう。
     ………本当に大きな口だったから、彼は少し驚いて引け腰だ。まあ大型犬の口は彼の手くらい一口で噛めてしまいそうだから、当然かな。
     「ん?いや、雑誌に載っててさ、作り方。で、試しに作ってみた。味、解んねぇけどな」
     そう思いながら問い掛けた疑問に、彼はさらりと嬉しい事を言ってくれる。
     きっと雑誌を見て、ジョンの事を思い出してくれたんだ。ジョンのご飯はここでは買えないから残念だと言った私の言葉も、もしかしたら思い出してくれたかもしれない。
     「いや、喜んでいるよ、凄くね!ありがとう、そしてありがとう!」
     だからそんな気持ちが伝わるように大きな声で感謝の言葉を贈った。彼は照れたみたいに頬を掻いて、ビニール袋をギュッと縛ると、そのままこちらに渡してくれる。……あれ、これ、全部?
     「ははっ、じゃあ後で食わせてやってくれ。ほい、これはお前の飯な、毎度あり」
     持っていても仕方がないと言いながら渡されたクッキーは結構な量だ。いいのかな、これ…買ったらそれなりにするのに。
     でも犬を飼っていない彼が持っていても、確かに宝の持ち腐れだ。感謝して受け取り、今度絶対にお礼をしようと決めた。
     「ありがとう!また来させてもらうよ!クッキーのお礼もしたいしね!」
     「気にすんな。また飯買いに来てくれりゃ十分だ。じゃーな」
     代金を支払ってそう言うと、本当にまるで気にしていない声でワイルドくんは言った。
     ……でもやっぱり、嬉しかった事には嬉しかった事を返したいな。さて、彼は何が好きか。そこから考えないといけない!

     ね、ジョン、君によく似たぬいぐるみとか、喜ぶかな??


    来客:カリーナ・ライル&ホァン・パオリン


     ニコニコ嬉しそうに弾む足取りでホァンが腕を引っ張った。美味しいお弁当屋さんがあるんだ、そう言って連れて来られたのは、ジャスティスタワーから程近いブロンズの、けれど長閑なレトロ感溢れる一角だった。のは、いいんだけど。
     「ほら、ここだよ!美味しいんだ!」
     そう言って指差されたお店は、『和食弁当ワイルドタイガー』。やだ、ちょっと、ここって、あいつの店じゃなかったっけ?
     実はここの店長はあたしの働いているバーの常連で、ロックバイソンと仲がいいみたいで、よく飲みにきてる。その上、少し前に酔った客が茶化しに舞台に上がっちゃった時、マスター達が助けに入るよりも早く鮮やかに、あっさりそいつら追い払ってくれたりもしたのよね。
     ……お礼言おうと思ったら騒がしちゃったからってそいつもすぐに帰っちゃって、タイミング無くなっちゃったし……ずっと気になってたんだけど。
     「ふ、ふ〜ん…和食専門なのね」
     どうしよう。一応バーでは化粧の仕方は変えているし、あいつは鈍感そうだから気付かないかもだけど……平気、かなぁ………?お礼いうなら、もうちょっとちゃんとした恰好で、大人っぽく決めていたいし、うん、今日は素知らぬ顔!決めた!
     「うん!あ。でもスシバーじゃないよ。平気?」
     「平気よ。興味あるし、行こう」
     一瞬焦ったあたしにしっかり気付いていたホァンに口早に言って、今度は隣同士で歩いてお店に近付く。
     あ、背中が見える。思った通り背が高いわね。なんか調子の外れた鼻歌、歌ってるわ。
     「こんにちはー、タイガー!」
     そんな事を観察していたら、隣で元気な挨拶の声。……えっと、あたしは…黙っておこうかな。いきなりしゃしゃり出るのもおかしいよね?ホァンに連れて来られたんだし、うん、メニュー選ぶ時でいいや。
     でもタイガーって……あ、もしかして、店名から?なの?まさか本名じゃないわよね??
     「おう、いらっしゃい、ホァン。元気だな。ん?今日は友達も連れて来たのか?」
     ニコニコ笑って受け渡しカウンターにやって来たそいつは、細くて長い、でもしっかりと筋肉のついた綺麗な腕でホァンの頭を撫でた。あ、なんか羨ましい…かも。いや、別におじさんに頭撫でられたいとかじゃなくてね?!うん、これはきっと、あたしももっとスリムに、でも引き締まったボディーになりたいっていう願望よ!きっとそう!
     「うん!カリーナって言うんだ。美味しいって宣伝したよ!」
     ニコニコした笑顔でやり取りをしている二人。……仲、いいんだホァン。
     「ははっ、サンキュー。……ん?カリーナ……って、あれ……?」
     「!な、何か?!」
     あ、あたしの顔見てあれ〜?みたいに首傾げた?!嘘、気付かれた?!だってバーも薄暗いし、あんた別にあたしが歌っていても顔見たりしないわよね?!
     ドキドキしながらホァンの後ろでちょっときょどった声出しちゃった。へ、平気よ、カリーナ!こんな鈍感そうな男にはバレないから、堂々としなくちゃ!
     「ん?いや、なんでもねぇわ。それより今日は何にする?」
     よし!ほら、やっぱり気付かなかった!………なんだか残念だけど、いいの、これで。一応高校生が働くには適切じゃない事くらい、知っているもの。
     「僕デラックス大盛り!」
     話がそれた事にホッとしながらメニューを見ているあたしの隣で、元気よく手を上げてホァンが答えていた。
     いつも通りって感じだけど……ねえホァン…このデラックスって、ほとんどのおかずが入っているわよ?それの大盛りってどう言うこと?
     タイガーも呆れ…てないわね。むしろ嬉しそう?まあそうか、自分が作ったもの一杯食べてくれるんだもん、嬉しいよね。
     そう思いはしても、やっぱりカロリーが気になる年頃だから、あたしは控え目に。
     「あたしは……ヘルシー弁当お願い」
     メニューを指差していった時、ネイルが傷付いてるの発見しちゃった。き、気付かなかったよね?いつもはちゃんとしてるのよ?ちょっと今日はトレーニングしたあとだったからで……本当なんだから!
     「ほいよ。……しっかし、ヘルシーで足りるか?」
     「僕、絶〜対無理!」
     ………二人ともまるで気にしてない。いいんだけど!もう、おしゃれに気を使う女の子の事、考えてもいいんじゃないの、おじさんっ!
     「足りるわよ。それに昨日一杯食べちゃったから、カロリー押さえないと」
     少しむくれて答えたら、くすりとタイガーが笑った。あ、なんか…優しい顔。
     「ダイエットか?」
     「体調管理よ!もう、デリカシーないんだからっ」
     とか思ったのに、何それ!もう、ほんとにおじさん何だからっ!!
     睨みあげてみればすぐにホールドアップ!と両手を上げちゃう。完璧子供扱いだわ。
     「悪い悪い。でもそれなら、あんまセーブし過ぎもよくねぇぞ?エネルギーと運動量が合わないと、身体は脂肪溜めてエネルギー蓄積しちまうからな」
     何かの白身魚を焼きながら、タイガーが言った。ちゃんと、そういうのも知ってるんだ、意外。
     「そうなんだ?」
     「知ってるわよ!ちゃんと考えてるわっ」
     でも素直に感心しているホァンをよそに、つい意地になっちゃって可愛くない態度とっちゃった。もう、どうしてあたしってこうなのかしら………
     緊張したり照れたりするとすぐこうなっちゃって、ブルーローズのイメージも、そんな面接態度で決定しちゃったんだもの。ヤになっちゃう………
     ちょっと落ち込んで俯き加減のあたしの頭に、コツンと何かが当たった。
     何、と思って見上げれば、真っ白な紙コップ。の奥に、ふんわりした温かいオムレツみたいに笑ってるタイガーがいてびっくりした。
     「お、偉い偉い。じゃあこっち、これはおまけ。待ってる間に飲んどきな」
     ホァンにも差し出されていた紙コップ。小さな声でお礼を言って、両手で持った。……あったかい、な。
     「わ♪ありがとう!これなに?」
     「ジンジャーハニーのホットレモネード。身体があったまるし、喉にもいいぞ?」」
     嬉しそうにはしゃぐホァンにニコニコ笑っていいながら、こっそりあたしにウインクした。
     「!」
     バ、バレて……た?あたしがバーで歌っている事も?この間…助けてもらったの、も?
     全部知っていて、気付いていて、でも、ホァンがいるから、黙っていてくれたの?
     ………なによ、大人ぶっちゃって。ぎゅっと紙コップを握り締めて、顔が上げられないでもっと俯く。絶対、真っ赤だもの!
     「そっか〜美味しい〜♪」
     嬉しそうなホァンの声。ニコニコしたタイガーの気配。小さく聞こえるのは、タイガーがお弁当を詰めたり作ったりしている音。
     その合間、俯いちゃったあたしに気遣ってか、そろり、もう一度頭を叩くように撫でられた。
     「あんま無理すんなよー。適度に適当に、が大事だぞ?」
     いたわる声だ。それに胸が苦しくなって、まだこの間のお礼だって言ってないのに、また優しくしてもらえて、どうしていいのか訳が解らなくなっちゃった。
     「わ、解ってるわあの……ありがとう……」
     結局、あたしは握り締めた紙コップにこっそり口を付けながら、口籠るみたいに小さく、それだけ言った。
     「おう」
     くつり、笑うみたいにそうタイガーは答えてくれて、疲れたらまたおいでって、ホァンにするみたいに頭を撫でてくれた。
     まるであたし、子供、みたいだけど。でも、大きな掌はあったかくて気持ちよくて。

     ………ホットレモネードに免じて、今日だけは失礼な子供扱い、許してあげるんだからっ!


    来客:ネイサン・シーモア


     「いらっしゃ……ってお前かよ」
     「まあ失礼しちゃう!ちゃんと接客しなさいよ!」
     コンッと受け渡しカウンターの窓を叩いてみれば、愛想良く笑って振り返ったタイガーはウゲッとばかりに顔を顰めた。もう、失礼ね、こ〜んないい女が折角自ら来てやったっていうのに!
     綺麗に磨き上げた爪先を彩るライトストーンでキラキラした指先を、間抜けな顔で唇を尖らせた子供みたいなタイガーの頬に突きつけて、少し意地悪。
     これくらい、可愛いものよね?最近付き合い悪いんだから、ちょっとくらい許しなさいよ?
     そう思っていたら、きっと同じ事考えていたのね。ムウッと困ったような顔をして、それからタイガーは腕を組んでそっぽを向いちゃった。あら、拗ねたのかしら。
     「前にやったら大笑いしたのはどいつだ?」
     ああ、そういえばそんな事もあったわね。一応弁えてって初めは接客してくれたわ。あんまりにもらしくなくてつい吹き出しちゃったけど。
     「だってねぇ?牛ちゃんの飲み友達の接客なんて……」
     組んだ腕に肘を置き、その先の指先を頬に添えてクスクスと思い出し笑いをしてみれば、真っ赤になったタイガーちゃんったら、もうこの話おしまいっ!って言って大きく手を叩いちゃったわ。
     「はいはいっ!で?今日はっ?」
     真っ赤なまま、注文は何だというのは可愛いけど。つまらないわね、もっと遊びましょうよ。……って言いたいところだけど、残念。あたしも時間、あまりないのよね。
     「会議用に10個。日替わりでいいわ」
     しれっとした顔で改めてお客様をしてみれば、思いきり顔を顰めたわ、この店員…いえ、店長かしら。だめよ?ちゃんとどんな時も笑顔の接客しないとね?
     「またかよ!せめて電話予約しやがれ!」
     「なによ、前に50個頼んだらふざけんなって断った癖に」
     「ひとりで切り盛りしている奴に無茶ぶりすんなっ」
     がうっとトレードマークのお髭みたいに牙を剥くけど、威嚇にもなってないわよ。
     だって知っているもの。そんな風に言っても、頭の中じゃ、何詰めれば喜んでもらえるかな、とか考えちゃっているでしょ?目が輝くからすぐバレるの、絶対に気付いていないのよね。
     この間だってこんな事言っておいて、それでも調度定休日だったからって頑張ってくれた癖に。おかげでうちの会議でのあんたの弁当ってば、評判上々。別の弁当だとテンション下がるんだから、責任とりなさいよ?
     「だからもっと店舗拡大しなさいよ。うちの会社の敷地、貸すわよ?」
     そんな事を考えながら、前にも打診した事をもう一度、軽い調子で問い掛けた。
     「お断りします〜。俺はここがいいの」
     そうしたら、やっぱり軽い調子で振られちゃったわ。もう少しくらい、悩みなさいよね。
     「カミさんだってここが好きって言ってたんだ。移る気ねぇぞ」
     あーあ、いい笑顔零しちゃって。見ているこっちがあてられちゃうわ。
     「勿体ないわねぇ〜」
     ほうっと小さく息を吐いて、残念そうに頬に手をあて、眉を垂らして首を振る。
     ここの弁当も、このお馬鹿ちゃんも。放っておくなんて勿体ないのに、どっちも意固地に動かないんだから仕方がないわ。
     「それに、ここにだってわざわざ通う奴らがいるんだ。移ったらそいつらこれねぇじゃねぇか」
     折角みんなと仲良くなったのにと唇を尖らせてテキパキと弁当におかずを詰める後ろ姿は見ていて飽きないくらい、セクシーよね。
     「まああんたファン多いものねぇ」
     ご近所様も、ちょっと遠くからも、勿論、ジャスティスタワーに勤めている人間も、大体みんな、ここのファン。知らないでしょうけど。
     「この辺り和食が少ないからな」
     嬉しそうな顔をしてまあ、言ってくれるけど。あんた、全然解ってないんじゃないの?
     「……相変わらず鈍感ね」
     思いのベクトルはそれぞれ違うでしょうけど、みんなみんな、この店に来るのは美味しいヘルシーな和食弁当の為だけの筈がないでしょ。


     ………その笑顔にまた頑張ろうと、心でも食んで、帰るのよ。


    来客:イワン・カレリン


     どうしよう。どうしよう。どうしよう。
     なんだかずっとそんな事を考えていた。だって、こんな事言っていいのか、全然解らない。
     でも言わないと。だってもう明日だし。それに、ほら、ずっと僕が注文するの、待ってくれているんだから!
     「あ、あの、煮魚って、ありますかっ?」
     そう思って精一杯の勇気を振り絞っていった言葉は。
     …………自分でも、意味不明だった…………
     「へ?煮魚?」
     違います。そうじゃないんです。言いたい事はもっとあったんだけど、でもそれが言葉にならなくて、タイガーさんの目を瞬かせている驚いたっていう顔も、申し訳なくて。
     どんどんどんどん、色々なものが積み重なって、肩が落ちて、顔が俯く。……声も、小さくなって口の中でしか響かなかった。
     「あ…えっと。……その……」
     ああ、また困らせてる。迷惑ばっかり掛けてるんだ、僕は。ただ僕は、ほんの少し、話がしたかったんだ。昔からヒーロー達のお気に入りの店。誰も絶対にインタビューでも教えない、みんなが大事に守ってるお弁当屋さん。
     だから、きっとこの人なら一杯知っていると思ったんだ。ヒーローって知らなくても誰よりも関わっているから、僕みたいなみそっかすヒーローの話なんてつまらないだろうけど、でも、聞いてくれたら。
     こんな僕だし、駄目駄目だし、見切れる事しか出来ないし、能力だってヒーロー向きじゃないけど。でも、だから………
     「う〜ん、煮付けだよな?あんま弁当にはむかねぇなぁ」
     グルグルと考え込んでいたら、無言で俯いていた僕に困ったような声が降ってきた。しまった、僕、また考え込んで黙っちゃったんだ!
     「そ、そうですよね。すみませ……」
     ああああああもう台無しだ。訳解らない事言って、しかも黙り込んで俯いて。どれだけ態度が悪いんだろう。絶対に嫌われた。どうしよう、早く逃げたい。もうこのお店に来れないのかな?ああそれは寂しいし悲しい。でも僕が悪いんだ。仕方ないや………
     「ああ、待て待てっ!おい、お前、今日の夕飯決まってるか?」
     慌てて踵を返した僕の首元をガシッとカウンターから身を乗り出したタイガーさんが捕まえた。ちょっと、苦しい。けど、そんな事、今胸の中で重く渦巻いているネガティブ思考に比べたら、なんて事はない。
     ビクビクと怯えながら、怒った顔をしているだろうと思ったタイガーさんを見上げてみれば………なんでだろう、タイガーさん、困ったなっていう風に、笑ってた。
     「え?」
     なんで?怒っているんじゃ、ないんだ?でも僕、迷惑しか掛けてないのに。変、だったし…………
     「夜でよければ作ってやるぞ。ただし、そこのちっこい机で食う事になるけど」
     それなのにタイガーさんは顎でお店の中の、多分彼が休憩に使っている机を示して、そんな嬉しい事を言ってくれた。
     「いいん……ですか?」
     だって、僕ですよ?たいして話もしないし、いつもメニューだけ見て、選んで、それで帰っていっちゃう、僕ですよ?
     それなのに、いきなりいった訳の解らない我が侭、叶えてくれるんですか?これ、ドッキリかな。もしかしたら、彼の背中に見えるドアから、あのお決まりのロゴ入り立て看板を担いで誰か出てくんじゃないかな??
     「いいぞ?どうする?」
     でも、タイガーさんが笑って頷いてもそんな事態にはならなくて。
     「ぜひっ!」
     僕は泣きそうな気持ちで、精一杯の力を込めて頷いた。


     ごくりとドアを前にして喉を鳴らした。ここ…入っていいって言われたけど。言われた通りに来る30分前に電話して、その時に許可してもらったけど。
     いいのかな?本当に僕なんかが入って、いいのかな………
     そんな事を思っていても、やっぱり誘惑には勝てなくて、ドアを前にしても漂ういい香りにお腹が鳴った。……入ろう。待ってくれていたら、悪いし。嫌な顔されたら帰ればいいや。
     「……お邪魔します」
     「おー。座れ座れ。調度出来たぞ」
     小さな声で挨拶をすれば、その倍以上の声と明るい笑顔が返された。
     あれ…なんだろ………なんだか、ふわふわ気持ちがする。うん…なんか、嬉しい?みたいな、感じ。だって、変な注文して、ほとんどなし崩しでOKもらって、きっとタイガーさんには迷惑な筈なのに、こんな優しく笑ってもらえたから。
     ………しんみり、しちゃった。なんか泣きたい気持ちになる。でも寒かった振りをして鼻を啜って、それで押さえ込んで勧められるまま、椅子に座った。
     「美味しそう…いただきます」
     机の上にはカレイの煮付け。それに小針にしろあえと、五目豆。みそ汁は何だろ…貝が入ってる。シジミかな?
     どうしたらいいか一瞬悩んだけど、あったかい内に食えよって言われたから、箸をとっていただきますとお辞儀した。
     カレイの身を解して、一口食べてみる。美味しい…あんまり和食のお店、僕が入りやすいようなお店ってないから、こういう煮付けの出来立てって、初めて食べた。こんなに美味しいんだ…うわぁ、大好きだ、これ。
     感動していたら、ニコニコしたタイガーさんはいつの間にか仕事の手を休めて一緒に座ってた。ご飯、もう食べたのかな。タイガーさんにはお茶だけしか出てない。
     それを眺めながら、のんびりしたタイガーさんの空気とおいしいご飯に、ぽろり、さっき我慢した筈の涙が落ちてきちゃった。ど、どうしよう、また迷惑………!
     そう思ってお慌てて目元を擦ったら、ほわんってあったかいおしぼりがあてられた。………あれ、これ…いつ、用意してくれたんだろ。ちゃんとあったかい。使い捨てのウエットティッシュじゃない、ここのタオルだ。
     気付いていたのかな。いつから?僕が、来てから?電話した時?それとも、話を聞いて欲しいのに、煮魚作ってなんて訳の解らない事、言っちゃった時から?
     解らない、けど。でも、どんどん涙は出てきちゃって、仕方がないから一頻り泣いた。でもタイガーさんは無理に何を言うんでもなく、頭を撫でてくれて、待ってくれたんだ。
     「………僕、いっつも仕事で失敗ばっかりなんです」
     だからかな、やっぱり脈絡もなく、話し始めたんだ。
     「うん?どんな?」
     他愛無い相槌。でも、聞いているよって教えるみたいに真っ直ぐ響いた。ちらり見上げれば、静かにタイガーさんはこちらをみていて、目が合った。……ああ、ちゃんと、僕の事見て、話聞いてくれているんだ。
     「色々。……みんな立派に出来ているのに、僕は駄目で」
     今日の出動だって、早めについたのに、でも出来る事がなくて、また見切れてばかりいた。だって僕の擬態の能力で、どんな風に犯人と立ち向かえるんだろう?出来るのなんて、普通に戦うだけだ。
     だから活躍しているみんなの影で、こっそり企業をアピールする、それくらいでしか恩返しが出来ないんだ。
     「……なんで、上手く出来ないんだろ…なんでそれでも続けているんだろうって…いつも……」
     それでも、僕はヒーローなのに。ちゃんとアカデミーに通って、ヒーローになったのに。
     こんな僕なのに、明日、アカデミーの特別講師をやるんだ。教えられる筈がないのに、ブログだって炎上しちゃう、それに対抗も出来ない、情けない僕が、何を教えられるんだろう。
     ぐずりと鼻を啜った。……俯いて小さくなる声。聞き取りづらい、要領も得ない言葉だ。本当に、ただの弱音。
     聞いていて楽しい筈がないのに、ポンッと、タイガーさんの手が頭に当たった。そのままグシャグシャと撫でられて……慰めて、くれている、のかな?
     「この店さ。10年目なんだ」
     どうしたらいいか解らなくてきゅっと唇を噛み締めていると、僕と同じくらい唐突に、タイガーさんが言った。
     「え?」
     「そんだけやっているけど、あんま知られてねぇんだよな。馴染み客のが多いし」
     まあそれでも十分有り難いけど。そう言いながら、ポンポンと頭を叩かれた。
     この店は、そんな昔からあったんだ。うん、僕も…ヒーローになって初めて、知った。日本のものが大好きな僕でも知らなかったんだ。こんな美味しいお忍び弁当のお店。
     だからきっと、本当にずっと、誰にも知られる事無く、それでも近所に住むみんなに愛されて守られてきたお店だって、思う。………だからヒーロー達だってそれを壊さない為に、絶対に宣伝とかしなかったんだ。ヒーロー行き着けなんていったら、迷惑かけちゃうし。
     きっとタイガーさんも知ってる。周りの人達の思いを。だからかな、色んな人が彼の事を、お店の名前で呼ぶんだ。それだって、嬉しそうに受け入れて、笑ってくれる。いつだって、この店に来れば変わらない笑顔で迎えてくれるんだ。
     「でも、続けた。だからここには、毎日色んな奴がくるんだ。弁当買いにな」
     ギュッと、手を握り締めた。………継続する、事。時折僕はそれを諦めたくなる。でも、いつも色々と考えて、どうして始めたのか、それを思い出して、それを続ける事で自分に何が掴めるか。それを、考えて考えて考えて。
     答えなんて、出ないけど。それでも沢山考える。そうしてやっぱり続ける事を選ぶ。
     そうして、ふと気付く。………ひとつだけ、僕にも自慢出来る事があるんだ。
     辛くても、苦しくても、落ち込んでも。それでも、始めた事は止めなかった。ずっと、ずっと、いっそ馬鹿じゃないかって思えるくらい、続けてきた。
     馬鹿にされても成績が良くなくても、アカデミーは辞めなかった。細くてパワーがないと笑われても、格闘技を貫いた。詰られても罵られても炎上しても、ブログを続けた。
     何も出来ないと痛感しても、何か出来るかもしれないと、ヒーローであり続けた。
     それだけは、僕の誇りだ。……それ以外、何も出来ないから。始めた事を続けて貫く。そんな簡単な事だけは、出来るから。
     だって、そうだ。タイガーさんが言うように、アカデミーを通い続けたから知った技術がある。格闘技を続けたからヒーロースーツを操る事が出来る。ブログを続けたからそれを見に来る人がいる。
     ヒーローでいたから、救助出来た人が、確かにいるんだ。だって、本当にたまにだけど、ありがとうってコメントや手紙、もらえるんだ。
     「上手く出来るより、続けるって方が難しいぞ?諦めないでしがみつく根性があんじゃねぇか」
     そんな風に落ち込んで、駄目だって自分で言って。それでも続けている。諦められずに、進む事を選んでいる。………それは、希有な才能なのだ。そう、彼は言った。
     解らない。自分が凄いなんて思えない。でも、続ける事は出来る。諦めないでしがみつける。
     もしかしたらって考えるんだ。助けられた人の事を、考える。僕がいなかったら守れなかったなんて事はきっとない。でも、もしもを考える。そうしたら、辞められない。出来る事があるかもしれない。守る為になり振り構わない、それくらいは、出来る。
     だって、初めから僕は一番下にいる。それ以上どん底もないんだ。だから、馬鹿にされても揶揄されても、向いていないって言われても。
     …………ヒーローで、いたいんだ。守りたい。この街だって、アカデミーでNEXT能力に悩んでいる人達だって。出来る事は少ないけど。
     そろり顔を上げてタイガーさんを見上げた。ぽろり…まだ残っていた涙が落ちてしまう。それを頭を撫でていた手が拭ってくれて、それから、彼は優しく笑ったんだ。
     「それに、いきなり俺に煮魚食いたいって注文つける勇気もあんだ。もうちょっと、頑張ってみようぜ。一緒にさ」
     茶目っ気を乗せて輝いた目が、ウインクした。一緒にって、言ってくれた。僕みたいなよく解らない、客のひとりに。
     ………いきなり変な注文をして、泣き出して弱音をぶつけた人間に。
     それでもひとりじゃなければ頑張れるって、彼は言って。
     冷めちゃうから早く食っとけって、また、優しく笑ったんだ。

     噛み締めたカレイの煮付けは、さっきよりちょっとだけ、塩辛かった。
     でも、凄く凄く美味しくて。
     震えた声でありがとうって、言ったんだ。

     いつか彼に、自分が折紙サイクロンなんだっていったら、なんていってくれるだろう。
     きっと、そっか、頑張ったなって、今と変わらない笑顔で言ってくれる。

     食べる自分に付き合ってお茶を啜る彼を見ていたら、そんな気が、した。

     

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