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気の向くまま、思うがままの行動記録ですよ。
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    公現祭。

    一日遅れで書きました、パプワで公現祭のお菓子、ガレット・デ・ロワのお話ですよ。
    昨日のといい今日のといい、なんでどっちも5桁の文字数いったのか問い質したい。
    どんどんまとめるの下手になっていっている気がする今日この頃ですよ。まいったね!!






     「お、そうか。明日は6日か」
     夜、ふとカレンダーを見て、シンタローが呟いた。それをうがいをしていたパプワが見上げ、首を傾げる。
     「なんだ、シンタロー。6日だと何かあるのか?」
     すでにお正月の一通りの出来事は終わった。どうにも行事ごとに過敏なこの男は、こちらが何を言わなくてもせっせと飾りを手に入れ料理に勤しみ、和やかにその行事ごとの話や振る舞い、しつらえをこなす。
     その癖こちらが期待してせっつけば途端に嫌な顔をしてみせるのだ。素直ではない男だと心底思う。
     そんな素直でない男は、ニッと得意気に笑って頭を撫でてきた。…………少しだけ、その仕草が自然になった事が、嬉しい。
     「ん?明日のおやつが決まっただけだ」
     その上機嫌がいいのか、彼は既に明日のおやつの事まで考えてくれている。思わずチャッピーと顔を見合わせて、ハイタッチをしてしまった。彼の作る料理もおやつもどれもが文句無しに美味しいのだ。
     誰かが自分の為に作ってくれて、一緒に食べてくれて、世話を焼いてくれて………何よりも、今までずっといなかった、同じ肌を持つ人がそこにいて手を伸ばしてくれる、それが子供にはひどく嬉しかった。
     「おお!それはいいな!豪勢なのにしろよ!」
     目を輝かせてチャッピーと踊り始める子供を見下ろし、シンタローは苦笑する。この子供は素直でなくて、何かねだったり頼んだりしたい時、必ず命令口調になるのだ。
     それは多分、断られても強気に切り出す為の、無意識の仕草だ。いつだってこの小さな手の持ち主は、ほんの少しの臆病を抱えて自分に手を差し出している。
     それを知っているから、気付かない振りをして肩を竦た。そんな素振りをする癖に、シンタローは初めから明日この子供が友達を連れて帰ってくる事を想定したおやつの分量を計算していた。
     ………この喜び方ならまず間違いなく誰かを誘うだろう。ならばいつもより多めに作らなくてはいけない。いっそパーティーのつもりの方がいいだろうか。
     それならもっと本格的に、ちゃんと準備をしてみよう。そんな事を考えながらシンタローは、自分によじ登りながら欠伸を噛み殺している子供と犬の頭を抑えるようにして撫でた。
     「へーへー。ちゃんと歯磨きして早寝出来たら大きいの作ってやるよ」
     「よし、チャッピー寝るぞ!!」
     「わう!」
     もう歯磨きは終わった!と子供と犬は即布団に潜り込んだ。………こんな事を言う時は、青年は本当に沢山のおやつを作ってくれる。そしてその為の準備があるから早く寝かしつけようとする事も、知っていた。
     ワクワクする心をチャッピーと二人で分け合いながら、パプワは大人しく布団に包まるまった。その奥で、呆気にとられたような青年の声が聞こえたけれど、聞こえなかった振りもいつもの事だ。
     明日のおやつは何だろう。クッキーか、ケーキか、アイスだろうか。マフィン、ゼリー、ムース……いくつものお菓子を思い浮かべると、あっという間に子供は眠りの世界に入り込んでいった。
     いつもは聞き分けなどよくない子供と犬の、あっという間に響く健やかな寝息に、青年は苦笑を浮かべた。
     ……なんだかんだと言いながらも、自分の作る物を本当に喜んでくれているのが、嬉しい。
     そんな事を思う自分に絆されていると、微かな自己嫌悪も浮かぶけれど、それでも純然とした幼い好意はあまりにいとけなくて、無下に出来る筈もない。
     それを手にして育まれるべきが、疎外される。それを知っているからこそ、尚更に。
     ………小さく溜め息を吐き出してその鬱屈を押込め、青年はキッチンに立った。


     明日のおやつの為の、まずは下準備をする為に…………




     翌日。自分達が起きるより早くから既にキッチンに立っているシンタローに、パプワは不思議そうに首を傾げた。いつもさくさくと彼は料理もおやつも作るので、こんなに時間が掛かるのは珍しかった。
     朝ご飯も一緒に食べたし、彼は片付けだって今日の洗濯だって終わらせていた。それからいそいそとまた鼻歌まじりにキッチンに立つ後ろ姿はなんだかとても楽しそうで、パプワとチャッピーは顔を見合わせるとたっとシンタローの背中に駆け寄った。
     「何を作っているんだ、シンタロー?」
     ぐいっとズボンを引っ張っても機嫌のいい鼻歌が途絶えて内緒、と言われるだけだった。顔も向けてくれない事が不満で、パプワはそのままズボンを引っ張り、床を蹴ってシンタローの腰にしがみつく。同じ要領でチャッピーも逆側に張り付いて、二人でそのままシンタローの手元を覗きながら肩までよじ登っていった。
     「これ、キッチンに立っている時に戯れるんじゃありません!危ないっていってるだろ!」
     そう言いながらも、落ちないようにと、こうしている間はバランスがとりやすいように腕を上げて足場を作ってくれる。だから駄目だと言われても止めないのだ。彼は本当に怒っていないのだから。
     ………本当に怒ったのは一度だけ、包丁を持っている時に突進して、取り落とさせた時だ。初めてこの島に来た時は自分にナイフを投げた癖に、彼は取り落とした包丁をキャッチした自分を叱りつけた。
     危ないのだから火や包丁を使う時にキッチンに近付くなと、本気で叱る声は珍しくて、それだけはきちんと自分達は心得ている。
     「包丁も火も使ってない!大丈夫大丈夫!な、チャッピー!」
     「わう!」
     だから二人で彼の肩に乗り上げて笑えば、彼は肩を落として仕方無さげな溜め息を落とした。
     「まったく……」
     でも、それが少しだけ笑っている事は、多分知らない。チャッピーと二人でこっそり笑いあいながら、彼と同じ視点で見るキッチンを見下ろした。
     あるのは………凍った丸い黄色い円盤と、四角いパイ生地。地味な色合いはパーティーとはほど遠くて、パプワは首を傾げてしまった。
     「で、これはなんだ?」
     「パイだよ。ガレット・デ・ロワ。アーモンドクリームの入った、ちょっと面白いパイだな」
     やはり知らなさそうだと内心で呟きながら、シンタローは凍ったアマンドクレームをパイ生地に乗せ、その上から更にパイ生地を重ねて包み込んでいく。
     フォークとナイフ、それだけでみるみる内に別々だった材料が重なり合わさって形を整えていった。卵を塗って、その上からナイフで模様が描かれる。焼き上がった時それがどんな風に変化するのかを想像しながら、パプワは目を輝かせてシンタローの指先を見つめた。
     いつ見てもシンタローの指先は不思議だ。自分と同じ5本の指しか付いていないのに、自分では作れない数々のものを作り出す。
     鮮やかに、手際よく、無駄なく動く流れるその仕草は見ていて飽きない。
     出来ればずっとこうして眺めていたいけれど、キッチンにいる時の大半は彼の手には包丁が握られているし、傍らでは火がついている。だからなかなか叶わない今の状況が、嬉しい。
     「面白い…のか?」
     お菓子なのに?そうワクワクする声が押さえきれずにパプワが問いかければ、微かな振動を腹部に感じた。……どうやらシンタローが笑ったようだ。
     そうして半ば伏せた睫毛が楽し気に次のパイを作り上げていく。肩から見下ろした指先。よどみなく迷いなく、まるで初めからそうあるかのように出来上がっていくパイ。男の唇には、満足げな笑み。そっと開かれた唇が、笑みを象ったまま、答えた。
     「それは食べる時のお楽しみ」
     答えは今は言わない。そう言った時、大抵彼はサプライズを用意してくれる。
     「じゃあ今日はパーティーか?」
     パッと手に持つ日の丸印の扇子を広げて喜びの声を奏でれば、また腹部が揺れる。彼が、笑った。見下ろした睫毛が笑みの形にほころんでいる。
     「なんでそうなる。ったく、一応大きいの作るし、遊びに行って会った奴らくらいなら呼んでいいぞ」
     可愛げのない返事を口にしながら、せっせと作る3つ目のパイ。そのどれもが、大きい。
     ………言葉になど彼はしないけれど、いつだって自分達の我が侭は聞いてくれる。
     それに胸がほころぶようにあたたまって、パプワはピョンッと彼の肩から飛び退いて地面に降り立ち、チャッピーと上げた手を叩き合うと、そのままドアに向かって走り出す。
     今日は沢山走り回らなくてはいけない。そうして、沢山の友達と会ってくるのだ。
     「よし!パプワ島のみんなを呼んでこよう、チャッピー!」
     「わうう♪」
     「無茶言うんじゃありません!!!」
     明るく弾む声に返される、怒鳴るみたいな制止の言葉。けれどそれが少し弾んで笑っている事を、知っている。
     だから振り返らない。ただ言った言葉を実行する為に、子供は駆け出した。
     「いってきまーす!」
     「わうっ!」
     ワクワクする。おやつが楽しみだった。パプワ島のみんなと一緒に、彼の作ったお菓子を食べる時間は、凄く楽しいし嬉しい。
     どうしてか、なんて知らない。けれど知っている事もある。
     彼はこの島にやって来た外の世界の人だけれど、この島の誰もが彼を大好きで、彼は紛れもなく、この島の住人なのだ。

     そして意地っ張りの彼は決して認めないけれど、彼だってこの島のみんなが大好きだからだ!




     太陽は傾き始め、そろそろ時間は3時になろうとしている。それを空を見上げて確認しながら、シンタローは次々と焼き上がっていくパイを危う気なく取り出しては、ザクザクと軽快な音を立てて切り分けていた。
     辺りには香しい香りが立ちこめていた。出来は上々。子供達が戻ってくるのが楽しみだった。
     「シンタローさ〜ん。お・つ・か・れ・さ・まv」
     「湧いて出るな、ナマモノ」
     …………が、何故か子供達が戻ってくるより早くに、背後に異様な気配が湧いた。毎度毎度、自分の後ろをとるなど、この島のナマモノはどういった原理で動くか解らなかった。
     条件反射で即座に殴り飛ばして地に沈めたにも拘らず、イトウとタンノは元気だ。涙を流したのも束の間、再び自分がパイを切り始めると、すぐに復活してまとわりついてきた。……次は殴らないように努力する自分の身にもなって欲しい復活の早さだ。
     「みんなのおやつ作って下さったんでしょ?お礼にマッサージしてあ・げ・るv」
     「触るなナマモノっ!こらパプワ、なんでこいつらまで呼びやがった!!」
     ベタベタと腕や腰にまとわりつくイトウとタンノを軽く蹴ってどかしながら、ようやくゾロゾロと大勢の友達を引き連れてパプワとチャッピーが帰ってきた。
     即座に文句を言ってみれば、何の事だと言わんばかりにパプワは目を瞬かせた。
     「何を言うかシンタロー。イトウくんとタンノくんはな、僕が外に出ると同時にお呼ばれされるわvと茂みから出てきた強者だぞ!」
     誘ったのではなく、自ら招かれたのだ。そうあっぱれ日の丸扇子を広げて宣言したパプワの言葉に、シンタローは目を逸らして気付かない振りをしているイトウとタンノを半眼で見遣った。
     「不正行為と見なし、おやつは取り上げだな」
     いつの間にか勝手に皿を持ってパイを受け取ろうと待ち構えている二人を足蹴にしながらシンタローはその皿を回収した。ただでさえ本当に島中の子供が来たのではないかという大人数だ。一応仮にも大人である筈のイトウとタンノを優先するわけにはいかない。
     「っええ?!そんな殺生な!!」
     「そうよそうよ、差別はよくないわ、シンタローさんっ」
     「アホ。俺はパプワに遊んで会った奴らって言ったんだ。待ち構えた上、自ら来た奴に分けてやる義理はないっ」
     そう言いながらシンタローはわらわらと集まり、自分によじ登り始めたエグチやナカムラを筆頭に群がる子供達を落とさないように支えつつ、手を払って二人を放っておいた。
     いつもの事ではあるがそのクールな仕打ちに、イトウもタンノも身を寄せあって聞こえやすく解りやすくシンタローに向かって泣き言を零し始めた。
     「ひどい!ひどいわ〜!!」
     「人でなしよ、イトウくん、シンタローさんがSに目覚めちゃったわっ」
     さめざめと泣きながら文句を言うじっとりした空間からは爽やかに目を逸らし、シンタローは皿を片手に待ち構えている小動物達に声を掛けた。
     「おーい、お前ら皿持ってこーい。切り分けるぞー」
     「わーい!!すご〜い、ほかほか熱々、焼きたてだね!」
     「いい匂い、美味しそう!」
     「熱いから食う時気をつけるんだぞ。あ、手は止めとけ、フォーク使うんだ。熱いんだからな!」
     順番だと言っても次々に差し出される皿はなかなか並ばない。それに苦笑しながらも、手際よくシンタローは焼きたてのパイを乗せていく。
     それに目を輝かせて齧りつこうとする面々に、火傷をしかねないと叱りつける声も幾度か飛んだ。
     そんなシンタローを尻目に、いまだ皿すら渡されていないイトウとタンノが、涙ながらに彼の腰に縋りついた。
     「シンタローさん!あたし達にもせめて一口、いえ、せめてパイの切れ端だけでも!!」
     「喧しい!こっちは今それどころじゃねぇんだよっ」
     見ての通り子供に群がられている。むしろよじ登られている。そんな最中に二人の相手をしている余裕はないとシンタローは相手にもしなかった。
     甲斐甲斐しく子供達にパイを切り分けている笑顔を横目に眺め、イトウとタンノは顔を見合わせて小さく息を落とし、仕方がないわねぇ〜と笑いながら、なかなか減らない島の住人達の列整理に回った。
     なんだかんだ言っても彼は子供好きで世話焼きだ。相手をしてもらえないのは寂しいけれど、大人の女として余裕を持った姿くらい、見せたい。………もしかしたらあとでパイの欠片くらいくれるかもしれないと、ほんの少しの下心もこめて、二人はせっせと嬉しそうにパイを齧る子供と、まだもらっていない子供とをより分けていった。
     それを眺めていたパプワは、これなら大丈夫とようやくシンタローに駆け寄って手にしていた皿をチャッピーと二人、差し出した。
     「シンタロー、僕達にも早く寄越せ!!」
     「わうわう〜!!」
     「はーいはいはい!ったく、なんだ、結局島中の奴ら呼んだな、お前」
     随分遅かったなと思いつつ、シンタローが二人の皿にそれぞれパイを乗せた。湯気の出る熱々パイ。アマンドクレームがとろりと柔らかく、頬張ればサクサクのパイ生地と甘いクリームのハーモニーに口の中に広がる。
     セルフサービスで置いておいたジュースも順調に無くなっていっている。これは予備も取り出さなくてはいけないかもしれないと、想像通りの大人数にシンタローは腰に手を当ててパプワを窘めた。
     別に人数制限はしていないが、それでも限度はある。他の家のナマモノに同じ事を言われて本当にこの人数を連れて行ったら困らせる事は目に見えていた。注意すべきは注意するのが大人の役目だ。………もしかしたらチャッピーの牙の餌食になるかもしれないが、だからといって提言を取りやめるわけにはいかない。
     そんなシンタローに、パプワはパイにフォークを刺しながら首を傾げた。
     「違うぞ、シンタロー」
     「あん?」
     「僕達はエグチくん達に言ったんだ。そうしたら知らない内にみんなに広まっていた。な!」
     パイを手にしてはしゃいでいる二人に声を掛けると、キョトンと二人も目を瞬かせた。
     「え、僕達もあんまり言ってないよ?あ、でもね、シンタローさんのおやつみんな大好きだから、すぐバレちゃうんだ」
     「ね。いつもパプワくんがおやつの話すると、みんな羨ましがるもん」
     鏡映しに顔を見合わせた二人が、嬉しそうに顔をほころばせてパイに齧りつく。いつもこんな美味しいおやつで羨ましいと、パイのカスを口に沢山付けたまま、二人はパプワとチャッピーに話していた。
     それに苦笑して、シンタローは手を伸ばし口元を拭ってやりながら、空いた手で二人の頭を優しく撫でる。
     「そりゃどーも。毎日は流石に無理だけど、たまになら食いにきていいぞ?」
     ちゃんと事前に言いにこないと駄目だからな、そんな言葉も忘れずに付け足して告げてみれば、パッと二人の顔が輝いた。とても解りやすいその変化に、知らずシンタローの口元も笑みを刻む。
     ………動物にしか見えない筈なのに、もう疾うにシンタローの目には、彼らも他の住人も、自分と同じ生き物で、愛しい子供の一人だ。………決して、口になど出来ないけれど。
     「本当?!ねえ、約束だよ、シンタローさん!」
     「わーい、またシンタローさんのおやつが食べられるね!」
     ぎゅうっとシンタローの足元に群がって抱きついた二人が弾んだ声で歌うようにさえずる。それにすら慣れた自分に少し呆れながら、解った解ったとシンタローはもう一度二人の頭を撫でた。
     そんなのほほんとした光景の横、何故か暗く湿った一帯が出来上がり、シンタローはそちらを半眼で見遣る。………イトウとタンノだ。
     「………おい、イトウ、タンノ……そこで腐乱死体になってんな。邪魔だ」
     キッパリと言い切り目もくれないシンタローに、イトウとタンノは顔を寄せあい涙を流しながら、すっかり綺麗になってしまったパイの乗っていた大皿を眺めていた。
     「うう……愛しい殿方の手作りおやつ……」
     「ぜ、全部食べられちゃったわぁ…………」
     切り分けを失敗するようなヘマをシンタローがする筈もなく、本当にパイの欠片すら大皿には残っていなかった。
     パイを頬張り喜んでいる子供達は可愛らしいけれど、そこに混じれない自分達が寂しい。そう涙を流しながら凹んでいる二人を見下ろすシンタローの肩にパプワとチャッピーはよじ登った。
     そうして案の定、シンタローは脇に避けていた皿を取り上げて、イトウとタンノの前に差し出した。
     「…………はぁ……おら、ガキが増えたから一切れしか余ってねぇからなっ!それ食って大人しくしてろ」
     「え?!シ、シンタローさん、残してくれていたの?!」
     「タンノくん、皿まで舐め尽くすのよ!むしろ皿ごといくわよっ」
     「大人しく食えっ!」
     本気で皿まで齧り出しそうな勢いの二人に慌てて付け足し、シンタローは腕を組んで自分の作ったおやつを食べる面々を眺めた。……すっかり肩の重みには慣れてしまって、違和感もない。
     「ったく……落ち着きのない奴らだぜ」
     サクサクもぐもぐとパイを食べるパプワとチャッピーの咀嚼音を耳に響かせながら、シンタローは溜め息まじりに呟き、……けれどその口元はひどく満足そうに笑っていた。
     素直じゃないと思いながら、ペチリとパプワはその頬を叩いた。
     「シンタロー、いいのか?」
     「あん?何がだよ」
     「だってあれ、お前の分だろ?」
     僕が分けておいたから間違いない。そう断言する子供に、バツの悪い顔をしてシンタローは口を引き結んだ。
     「………別にいいの、俺はいつでも作れるし。作ってる時に味見するから腹一杯!」
     一緒に食べればそれは美味しいだろうが、作った人間よりも招かれた相手を優先するのは当然だ。それに、一応二人ともおやつを配る時に手伝ってもくれた、駄賃代わりというには少ないが、それで喜ぶなら十分な結果だ。
     仕方なくパプワとチャッピーは肩を竦め、ざくりとお互いパイを切り分けると、シンタローに差し出した。
     「意地っ張りだな。ほら、シンタロー、口を開けろ」
     「は?」
     両サイドから差し出されたそれに、シンタローが目を丸める。意図は解るが、それを喜んで口にするなど、自分の柄ではない。
     そう訝しむような顔で粘る馬鹿な大人に子供は微かに笑い、もう一度彼の口元にフォークを近づける。
     「一口だけだからな。ちゃんと食べておけ」
     「わう!」
     「…………、ったく、仕方ねぇな」
     少しの逡巡。それからすぐに見上げる二人の眼差しに根負けして、シンタローはえいっと一口でそれぞれのパイを口に含み咀嚼した。
     ……甘い、アマンドクレーム。サクサクのパイとしっとりしたクリーム、味見はしたけれど、やはり誰かと共有するとその時とはまるで違う味に感じるから、不思議だ。
     「素直じゃないな、まったく」
     ついほころんだ顔にそんな揶揄を落とされて、シンタローは慌てて顔を引き締め、肩の二人を落とさないように気をつけながら歩き、辺りで思い思いにパイを齧る面々に声を掛けた。
     「ところで、誰かパイの中にアーモンド入っていた奴、いないか?」
     そう問う声に、キョトンとした眼差しがあちらこちらでシンタローに向けられた。
     パイの中はアマンドクレーム。とろりとしたその中にアーモンドのような固いものが入っていれば、見落とす筈がない。きっと言われる前であったとしても、おまけが入っていたとはしゃぐ声が上がった筈だ。
     「え?なに?僕なかったよ?」
     「僕も〜」
     「あたし達のも……なかったわよね?」
     「なかったわ」
     お互いに一緒に食べている者同士、顔を見合わせながら確認をするが、今のところ誰もが首を振っていて、アーモンドを見つけたものは見当たらなかった。
     「他も……アレ?まだ出てきてねぇのかな?」
     大分食べ終わりに差し掛かったのでそろそろかと思ったのだがと首を傾げるシンタローに、エグチが首を傾げて問いかけた。
     「アーモンドがあるとんなんなの、シンタローさん??」
     「ん?ガレット・デ・ロワってのはな、王様のお菓子なんだよ。当たりを引いた奴が、その日の王様。みんなにお祝いされて、一年間幸せ続きって言われてんだ」
     頭を撫でてやりながら他の面々にも聞こえる声で告げてみれば、ワッと歓声が上がる。……この島の住人は、みんな祭り事や祝い事が大好きだ。
     「へ〜そうなんだ!僕のパイの中、ないかな?!」
     「………僕食べちゃった……なかった………」
     「タンノくん、アーモンド!アーモンドをとってきましょう!」
     「そこ、堂々と不正行為を働くなっ」
     サクリとパイを切り分ける音、残念そうに笑い合う顔、………勝手にアーモンドを増やそうとするもの、それぞれを見遣りながら、とりあえず最後の今にも森に駆けていきそうな馬鹿の行為だけは、止めた。
     そんなシンタローの肩から、小さな驚きの声が落ちる。
     「あ」
     「ん?パプワ…もしかして…」
     「あったぞ!ほら、アーモンドだ!」
     器用にフォークにアーモンドを刺し、パプワが高らかにシンタローの肩に立ち上がって宣言をした。同時に辺りから一斉に歓声と拍手がわく。
     「わ〜!本当だ!やっぱりパプワくんか!」
     「わう!!」
     「まあ何となく予想はしたけどなっ」
     何故か納得してしまう結果に苦笑しながら、シンタローはパプワとチャッピーを肩から下ろし、キッチンの方に戻っていく。そっから目当てのものを取り出して戻ってくると、パプワの視線に合わせるようにしゃがみ、ニッと笑った。
     「ほらパプワ、王冠と、あと副賞。パイの余りで作ったリーフパイ」
     ぽんっと気軽に乗せられたのは、画用紙に金の折紙を貼付けて出来た、可愛らしい王冠だった。折角だからと昨夜作った王冠と、それだけでは寂しいかと今日になって増やした少し豪勢にラッピングした副賞をパプワに渡す。
     「おお!お菓子が増えた!」
     王冠をかぶり、高々と綺麗なリボンでラッピングされたリーフパイを持ち上げると、わらわらと島の仲間達が祝福の声を上げにまとわりついてくる。……シンタローは邪魔にならないように一歩、後ろに退いた。
     「おめでとう、パプワくん!」
     「おめでとう!」
     「一年間、お前に幸せがありますように」
     口々に湧く祝いの言葉の中に、滑り込ませるかのようにそっとシンタローも言葉を添えた。それを耳に含め、パプワは振り返りながらシンタローを見上げた。……少しだけ遠い場所にいる彼を招くように。
     「………オイ、シンタロー」
     声を掛ければ、彼の為に道が作られる。本当に王様だな、そんな事を思いながら、歩み寄る子供に合わせて膝を折って首を傾げた。
     「なんだ?」
     同時に差し出された手が、びしっとシンタローを指差した。
     「王様から、命令だ!」
     「はい?!いや、これは王様ゲームじゃ……」
     が、突然の言葉に呆気にとられたシンタローが目を瞬かせた。あくまでお祝いをされるであって、命令出来る存在になるわけではない。そう告げようとすれば、ニッと笑った彼が楽し気にその命令を宣言した。
     「来年も!また、このお菓子を作るんだ」
     みんなで集まって、美味しいおやつを食べて、当たりが出ればみんなから祝福を。思うだけでもワクワクする、なんて素敵で嬉しい一日だろう。
     王冠をもらって、美味しそうなリーフパイまでついてきて。何でもなかった日に沢山のおめでとうまでもらった。嬉しい、幸せな時間。
     たった一度で終わるなんて勿体ない話だ。
     「また、みんなで王様のお祝いをするからな!」
     「わう♪」
     明るい断言に呆気にとられたシンタローが答えられないでいれば、ワッと周囲の子供達が手に手をとって歓声を上げた。またこの島に1つ、楽しいお祝いの日が出来た。
     それを喜ぶ声に包まれて、パプワとシンタローを中心に、折り重なるぬくもりの輪が出来上がる。
     「え、本当?!シンタローさん、また作ってくれるの?」
     「これ美味しかったよ!また作ってよ!今度は僕がアーモンド当てるんだ!」
     キラキラと輝く瞳。無垢な、打算の欠片もない喜びの声。ただ一緒にいたいと教えるそれらに、一瞬泣きそうな眼差しを落としかけ…シンタローはギュッと噛み締めた唇で耐えた。
     「〜〜ったく!解った!解ったよ!ったく、相変わらず我が侭なお子様めっ」
     複雑な心裏を覆い隠すように素っ気なく言い捨ててみれば、キラリと目を光らせたパプワがすかさずシンタローを指差し、いつもの言葉を口にした。
     「……チャッピー、エサっ!」
     「がうん!!」
     「ぎゃーっ!!!ずびませんっ!よろこんで作らせていただきます、ご主人様!!!」
     「解ればよろしい。楽しみだな、来年も一緒だ!」
     んばっ!と両手の扇子を広げ、パプワが笑う。背中しか見せなくても、それくらい声だけでシンタローには解った。……解るくらい、時間は流れたのだ。
     そう、思い。シンタローは吐き出しかけた何かを飲み込み、頭を掻き上げて顔を顰めると、ぼそりとこっそり呟いた。
     「………………、ったく、素直じゃねぇガキ」
     同時に、牙を見せたチャッピーと肩越しに振り返ったパプワに睨まれた。
     「なんか言ったか?」
     「滅相もございませんっ!ほら、形よくないけど、リーフパイに出来なかった分も焼いたからな、袋やるから、適当にみんな持ってけ」
     大慌てで首を振って否定しながら、話を逸らすようにちゃんと王様以外の子にも持ち帰れるようにと作っておいた、パイの切れ端のリーフパイを取り出した。
     ザラメが掛かった甘いパイ生地。エグチもナカムラも、イトウもタンノも、他の住民達も目を輝かせてシンタローが並べたテーブルに駆け寄った。
     「わ〜い!お土産だ!」
     喜色に濡れた歓声の中、満足げに笑うシンタローと、それを見上げてチャッピーとこっそり手を叩き合うパプワ。


     素直でない二人の、それでもお互いにバレバレな日が、今日も暮れていった。
     

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