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気の向くまま、思うがままの行動記録ですよ。
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    はいりきらなかった。

    すっかり忘れていた、文字数制限あったね、ブログ。



     

     

     アポロンメディアに背を向けた頃、不意に楓は体内で蠢く違和感に気付いた。これは自分の能力が発動した時に感じるものだ。

     「あ、れ……?今の人、NEXTだったんだ」

     大分慣れたその感覚に、いつもならすぐに気付くのだが、今日は精神的ショックのせいか、認知が遅れてしまった。暴走しなくてよかったとホッと息を吐きながら、楓は特に意味があるわけでもないけれど、己の右手を見つめた。

     微かな青い発光。それをぱちりと目を瞬かせながら見つめたと、深く息を吸い込んで、体内の違和感に意識を集中する。

     まだまだ制御が出来ているとは言い難いが、ある程度ならば自分の意思で動かせるようにはなった。あくまで、ある程度、だけれど。

     コピー能力が発動してスキャンした能力を把握する。そこまでが精一杯で、スキャンした能力を自在に操るには到底至らない。

     それは当然だと、ひとつの能力だけでも四苦八苦だった父の幼い頃の話をしてくれた叔父の、寂しそうな背中を思い出した。

     ……早く、見つけないと。祖母も随分打ち拉がれている。幼い自分には見せまいとしているけれど、子供の事を嘗めないでほしかった。

     思い、首を振る。自分まで悲観してはいけない。大丈夫と最近の口癖を呟き、楓は改めて新たに手に入った、先程の男性の能力を見つめた。

     「なんの能力だろう。操作……?違う、これ、記憶操作、だ」

     口の中で呟き、その違和感に眉を顰めた。

     ……記憶。それの操作がどういったものか、解りはしない。そもそも能力の本質は、当人にも朧気にしか解らないのだ。

     ただ本能が知らせるのは、それがどういう手順を踏んで何を成すか、だ。

     風や炎などはまだ解りやすい。が、ハンドレッドパワーのような類いは、ただ力が強くなる、その程度しか本人にも解らないのが現状だ。

     だから、コピー能力を理解しても、楓にはスキャンして手に入れた他人の能力の詳細など、触り程度しか解る筈もない。

     しかし、そのおとぎ話じみた能力の存在に、幼い眉が陰るように顰められた。

     「でも、これ…まさか………」

     不意に、その可能性に気付く。ここ最近連続して起こった、自分の周囲での不可解な出来事の数々を、脳裏に並べ立ててみた。

     おかしい事が続いたのだ。それは確か、父が会社で厄介事があって辞められないといっていた、あの後からだ。

     ………苛立ちのままに父に帰らないでいいなどと叫んでしまってからだ。

     ごくりと息を飲みながら、楓は背後を振り返った。父が勤めていた、アポロンメディア。それがひどく禍々しく見えた。

     それに怯えるように顔を背け、楓は状況を整理しようと、どこか休める場所を探した。

     小学生が一人では飲食店も入りづらい。仕方無く、来る途中に迷った際に見つけた公園に足を向けた。

     その間も、考えた。違和感はどこからか。

     「………まず、お父さんが仕事を辞めると言い出したこと、だよね」

     思い、顰められた眉が、力なく垂れ落ちてしまう。ずっとそれは望んでいた事だ。自分の傍にいてほしいのだと、思わない日はこの6年間、一度だってなかった。

     それでもずっとこの街に残り、ひとり続けていた仕事だ。

     内容は詳しく知らないけれど、人々の為になる、そんな仕事と言っていたから、何か慈善事業的なものだろう。そんな事を、父の兄である村正が言っていた。

     ずっと自分は寂しくて、一緒にいてくれない父に当たって反目して、可愛げのない態度ばかりとってしまったけれど、それでも大好きな父親である事に変わりはない。

     最近一度帰ってきた時も、やはりつっけんどんな態度ばかりとってしまった。

     こんなままでは嫌われて二度と戻ってきてくれなくなると思っても、そんな不安を与えた父が恨めしくて、もっと沢山甘やかしてほしいのだと赤ん坊のように喚く事で訴えてしまった。

     ……多分、そんな事、あの鈍い父は解らない。朧げな記憶の中の、母の、優しい声が耳に蘇る。

     

     

     パパは凄く素敵な人だけど、すこ〜し、鈍いのよ。だからね、待ってあげないとダメなの。ゆっくりゆっくり、ね。

     

     

     今思えば偉大な母だ。あの鈍さは、普通ならとっくに堪忍袋の緒が切れて不思議ではない。それとも、母には違ったのだろうか。

     父の薬指にあるその指輪が、母との約束と自分の父親である証である事くらい、ずっと昔に教えてもらったから知っている。

     だからそれがある限りは、彼は自分の父親だ。………そして、それがない事は、今まで一度だってなかった。

     鈍い人だけど、約束だって破るけど、それでもいつも自分の事は全部自分で抱えて笑ってそこにいてくれる人だ。

     どんなに八つ当たりをしても喚いても、抱き締める腕をいつだって提示してくれる。思い、込み上げそうな涙を、フルリと小さく振った顎で押さえ込んだ。

     今はそんな事を考える場合ではないのだ。今は、そう、この新しく手に入れてしまった能力の、その意味を考えなくてはいけない。

     その為にも、きちんと思い出さないと。………父がおかしかったところ。周囲が、おかしかったところ。そうして今日にまで結びついた、数々の事実を。

     仕事から離れようとしなかった父が、突然帰ってきた。

     そうしてもう仕事は辞めて自分の傍にいると言いだした。

     ここまでは、矛盾も何もない。ただ疑問が多く孕まれているだけだ。

     「それから、会社の誰かが大変で、だから辞めれないって言い出して」

     思い出したそれがなんとなく癪に障って、思わず顔を顰めてしまう。

     そんなつもりがない事くらい知っているけれど、それでも子供心は複雑だ。自分と誰かを天秤にかけたのだと、あの時は本気で悲しかったのだから。

     思い出したならまた駆け上がってきた鬱憤と、それ以後連絡が途絶えてしまった父への思慕に、吐き出す吐息が震えそうで、楓は必死になって飲み込んだ。

     泣きたくはなかった。父は、泣く時はいつだって嬉しい事ばかりだ。最近では、神社に閉じ込められてどうしようもなくなった自分を救い出してくれた、その時だけだ。

     だから、泣くのは糧にする為なのだ。嘆き悲しみ辛いと喚く為の涙なんて、今入らない。そんな余力があるなら、進む為の力に変えてみせる。それが、あのどうしようもない父の娘としての矜持だ。

     こくりと飲み込んだ息で、なんとか気持ちを落ち着けた。…………NEXT能力制御に慣れたおかげか、だいぶ気持ちのコントロールがつき易くなった。

     「………投げ出したら後悔するって、あのお父さんだもん。結構深刻、だったんだよね」

     まあそこまでは解らないし、そうでなくては自分の立つ瀬がないから、そう決めてしまう。

     ようやく見えた公園に吸い込まれるような入り込み、気もそぞろなまま、ベンチを探した。よく迷わなかったものだと、別の意味で感心してしまった。

     ちょうど噴水の前のベンチが空いていて、一人そこに座る。………この街に来たなら必ず隣にいた父は、いない。

     その遣る瀬無さを隠すようにぎゅっと拳を握りしめてそれを見つめる。………小さな手のひらだと、自分でも思った。

     「あとは、突然、連絡がなくなった」

     可能な限り毎日だって電話をしてきた人だった。傍にいれない分、少しでも寂しく思わないようにと、心砕いてくれていた事だって、知っている。

     ………ただその方法やセンスは、この上もなく拙く無器用極まりなかったけれど。

     思い出した数々の失敗や、その時の情けない父親の顔や声を思い出して、楓は小さく笑う。

     そんな他愛なさも、自分はとても愛しかった。そうしたものこそが、愛しかったのだ。

     それなのに、それがなくなってしまった。そんな筈がないのに、まるで初めから鏑木・T・虎徹という存在そのものがいなかったかのように。

     思い、震えそうな唇をなんとかこじ開けて小さく呟く。思うだけでもいいそれらは、それでも耳に触れさせると、また違った角度から物事を教えてくれる気がした。

     「………しかも、アントンさんまで、おかしかった」

     鏑木虎徹など知らないと、電話で言っていたその怪訝な声は、嘘ではなかった。怖くなって問い詰めもしないで人違いだったと慌てて切った事も、今は少し後悔している。

     知らない筈がない。彼らは昔馴染みだと言っていた。どれくらいかと聞いたなら、自分が生まれるよりずっと前、とアントンは笑っていたのだ。

     だから、彼らは自分よりもずっと長く、一緒にいた筈だ。悔しいけれど、そうなのだ。生まれるよりも前に知り合ったのだから、ずるいともいえないけれど。

     「でも、知らない。これは、この能力と関係、あるんじゃないかな」

     知っている筈の事を知らないアントン。忘れられてしまった父。確実にあった友人関係。それらは、『記憶』というカテゴリーでこそ、繋がるものだ。

     それがなくなれば、人は人との関係性を維持出来ない。当たり前だ。自分だって、ただそこにいただけの人を友達だなど、いえない。

     けれど、それならば、何故。あの会社にいたおじさんは、父親とどんな関係があるのか。一体彼はどんな人なのか。

     そもそも何故、こんな能力があったとして、それを使って忘れさせる必要があったのだろう。あんな冴えない父親だ、ミスをして怒られる事はあっても、こんな事までされる理由が解らない。

     それなら、何故。考えて、嫌な予感に身体が震えた。………もしも。もしも、何らかの不慮の事故、というもので、父がこの世にいなくなっていたら。母と同じ場所に、行ってしまっていたら。

     そうしたら、大人はそれを隠すだろうか。なかった事に出来るこの能力で、全てを白紙に戻してしまうだろうか。

     出来の悪い2時間ドラマだ。そうその滑稽さを笑おうとして、楓は失敗した。悪い予感というものは、得てして羽を持ち広がって、身体の隅々までもをあっさりとホールドして離さない。

     まずい、このままでは、こんな場所で泣きわめいてしまう。折角誓ったのだ、父が助けてくれたあの神社で。

     父を見つけ出すまで泣かない。その代わり、父をそれまで守ってほしいと。何かを断つ事でそれを神様に捧げると、神様はそれに見合った分、きちんと約束を守ってくれる、そう、祖母は言っていた。

     それなのに、駄目だ。泣いてしまえばそれだけ父が守ってもらえなくなる。守るのだ、自分が。今まで知らず守ってくれたように、今度は自分が守ると決めたのに。

     「君、大丈夫かい?」

     「えっ?………うわっ」

     突然掛けられた声と、急に暗くなった大きな影の存在。それに驚いて楓が顔を上げれば、目の前には柔らかな乳白色の毛並みが広がっていた。

     驚いて両手でそれを抱き締めてしまう。顔を舐めるその仕草に溢れそうだった涙は全て食べられてしまって、なんてタイミングだろうと惚けてしまう。

     一体これは何だろう。神様が励ましにきてくれたのだろうか。目を瞬かせながら見下ろせば、それは自分よりも大きいだろう、犬だった。………あの神社の神様は犬だったのだろうか。

     「あ、こら、ジョン!小さな子には優しくだ!」

     けれどその思い込みは違った。この犬が話しかけたのではなく、もう一人、犬の向こう側に青年が立っている。あまりにも当たり前の光景に、どれだけ自分が混乱していたのかが解って、楓は小さく吹き出してしまった。

     飼い主らしい、声を掛けてくれた青年が慌てたように犬を窘めている。そうすれば素直に足下に腰を下ろして待っている犬は、きっととても頭がいいのだ。犬などかった事がないのでよくは解らなかったけれど。

     「大丈夫。私、犬好きですから。大きいなぁ」

     それになによりも、神様との約束を破らないで済んだ。だから大丈夫。きっと、父の事を守ってくれている。ただの神頼みで根拠がなかろうと、今はそんなささやかなものくらいしか、縋れる希望がなかった。

     …………そう、ないのだ。それに、また楓の幼い眉が憂愁を帯びて垂れ下がり、それを見上げた犬が、クゥ〜ンと小さく鼻を鳴らして膝頭に擦り寄ってきた。

     慰めてくれるその仕草に、楓は無器用に笑って俯く。ぎゅっと抱き締めた犬は、あたたかくて心地よかった。

     その様子を見下ろしながら、青年は少しだけ躊躇った間を空けて、けれどすぐに思い直したように柔らかく笑った声を紡いだ。

     「そうかい?すまないね、なんだか泣きそうに見えて、迷子かと思ったんだが……逆に申し訳ない」

     腰の低い、子供を相手にし慣れた声だった。保父さんかな、と少しだけ思い、犬を抱き締めたまま、ちらりとその青年を見上げた。

     ………考えてみると、犬にばかり視線がいって、飼い主の方はしっかりと見てはいなかった。こんなだから、父は一緒にいてもいなくても気が気ではないという顔で心配するのだろう。一応、人の善し悪しくらい、解るつもりだというのに。

     眉を垂らしてそう言った青年は、ジャケットを着ているせいか、とても体格が良くて大きく見えた。さして父と背丈は変わらないだろうに、それでも大柄に見える。多分、父が細すぎるのだ。

     証拠のように、青年の犬の手綱を持つ手のひらも太くてしっかりとしている。父の時計をつけた手首はもっと細くてしなやかだ。

     きっとこの青年は何かスポーツをしているのだ。大きく見えるのではなく、実際に大きいのだろう。その上、父とは違って筋肉もついているからそう見えるのかもしれない。

     座っているといまいち判断に悩むけれど、何となくそんな事を考えていると、じっと見つめ過ぎたのか、突然声を掛けた上に飼い犬がダイブするというアクシデントにか、彼は顔を赤くして困ったように頭を掻いていた。

     それについ、吹き出しそうになった。失礼だと解っているけれど、父と同じくらい大きな人が、心底申し訳なさそうに情けない顔で眉を垂らして頭を掻いている。初対面の、こんな小さな自分に。

     そう考えたらなんだか面白くて、楓はにっこりと久しぶりに笑って青年を見上げ、答えた。

     「いえ、間違ってないです。でも、迷ったのは私じゃなくて、父なんです」

     そうして困ったように仕方のない父の事を、さらりと告げて終わりにするつもりだった。彼も散歩の途中だろうし、自分がひとりではないと解れば安心するだろう。

     そう思ったのに、きょとんと目を丸めた青年は、自分の言葉に違和感を覚えてしまったのか、首を傾げて問いかけてきてしまった。…………しまった。こんな言い訳ではなくて、ここで待ち合わせだといえばよかった。

     「うん?どういう事かな??」

     純粋な笑顔と、おそらくは沢山の気遣いで青年は遠慮がちに問いかけてくれた。それは、必要なら助けると、言っているようだった。

     こんな時に素敵な人に見つかってしまったものだと、楓は内心苦笑した。頼れるわけもなく、誰かに何が出来るわけでもないのに。どうしようもないから、自分でどうにかしようと、こんな場所までやって来たというのに。

     先程打ち壊された希望と、新たに手に入れた能力故の、ドラマじみた疑惑に混乱し始めていた脳内が、吐き出させてほしいのだというように、勝手の唇を動かし始めた。

     「父と連絡がとれなくて。だから、探しに来たんです。でも、会社に来てなくて」

     にっこりと笑った少女の晴天の笑顔が、段々と雲行きが怪しくなり、それに伴って俯いていってしまう。

     眺めていた一連の仕草に、その少女がとても父親を心配して見えて、青年も困ったように顔を憂愁に染めてしまった。

     「………それは心配だ。とても心配だね。誰かお父さんの知り合いはいないのかい?」

     なかなか込み入った事情がありそうだ。けれど、このまま少女を放り出すわけにはいかない。そもそも、探しにきたというのに、母親の存在も、それに代わる保護者の存在も、今彼女の周りには見当たらないのだ。

     もしかしたら、ただひとり、ここまで来たのかもしれない。電車に乗って、迷いながら、来た事もないだろう父親の会社まで。

     それを厄介だからと見なかった事には到底出来ない。青年は何とか彼女の力になろうと、彼女の父親にまではいかなくとも、彼女が信頼出来る相手の元に辿り着けるように、見えない糸を手繰る手助けを試みた。

     「知り合い…あっ、そうだ!そうだよ、アントンさんに会えばいいんだ!それてお父さんの事本当に知らないのか、聞かなきゃ!」

     「アントンさんか。その方の家は?よければ送るよ。ジョンの散歩に付き合ってもらう事になるけど ね」

     また、少女は不可解な物言いをした。が、混乱しているせいかと思い、そっとそれには触れずに青年は頷いた。

     見知らぬ自分とでは怖いかもしれないが、犬がいれば多少は気も紛れるだろう。近くの電車でもいいし、必要なら携帯電話を貸してここに迎えにきてもらえばいい。

     それくらいの時間の余裕は十分あると踏んで促してみれば、はっと気付いたように少女は目を丸めて、ジョンの首筋に顔を埋めてしまう。

     心配そうに、ジョンが鼻を鳴らした。きっと、彼女の身体が震えているのだ。

     「家……?ダメだ、私、知らない。だっていつもお父さんが一緒だったか………」

     問いかけにがっくりと肩を落とし、楓は俯いてしまう。……今更に、痛感する。どれだけ自分がちっぽけな子供か。………どれだけ、当たり前に父親に甘えていたかを。

     項垂れた楓の様子に、困ったように眉を垂らした青年は、汚れる事など気にもかけないで地面に膝をついて、飼い犬の首筋に埋められたその顔を覗き込みながら、優しく笑いかけた。

     「そうか………では、その人のフルネームはどうだろう。役所で聞いたら解るかもしれないよ」

     得てして子供は、押さえつけられればられる程、言葉を飲み込んでしまうものだ。こちらに聞くゆとりを持って待つ事を教えれば、辿々しいながらも言葉を見出し始める。

     それでもどうしても駄目なら、今度は実家に電話をして、聞いてみるように提案してみよう。そう考えながらゆったりと構えて笑いかけた先、戸惑うに見上げた琥珀色の瞳が、不安と希望を綯い交ぜにして輝いていた。

     「フルネーム…えっと、確かロペ…、ロペス……アントン?」

     眉を顰め、楓は必死に思い出そうとした。いつもアントンと呼んでいた人の、本当の名前。しかもフルネーム。正直、記憶になどない。

     何かきっかけがあればまだ解るかもしれない。それでも、あまりに自分ひとりで提示する解答は心許なかった。

     そんな雰囲気に、青年は目を瞬かせた。どこか、彼女の呟いた名前に似た響きを、自分は知っている気がする。

     まさかと思い、パチリと瞬かせた眼差しで、問うように彼女に呟いた。

     「ロペス?もしかして、ロペス・アントニオくんかい?」

     「………!そうです!知っているんですか?!」


     


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