「アレーン、今日は皆既月食だって知ってた?」
「?なんですか、いきなり」
「ん?ほら、月が昇っているさ?キレ〜な満月!」
「ええ、少し今日の月は色が濃いですね。それに寒いからかな…凄く空気が澄んでしっかり輪郭まで見えますね」
「その月が今日は赤くなるんさ!で、月食になるん」
「………赤?月が?だってラビ、よく見て下さい、精々アレは赤と言ってもオレンジ程度もいかないですよ?よくてまあ…………うす〜い茶色……も苦しいな……」
「まあまあ、夜のお楽しみ!さって、買い物も終わったし、帰るさ〜♪」
「??????」
「……………ラビ、窓から月、見て下さい」
「うん?どうかした??」
「いいから!見て下さい!」
(ひょいっとアレン越しに窓の外見遣る)「お、綺麗じゃん、真ん丸お月様」
「違くて!月が赤くなるって言った癖に、あの月、さっきより色薄いですよ?!むしろ白いです!銀色です!!!」
「あはははは〜興味なさそうだった癖に、実は楽しみだったさ?」
「!!!そ、そういうわけじゃなくて、からかわれたのかなって思っただけですよっ」
「平気さ、こんな嘘言わんし。もうちょっと………そうさね、飯も風呂も終わって、のんびりミルクティー飲む頃には、月食が始まるさ」
「本当ですか?こんなに月、真ん丸で真っ白ですよ?」
「本当さ〜。しっかし今日の月はまた綺麗に姿見せてるさね。これなら月食もしっかり見えるさ〜」
「アレ〜ン?起きてるさ?そろそろ月が欠けてるの解るぞ〜?」
「………ぅ…ん…………起き、ますぅ………起きますから、手………」(むにゃむにゃ夢心地で手を差し出し)
(それを掴んで抱き起こしながら頭なでなで)「ん、ど?外いける?」
「行きます……折角、起こしてもらったし………見たいです………」(うとうと眠りかけてフラフラ立ち上がり)
「はいはいっと。ほらこっちさ〜」(手を引いてバルコニーに誘導)
「……うわぁ………ホントだ……………!赤い、ですね」
「でしょ?月食の特徴のひとつさ」
「赤いのがですか?」
「そ。地球の影が掛かっているけど、月食の時は真っ暗にならず、影が掛かった部分が赤くなるんさ〜」
「そうなんですか…不思議ですね」
「そうさね。まあ黒になるよりはこっちの方が見えるさ。………ちょっと雲に食われて黒いけどな」
「あ、違いますよ?赤くなるのも勿論不思議ですけど……なんというか」
「うん?」
「夕方は少し色付いた月で、夜は真っ白な月だったじゃないですか。それなのに、真夜中の今は赤くなっていて、たった一日の中で凄い変化ですよね」
「そうさねぇ。その上、これはまたどんどん元に戻っていくさ」
「そっか…月や地球にしてみたら、本当に一瞬の話しなんですね」
「なぁんかさ……この月」
「はい?」
「アレンみたい?」
「はぁ?」
「冷たい声さ…アレーン………」
「ブラックアレンとか言ったら殴りますよ?」
「イイマセンヨー。だからさー、ほら、初めは色付いた普通の月さ?」(さらりアレンの髪を撫でながら)
「………はあ…」(不思議そうにラビを見上げつつ)
「でも、それが突然真っ白になって」(アレンの髪を一房引っ張りながら)
「…………………」
「それが、赤く、染まって?」(勘づいたアレンに頬に、自分の頬を押し付けて逆手でお互いの前髪混ぜて弄りながら)
「………ちょっと、ラビ……近い、です」
「んっで、……………黒くさ、食われちまって」
「ノア(黒)になる気はさらさらありません」
「ん………その通り。すぐ、また真っ白な月に戻るんさ〜」
「………白、ですか?」
「うん。赤にも黒にも染まらんで、元通り。ただのアレンに戻る」
「でも、白くなってもまた、寒い時は月食みたいに隠れにくるといいさ。こっそり隠れて、一緒にいよ」
「…………………………」
「ほれ、考え込まない!ただのたとえ話っしょ?今は折角の皆既月食、楽しんでおくさ〜」
「いいですよ」
「うん?」
「疲れて動くのも億劫になったら、呼んであげても」
「あらま、随分と女王様な発言さ?」
「せめて王様と言って下さい。……だから、呼んだらちゃんと、伸で飛んできて下さいね」
「はいはい、我が侭な王様、仰せの通りに?」
「いつでも、いくらでも、呼んで?王様の言葉は…絶対さぁ」
「へたれた従者はいらないですからね。しっかり、踏ん張って立っていて下さい」
「解っていますよ、ナイトよりも勇敢なキングが泣き言言う時に、へばる筈ないっしょ?」
「だから………ちゃんと、俺の名前呼ぶさ。すぐ…駆けつけたる」
「ええ…約束、です」
風が吹き、ゆるゆると赤い月をく蝕む黒い影が消える。
雲が途絶え、真ん丸の、不思議な赤い月が上空高くに浮かぶ。
…………ただ二人静かに、それを見上げた。

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