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気の向くまま、思うがままの行動記録ですよ。
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    カフェ物語16

    とりあえず携帯で書くだけ書きましたー。
    しかし推敲などする隙もなければ体力もない。眠いのに寝れないってどういう事だ夏のバカ………!←己の身体のせいですよ。

    まあ仕方ないので暫く眠剤とお友達ですよ〜。
    とか思っていたら、母のおボケのせいで明日姪っ子甥っ子お泊まりになっていた。知らんがな!!!!
    あんだけ明日はお稽古とミュージカル鑑賞が重なる上、翌日DVD鑑賞に友達来るからねっていっておいたのに何やってんの!
    ちょっと別の意味でふらつきそうだったですよー。もはや何も言わない。

    そんなわけで、週末屍になってきます。ヤレヤレじゃよー。






     「珈琲、ですか?」
    「そ。一応カフェではメインになるだろうから、味と淹れ方はみんなに知ってもらわんとな」
    カフェ開業まで、いくら時間があっても足りない。それくらい、やる事も覚える事もある。
    今ここにいるメンバーは、そのまま開業スタッフだ。一から全部、覚えてもらわなくてはならない。
    それにらどうしたって提供する品の名前と味を知る事が最低ラインだ。
    出来ればもう一歩と言いたいが、ここは欲張ってはいけない。利益を求めた運営ではないのだから、まずはその目的のため、アレンが居心地がいいと思う場所でなくては意味がない。
    ここは、集う為の場所だ。
    「僕、あまり珈琲は……」
    困ったように眉を垂らしたアレンが言葉を濁らせると、神田がちらりとそれを見て、口端をつっと持ち上げた。
    「お子様舌のこいつに味が解るわけがねぇだろ」
    躊躇いがちなアレンの声に、神田が小馬鹿にした物言いでまぜっ返した。
    それにむっと眉をしかめたアレンが、ぐるんっと神田に顔を向けて睨み付けた。
    ………どうも、二人ともあまり人に自分から関わるという事を知らないせいか、突っかかるという形でしか取っ掛かりを見出だせないらしい。
    それはそれで見ている分には微笑ましくもあるが、困った事にどちらもなかなか見た目を裏切る手練れだ。怪我を負うようなヘマはしないが、見ていてハラハラする事に代わりはない。
    「失礼なこと、言わないでください!解りますよっ」
    「アレン、飲んだ事は?」
    そのまま言い合いに突入しそうな雰囲気に、ラビがそっと声を滑り込ませた。
    すぐに神田からそちらに目を向けたアレンがにっこりと嬉しそうに笑った。
    「ありますよ。といっても、小学生の時ですが」
    確か、マナが見よう見まねで淹れたのが初めて飲んだ珈琲だ。貰い物の珈琲豆を知り合いに挽いてもらい淹れてくれた。
    懐かしい、あたたかな記憶のひとつだ。……味さえ除けばという、根本を否定しなくていけない事が惜しいくらいに。
    そんなアレンに、リナリーは目を瞬かせながら、不思議なものを見つめるような好奇心を煌めかせて唇を笑みに染めた。
    「なんかアレン君が珈琲って、不思議ね」
    「僕もです。まあその時限りで、ずっと紅茶ですけど」
    如何せん、味がひどかった。香りはまだいい。が、あれは飲み物とはなかなか言いがたい味だった。むしろ薬だ。
    ミルク砂糖と蜂蜜を大量に入れてやっとなんとか飲めたのだ。それはもはや珈琲の味だなんて言えたものではなかった。
    「どうだった、味?」
    そんな事を考えていたというのに、楽しげに口元を弧に変えたラビが、含み笑いながら問い掛けてきた。
    「………申しわけないんですが、苦いし喉がざらつくし好きじゃないです」
    多分、ラビは返事の内容など予測しているのだろう。解っていても、アレンは躊躇いに視線を揺らして俯いていってしまう。
    好き嫌いはいけないし、それを好む人を前に言いたくはないが、嘘を言うわけにもいかない。苦手なものは苦手と、困ったような眉を垂らしたアレンが、身体を小さくしながら呟いた。
    それに想像通りというようにラビは頷き、明るく笑って同意を返した。
    「ま、そういうのが多いんさ、嫌いな人はな」
    「すみません………」
    「いいのよ。好き嫌いは人それぞれだし。好みはあるわ」
    それを気にする必要はないと、更に俯いてしまったアレンにリナリーは優しく告げた。実際、気に掛けなくてはいけないほどの大問題などではないのだが、アレンはどうも人の反応に敏感なところがある。それは今もまだ、自分達にも残されてしまったままだった。
    それを茶化して誤魔化すように、ラビは肩を竦めてひょうきんな声を吐き出した。
    「ユウも初め飲ますの大変だったしな」
    しみじみといった風のラビに、アレンは目を瞬かせた。珈琲と神田。……正直、似合わない組み合わせだ。
    初めて出会った時に振る舞われたのが抹茶であったせいか、あるいは普段からほうじ茶やら番茶やら、目茶だ茎茶だとアレンにはよく解らない種類の日本茶を淹れるせいか。どちらにせよ、アレンの中の神田は、珈琲からは程遠い位置にいた。
    もっとも、日本茶の種類をどうこう言い出せば、同じ理由でアレンも紅茶の事を言われるだろう。その辺りは全員が全員、今更だ。
    「神田も?」
    答えない事が解りきっている神田ではなく、アレンは逆隣のリナリーに顔を向けて問いかけた。
    それに頷き、リナリーが小さく苦笑を落とした。
    「ほら、家が家でしょ?珈琲なんてまず存在しなかったのよ、神田は」
    神田は高校に入学した時点からリナリーの家に下宿している。が、家という囲いで言うならば、神田の実家もリナリーの家も大差はない。
    むしろ家風的に厳格なのは神田の実家の方だろう。規律正しく文武両道、茶道だけでなく他の分野への探求心を無くさず、和の文化を尊んでいる。
    ………神田曰く、面倒臭い家、だ。
    そんな事情は知らないアレンは、単純に茶道によるものと思い、パチリと瞬かせた瞳でリナリーを心配そうに見遣った。
    「じゃあ、リナリーも………?」
    珈琲ではないが、アレンは随分彼女に紅茶を振る舞った。
    また出会ったばかりの頃、何もお礼が出来ないからと淹れた紅茶に、彼女が笑ってくれたから。
    それからアレンは彼らに紅茶を振る舞う事が増えた。家庭科室や部活棟の空き部屋。たまに、クロウリーのいる準備室。
    誰かがいると引き寄せられるようにこっそりと、アレンもそこに腰を下ろすようになった。
    それを彼がいない時に、やっと野良猫がなついたと喜んで、神田に蹴られたラビを眺めたのも、やっと最近の話だ。
    思い出しながら、リナリーは嬉しそうにアレンに笑いかけ、首を振った。
    「ううん。私は兄さんが好きだから、昔から馴染みがあるよ」
    告げながら、ついリナリーの唇が苦笑に染まった。
    けして反抗的な兄ではないけれど、自身の道を信じ突き進む心の強さとそれを実現するに足る才能を持った人だった。
    おかげで昔から破天荒な変わり者で通ってしまい、あっさり手放した家督話に噂は尾ひれどころでは済まない愉快なものになっている。
    それすら気に掛けないのだから、たいした胆力だ。そう思いながらも、その一連の話題の中に巻き込まれている神田は、深く忌々しい溜め息を吐き出しながら低い声を落とした。
    「あいつが好きだから、俺は嫌いだがな。ついでにいえば馬鹿兎が淹れたのも嫌いだ」
    「それは完璧偏見さ〜」
    「食わず嫌いよりタチが悪いですよ、神田」
    「テメーらいい度胸だ」
    軽口の応酬に、神田が顔をひきつらせて腰を上げようとテーブルに手を置いた。
    同時に、リナリーの可憐な声が鋭く神田を射抜いた。
    「コラッ!今のは神田が悪いでしょ!」
    その声と眼差しを受け、僅かな間、神田が静止する。その時点で結末が読めて、ラビは胸中でこっそり吹き出してしまう。
    「〜〜っ、ちっ!」
    思った通り苦虫を噛み潰した顔つきで神田は再び椅子に腰かけた。
    それをいつもの事と含む笑みで眺めるラビを尻目に、リナリーは目を瞬かせているアレンに声を掛けた。
    「で、私は兄さんに淹れてあげるので、大分ラビに教わったの。だからある程度はなんとかなるんだけど…」
    「ユウが嫌がってな〜。コーヒーの臭いがつくとさ」
    肩を竦めたラビに対してだろう、盛大な舌打ちがアレンの隣で発生した。当然、発信源は神田だ。
    その心底腹立たしそうな様子に、アレンは首をかしげた。
    「つくんですか?」
    珈琲の香りは嫌いではないが、身に纏いたいとは思わない。
    どうやって予防しようかと眉を顰めたアレンに、ラビが苦笑を返した。
    「俺、珈琲の匂いする?」
    両手を差し出すようにして問いかける様は、正直年上には見えない。
    神田も自分相手に本気で言い合うし、意外に彼らの態度は幼さが目立った。だからこそ、接しやすさもあったのかもしれないと、そんな二人の近くにたたずむリナリーの苦労を思った。もっとも、彼らにリナリーを怒らせる勇気などないだろうけれど。
    「………しませんね」
    くんっと、素直に鼻先の香りを嗅ぎとったアレンが答えれば、ラビは満足そうに大きく頷きながら神田に視線を送っていた。
    「たかが週に何回か、数時間カフェにいるだけで匂いなんて移らないさ」
    丸一日中いるわけではない。移り香など、たかが知れている。そもそもそんな事を言い出したら、神田の稽古時間の方が多いのだから、珈琲の香りよりも剣道の防具の香りが移る筈だ。
    窘める声は、アレンではなく、今も珈琲を毛嫌いする神田に向けられていた。それを眺めながら、アレンも答えようとしない背中を向けたままの神田を見遣った。
    それに倣うように視線を向けたリナリーが、クスリと笑んで、きっと以前にも同じ事を言ったのだろう滑らかさで声を綴った。
    「カフェが好きな子みんな珈琲の匂いが移っちゃ、苦情が来るわ」
    「嫌いなもんは嫌いだ」
    柔らかな声に、流石に無視を貫けなかったのか、背中越しに突っ慳貪(つっけんどん)な声が答えた。
    「見事な頑なささ〜」
    困ったように笑うラビが、からかうようにその指先を神田に向けて…突っつくより早く、弾き落とされた。ある種恒例のやり取りをぼんやりとアレンは眺めていた。
    仲がいい、というのとはまた違うかもしれないが、それを眺めているリナリーも含め、自分には解らない流れが見えるようだった。
    やはり場違いだ。そんな事を考えていると、くるりとラビの顔がこちらに向かった。
    「まあ、今日は来ただけよしとするとして。さてアレン」
    「へ?は、はいっ!」
    突然名を呼ばれ、アレンは思わずいづまいを正して返事をしてしまう。
    てっきり神田の話で終わるのだとばかり思っていただけに、声の調整さえ出来ず、こじんまりとした四人だけの輪には不釣り合いな大きな声が出てしまった。
    集まる驚いたような視線に自身の失態に気付いて、真っ白だったアレンの顔が、見る間に赤く熟れてしまった。
    それに安心させるように笑いかけるリナリーに、ますますアレンは俯いてしまう。
    神田も眉を顰めはしたが、特に何を言うでもなく顔を逸らして軽く息を吐き出している。
    なんとなく、それはこれからこの空間で繰り広げられる未来の図のようで、ラビはクスクスと笑いながら、カウンター越しに見える俯いたままのアレンの頭をぐしゃぐしゃにかき混ぜた。
    「元気いい返事♪アレンはこれから、俺らの中で一番ここにいる人間さ」
    乱暴ないたわりの指先の悪戯で方々に跳ねた髪を両手で押さえ込んでいたアレンは、ラビの言葉の意味を掴みかね、首を傾げながら目を瞬かせた。
    「は、はぁ……」
    間抜けな返事に、けれど気を悪くした様子もなく、ラビは行儀悪くカウンターにもたれ掛かりながら、パラパラと手元にある、リナリー手製のメニュー候補一覧を見下ろした。
    数々の品が多岐に渡り網羅されている。軽食中心のため手軽なものが多いが、どれも栄養バランスから摂取カロリー、栄養素同士の相互作用に至るまでの詳細が書かれた代物だ。
    それを作成した時、手伝ったのはアレンだった。撮影用の料理は全て、手伝った駄賃として彼の胃の中に納められた。
    基本はこのカフェでも行う盛り付けや、ちょっとしたアレンジだ。写真を見る限り、十分及第点を上回った腕前だ。
    紙面とアレンの顔を交互に見遣り、満足そうにラビは頷いた。
    「紅茶はむしろ教える方でいけるし、惣菜系も盛り付けはOK」
    「ありがとうございます」
    ほっと肩から力を抜いたアレンは隣に座る、指導をしてくれたリナリーと嬉しそうに小さなハイタッチを交わしていた。
    働く事自体、初めてなのだ。何をすればいいかも解らないし、若干変わっている自覚のあるアレンにとって、常識と言われるものの線引きも微妙だ。
    それでもリナリーも、その兄のコムイも、たまたま書類を届けに来たリーバーという男性も、失敗しても笑顔で受け入れてきちんと最後まで教えてくれた。その成果がしっかり認められた事が、嬉しい。
    零れた笑顔は年相応に幼くて、リナリーもラビも顔をほころばせた。
    それに笑みを返しながら、アレンはずっと不自然なほどリナリーの方を向いていた。
    それに神田も呆れたようにアレンの後頭部を眺めるが、どうでもよさそうに何も言わなかった。若干、その口許が満足そうに笑んでいる事は、リナリーくらいにしか解らない。
    ………きっと最後に加わった神田との激闘を思い出すまいと、アレンは頑なに神田の方に顔を向けないのだ。
    確かに、稽古から帰ってきてキッチンに来るなり、包丁の持ち方から間違っていると、かなりのスパルタ教育が始まったのだから、アレンがむくれるのも無理はなかった。
    それを教えられてはいないが、二人の様子でなんとなく勘づいたラビは特にからかう事なくそっとしておいた。
    「あとは一番注文の多いドリンク、網羅してもらうだけ」
    紅茶は勿論、そのバリエーションも。これから教える珈琲とて、アレンジを加えればそれなりの数だ。日本茶や抹茶の点て方、フルーツジュースの搾り方。なか なか、ドリンクと一言にまとめてもその種類もジャンルも多様だ。まだ先の事は解らないが、あるいは季節で変わる種類もあるかもしれない。
    指を折りながらそんな事を伝えてみれば、アレンは目を丸めてポカンとしていた。
    「………え、僕がですか?」
    そのよく解らない膨大な量を覚えるのか、自分が。働いた事などなく、精々後見人のクロスの手伝い程度の経験しかない、自分が。
    呆気にとられたままのアレンに、いっそおうように頷いたラビは、アレンの鼻先に指を突きつけて笑った。
    「他にも色々あるさ。オープンとクローズの作業もあるし」
    ……初耳だ。確かに働かないかとは言われたし、人見知りで働き口を探す為の面接に躊躇していた身には、とてもありがたく魅力的だった。
    が、思った以上に事は大きいものなのかも知れない。顔見知りだけで本当に成り立つ事なのかすら、疑問だ。
    そんな疑問が顔に出てしまったのか、鼻先に突きつけられていた指先が、そのまま揺れてアレンの額を弾いた。
    「リナリーには経理補佐してもらうし、ユウはキッチン全面的に頼むさ」
    けして一人で全てではなく、得意分野を負担し合うだけだ。抱え込まないでいいが、かといって自身を軽んじてしまうのは困る。
    リナリーは理数系に秀でているし、神田は一通りの料理の基礎は茶事で身に付けている。
    だからそれぞれがそこを引き受ける。勿論、フロアにだって出るのは当たり前だ。
    だからひとりではないと窘めてみれば、躊躇いがちに揺れた白い前髪の奥、きょろりと周囲を見遣った銀灰が困ったように問いかけた。
    「えっと、じゃあ、僕は………?」
    特別得意な事なんて、何もない。精々紅茶を淹れる事と、かなり人よりよく食べる胃を持つくらいしか特徴のない自分だ。
    二人のように役立てる筈がないと、俯きかけた顔を引き戻すように、ラビが笑い、リナリーが肩を叩いた。………あとに、唐突に重くなった背中に、神田が遠慮なしに寄りかかった事を知った。
    多分、慰めのつもりなのかもしれない事は、苦笑しているリナリーの様子で解るが、反応にこの上もなく困った。
    同じく含み笑うラビに気付いた神田が、般若のような眼差しで睨み付けたあと、何もなかったかのようにまた自身の椅子の背凭れに沈んだ。……大分彼らに慣れ たつもりのアレンにも、やはりまだまだ理解し難い事は多いと、改めて不可解なものを見る眼差しで神田を見遣る。………案の定、睨み付けられてしまった。
    「アレンは、だからここにいるん」
    怒鳴りあいが始まる予感に、ラビはするりと二人の間に声を落として話をもとに戻した。
    それに、アレンが目を瞬かせて顔を向ける。
    ラビぎ指差したのは、今彼がいるカウンター。
    「このカフェの、入れば一番に目につくところ」
    「ここ……ですか」
    「そう。そんで、お客様のお相手さ。ギャルソンはアレンが率先していってほしいん」
    それがアレンの役だと、ラビが笑う。
    それに戸惑いリナリーに視線を向ければ、やはり同じように優しく笑っていた。多分、振り返る気はないが、神田も何も言わないならば、依存はないという事だろうか。
    「でも僕、人…苦手ですよ………?」
    仕事の面接も怖くて躊躇っていたことくらい、みんな知っている筈だ。それがたった数ヵ月後、高校に入っただけで改善されるなんて思えない。
    足を引っ張るだろうとまた俯くアレンのつむじを、今度はリナリーが突っついた。
    それに揺れた眼差しに、諭すようにラビが声をかける。
    「初めは仕方ないさ。徐々に慣れてくれればいい」
    「アレン君はね、言うなればここの看板になるの」
    戸惑い、言葉を探せないアレンに、リナリーがゆったりと話し掛けた。
    「アレン君を見かければ、ここを思い出す。そんな人」
    今もまだ、自分の居場所を見出だせず引っ込みがちなアレンだ。出来るなら時折自分達に向けてくれる笑顔が、常のものになればいい。
    そう響くリナリーの声は柔らかく、躊躇いがちに落とされたアレンの顎先が揺れた。
    それを視界の端に映しながら、神田は忌々しそうに顔をしかめるとラビを睨み付けた。
    「こんなちびモヤシ見えねぇに決まってる」
    こうして慣れた筈の自分達にさえ、しゃべる事が出来るようになったなら躊躇いと戸惑いに肩をすぼめて小さくなるのだ。
    まだ、早い。急ぎすぎてはようやく歩き始めた足を折りかねない。
    解っていながら、それでもこの馬鹿な兎はこの話を持ちかけた。が、ずっと自分は反対だった。
    「大体、無茶苦茶な計画なんだよ、クソ兎」
    時間限定で、出来るだけ多く、色々な人間に関わる。あまりにも荒療治な方法だ。
    いっそ射殺せそうな殺気を纏った神田の眼差しを、けれどラビは飄々と笑って交わしてしまう。
    「そんなん今更さぁ〜」
    楽しげな口許とは対照的な、冷めた眼差しを宿す隻眼。
    クツリと一瞬だけ笑ったその瞳は、瞬きとともに溶けて消え、人懐っこい笑みがほころぶ。
    「でも、ここはいつでも俺らが集まれて、誰にも邪魔されずに自由に動ける」
    子供と言うものは面倒くさいのだ。自由でありながら、その癖不自由だ。大人の許諾なくして世界が成り立たないのだから。
    それでは足りない。そんなものでは変えられない。
    未だ怯えて縮こまりやすいこの真っ白な子供が、青空の下で笑うには、待つだけでは到底目的は達っせないだろう。
    「客商売だから、嫌な目にもちょっとは合うかもな。でも、その何百倍も笑顔も生まれる」
    自分は見た。気弱な細い子供が、立ち向かい腕を伸ばすその瞬間を。
    そこに打算はなかった。計算もなく、あったのはただ、喜びに咲く笑顔だけだった。
    この子が進み出す為には、それがきっと必要だ。そしてそれは、与えられるだけのものでは足りない。
    「笑顔……」
    小さくアレンが呟く。それに、神田とリナリーも視線で伺っていた。
    この子が初めに笑ったのは、彼が振る舞った紅茶を自分達が飲んで、美味しいと笑ったその時だ。
    ………良くも悪くも健気なこの子は、誰かの笑顔の為に動いてこそ、笑みを咲かせるのだ。
    だから、カフェにした。
    他の面々にとってもプラスで、この子が社会に溶けて生きる術を手に出来る場所。
    「アレンの紅茶、きっと喜ぶ人がいる。リナリーのメニューを目当てにする奴も来るさ」
    「くだらねぇ」
    ゆっくりと噛んで含めるような物言いのラビに、吐き捨てるように短く神田が呟く。
    それを、ラビは見つめた。今度の眼差しは、何故かひどく柔らかく、穏やかで、神田の眉間のシワがなおのこと悪化した。
    「でもユウ、必要なんさ」
    「………………」
    「日本茶も抹茶も、勿論出すさ。嗜好も趣味も見事に違うごちゃ混ぜカフェになるけどな」
    コンセプトも何もあったものではない、出鱈目カフェになるだろう。
    構想を話した双子の兄には鼻で笑われもした。
    それでも、まとめあげてみせる。ここは、初めて自分が願った、そんな場所なのだ。
    告げる声の意外さに呆気にとられたように神田がラビを見遣る。適当にあやふやに、隙間を縫うように生きる奴だと思った相手の、知らない声だった。
    そうして落ちた静寂(しじま)に、未だ幼い高さを残した声が響いた。
    「でも、きっと……色んな人が、違うものを探しに、来るんですね」
    ぽつりぽつり、自身で確かめるように音が降る。
    そうして、そっと持ち上げられた眼差しが、カウンター越しにこの先オーナーとなる赤毛を見据えた。
    「僕は人は苦手だし、うまく笑えるか解らない。………もしかしたらまた、しゃべれなくなるかも、しれない」
    告げる声に、悲嘆はなかった。ただ真っ直ぐに、事実を綴る眼差しの奥、ひたむきに息ずく煌めきが揺れていた。
    「アレン君………」
    小さく彼の名を呼び、痛みであれば綴らなくていいと知らせるように顔を覗き見る。まるで内緒話のようだとアレンは苦笑した。
    そうして、その苦笑を柔らかく、ようやく最近こぼす事の増えたあどけなさで笑った。
    「でも、いいですか、ここにいても。試すなんて言い方は申し訳ないんですが」
    ひたむきに進む、眼差しだ。それが後押しする声音もまた、豊かに響く。
    「僕に何が出来るか、知りたいです」
    きっとこの子は愛されるだろう。誰かの笑顔を願い歩む足先は、不器用ながらも真っ直ぐ未来を見つめていた。
    「………一杯出来ること、あるさ」
    それに満足そうに頷いて、ラビは手にしたフランネルを揺らすようにもてあそんだ。
    「まずは、珈琲の淹れ方、伝授しますかね♪」
    「ちっ、面倒臭ぇ…!」
    そう舌打ちをしながら、それでも神田はラビに向き直り講義を聞く姿勢になった。
    相変わらず素直でないとラビとリナリーは視線を交わして笑い合う。
    どうせ、今日来た理由とて、この子供が無茶をしないか、無体な労働を押し付けられないか、心配でだ。
    神田にとっては自分など、いまだ顔見知り程度で信用の度合いは低い。
    解っていてもこうはっきり示されると痛むものがあるのも不思議だ。
    ………あの時、初めて声を落とした子供が笑った。その時から、多分自分の中の何かが変わり、彼らとの距離の意味が変わり始めた。
    まさかカフェ経営など学生の身で始めるとも思わなかったけれど、それ以上に、始めたいと願った理由に驚いたものだ。
    この、風変わりな、どこも重ならない友人達を、もっと知りたくなった。
    知らせてはいけない自分という存在を、覚えていてほしかった。
    それがプラスかマイナスかは、解らない。が、必ずプラスへと傾けさせて見せよう。
    「じゃあ、道具から説明するさ〜」
    のんきに声を響かせて、強かな笑みを隠したラビは屈託なくカウンターからみんなを見回した。
    胡散臭そうに睨み付ける、ムスッとした神田の顔。
    そんな神田に苦笑を浮かべながら真ん中にいるアレンの様子に気を配っているリナリー。
    キラキラと初めて見る道具を見つめて目を輝かせている、きっかけの子供、アレン。
    どんなカフェになるか、解りもしない。その先を見つめながら、ラビは笑った。
    「一先ず、よろしく?♪」
    軽い声で呟いて、カフェ開店に向けた講義が始まった。

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