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気の向くまま、思うがままの行動記録ですよ。
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    思いついて。

    ガリガリと描いていたらなんか疲れた…………
    うん、4コマでこれだけ疲れるんだから、普通にマンガ描く人達の苦労は計り知れないね。やっぱ小説の方が楽………
    そんな事考えて、やはりT&Bの16話を視聴した反動で小説書いて。
    …………疲れるよな、うん。
    きっと夏のせいだ。あとキャラ掴んでいない癖して書くからだ。でも書いていけばその内勝手にキャラ出来上がっていくんだよ。きっと。
    T&Bは携帯ではなくPCで書いているから週末じゃなきゃ書き上がらない。けど、逆に携帯で大部分を書いているD灰の短文連載は週末は一切進まないというこの逆転現象。
    てか……短文連載の癖して次の最終話が長いんだよ。書き終わるのいつだ、携帯なのに……!
    多分、前半と後半に分けて書き上げる事になるんだろうな……この長さは。基本5000文字程度までしかうまく書けません。
    スクロール長過ぎて、一番下まで辿り着くまでに1分以上かかるのは絶対おかしいもんな………。

    まあそんな雑談はまったく無関係の、おじさんの能力減退についてのお話ですよ。
    前回の兎+折紙もそういやテーマがそれだったな。まあ仕方がない、今はそんな佳境の話だ。
    …………17話視聴したら、きっと鏑木親子か夫婦か、いっそ家族にひた走るんだろうなぁ。幸せ家族大好き。





     飲みに誘った瞬間、彼は何とも言い難い顔をした。
    いつものように屈託なく喜ぶのではなく、ひらりと躱すように断るわけでもなく。頷きかけて躊躇うような、そんな微妙な仕草。
    彼らしくないな。そんな事を思いながら、いつもと変わらぬ笑みでその手を取って、連れ出した。
    違和感はずっとあった。それはごく最近発覚したものだけれど、それでもその後消える事なくあり続けた。
    初めは彼らヒーローコンビの中で解決させる事だろうと思っていたし、自分の気のせいかもしれないとも思っていた。が、それはどうやらまだ、二人の間で話し合っていないようだった。
    それに勘づいたのは、彼のバディの新記録の祝賀会の時に、現れた彼の姿を見た時だった。
    ずっと、そうした席が苦手だと姿を見せないでいた彼が、そこにいた。自分は身勝手にもずっと、彼がこうした式に現れるのは、たった一度だけだろうと思っていたのだ。
    彼が、引退する時、………強制的に参加を余儀なくされるその時だけ、訪れるのだろう、と。
    その彼がそこにいた。何か、首筋がざわざわしたその感覚に、鳥肌が立った。………ただの勘だ。解っている。何の根拠もない、身勝手な思い込みだ。
    それでも否定が出来なくなった。彼の中、何かが変わり始めている。そしてそれは、あまりいい方向へと転がらないらしい事は、あの祝賀会の中どこにも馴染もうとしない姿で、勘づいた。
    多分、それをバーナビーも感じたのだろう。本来ならば場を離れるなどしない筈の主役が、そっと別の輪に赴く振りをしてバルコニーに向かっていた。
    そこで何を話していたのか、スカイハイは知らない。が、あまり現状を打破する為の話し合いがされたわけではないらしい。どこか浮かない顔で戻ってきたバーナビーの顔に、不首尾を思い憂愁に眉を染めたのは自分だけではなく、ファイヤーエンブレムもだった。
    どうやらあちらも何か勘づいているらしいと顔を向ければ、内緒だというように鮮やかなウインクを返された。…………まだ、ファイヤーエンブレムに話を持ちかける事は許されないらしい。
    ならばと、自分らしく正面突破を考え、当事者の虎徹を捕まえた。そうしてこの10ヶ月間ずっと断り続けていた飲みの誘いを、自分から持ちかけたのだ。
    あまり店を知らない自分のチョイスよりはと、彼の馴染みのバーに行き、そこで自分は慣れないハイボールを、彼はいつものようにウイスキーを、ちびちびと舐めるように飲み合っている。酔うには少々、量が足りなく雰囲気も足りなかった。
    それはそれで、よかった。多分、それを彼も知っていて、いっそ呷ってしまいたいだろうカップを、そのままほうたらかしにしているようにも思えた。
    ………そう思ってしまう事自体、あるいは彼への依存や甘えだろうか。解らないけれど、スカイハイは小さく苦笑を落とし、ハイボールを一口、また喉に流し込んだ。
    そうして、ようやく決めた覚悟でもって、唇を開く。
    「少しだけ、悔しいよ、ワイルドくん」
    酔いは、足りない。それでも酔ったふりくらいは、しておきたかった。それは自分の為ではなく、この話を向けられる彼の為に。
    それが不要な言葉であるなら、酔っぱらいの戯れ言と、彼が一笑に付して、煩わしく思わないでくれればいい。必要な言葉ならば、酔いの中の本音と、受け入れてくれればいい。
    選択権は彼に。………いつもいつも自分達に与えてくれるばかりで欲しがる事のない、彼に捧げたかった。
    「うん?何がだ?」
    微かに引いた顎のまま、ちらり横目で覗き込む虎徹の仕草はいつもと変わらない。アイマスクがないせいで今の彼がワイルドタイガーと知るのは自分ひとりの状況だ。それでもつい、彼を呼ぶ時、いつものようにヒーロー名を告げてしまう。
    それは耳慣れているとか、言い慣れているとか、そんな理由ではなく、おそらくはきっと、自分の中、彼はずっと、プライベートですら、ヒーローだからだ。
    それに気付いたのも、つい最近だ。そして気付いたからこそ、見え始めたものがある。
    「私はヒーローである事を誇りに思う。そしてそれが全てだと気付いた」
    そっと、カウンターに肘をついてハイボールを片手に持ったまま、囁く。声は、小さく。彼以外に聞こえては困る、話だ。
    それを心得ている彼は、僅かに身体を傾けて耳を寄せてくれる。ふわり漂うアルコールの香りとともに、彼の香水が香った。意外にも彼は、そうした部分に細やかだ。その香りを好ましく味わいながら、溜め息に近い微かさで続けた。
    「君もそれは同じだろう。が、私と違う事が1つある」
    ヒーローとして誰よりも熱く真っすぐに進む人に、そんな自覚を今更問う事もない。
    彼にとって、それは何よりも素晴らしく輝く夢なのだろう。愛しい家族と離れても、それでもなお彼が続けるその理由までは知らないけれど、それでもきっと、彼はその家族の為にすら、ヒーローであろうとするのだろう。
    彼は、NEXTとして目覚め、その力の在りようを知ると同時に、それ以外のどんな道も目指す事を忘れた、ある種生粋のヒーローだ。
    そうなるべくして生まれ、そして育った。彼という宿主の中目覚め、その心を食んで育った美しい花は、今もまだ萎れる事も知らずに咲き誇っている。
    スカイハイもまた、それを見出した。自分の中、咲き続ける花。ヒーローでありたいこの心を糧に日差しに向かい咲き続ける美しい花。
    けれど、同じ花を持ちながら、それでも自分とも他のヒーローとも決定的に違う点が、彼にはある。そう呟くスカイハイに、僅かに俯いた虎徹の唇から音が漏れ落ちた。
    「………………なんだ?」
    微かに硬質化したその声に、何とはなしに予感する。………自分の予想が正しそうだという、その嬉しくない予感を。
    それを飲み込み、スカイハイは困ったような顔で虎徹を見遣る。彼の顔はカウンターを見ているようで、まったく動かない。見事な程の、警戒した仕草だ。
    「君以外のヒーローには、きちんと不調に気付き、そのとき声を掛け頼らせてくれる君というヒーローがいる。が、君には未だそれがいない」
    それをやんわりと包むように、スカイハイが囁きかける。虎徹を見つめたまま、彼の視線が戻ってくる事を、落とされたままのそれがまたすくいあげられる事を願って、囁いた。
    追いつめたいわけではない。暴きたいわけでもない。ただ、知ってほしいだけだ。そしてそれすら不要ならば、なかった事にしていいという事を、受け取ってほしいだけだ。
    「君は決して私達をぞんざいには扱わないが、悩みを打ち明けるには足りないだろう」
    告げる声は淀みなかった。虎徹の肩が先程傾けられたままの状態で、これはスルスルとその片耳にだけ滑り落ちていく。
    それを眺めながら、スカイハイはそれでも足りないと、自身もまた、身体を傾けた。
    カウンターの一角で、二人の男が身を寄せ合って小声で話すのは奇妙な光景だろう。それでもここはそうした事にもおおらかなのか、さして視線を感じる事もなく、カウンターの奥にいるバーテンダーでさえ、不可解そうな視線を向ける事がなかった。
    「何故なら、君にとって、私達もまた、守るべき相手だからだ」
    小さく、彼に伝わるように心を込めて、呟く。
    それは決して糾弾ではない。詰る言葉でもない。傲慢と、告げようと思えばそうとれる言葉だけれど、スカイハイの囁く音色が含む響きは、柔らかくあたたかかった。
    「スカイハイ……」
    それに惹かれるように、つい零れ落ちた名とともに、虎徹はその眼差しを隣の男に向けた。………思いの外近いその瞳の位置に、驚いたように目を丸めてしまう。
    間近な瞳は嬉しそうに細められ、花浅葱が綻ぶように見えた。純粋に、それを綺麗だと、思う。感情が素直にその色に映される、素直な瞳だ。
    それが次の瞬間、寂しそうにしなだれた眉の下、瞬いた。
    「歯痒いよ、ワイルドくん。君は私達ヒーローにとって、どんな姿であっても、いつであっても、確かに支えであり拠り所だ」
    ヒーローとして現場に赴いている時だけではなく、そのスーツを脱ぎ、ただの人としてそこにいる時でさえ、そうだった。
    否、違う。そんな時こそ、彼はいつだって寄り添ってくれていた。きっと、彼は誰よりも知っているのだ。………ヒーローという人間の、その孤独を。
    「それはきっと君が私達をヒーローとしてではなく、ひとりの人間として向き合い、扱ってくれるからだろう」
    囁き、そっと手にしていたグラスを持ち上げる。顔を隠すように、それを持ったまま手を重ねて額に押し付けた。
    きっと今顔を見られたら、彼はまたヒーローの顔になって、大丈夫と笑ってしまう事だろう。そんな情けない顔をしているだろう自分に、苦笑した。
    どうにも己の心に正直な顔だ。彼が辛いのだろうと思えば、同じように悲しいと思ってしまう。それに引き摺られる表情が、また彼の悲しみを深めかねない事を知っているというのに。
    「そんなもん、俺でなくたって、そうだろう?」
    思った通り、躊躇うようにこちらを伺いながら、彼は子供のように眉を垂らして唇を尖らせている。彼もまた、素直な人だ。その心がとても素直に顔に表れる。
    ………自分は自分の思いに正直に表すのに対して、彼は彼の定めた心の在り方に素直に表す。似ているようで、どこかが決定的に違う。
    それを思いながら、そっと落とした目蓋の裏で、彼が自分達には見せられない、本当の笑顔を思った。
    「違うよ、解っているだろう?」
    呟きは、思いの外力強く落ちてしまった。
    それに彼が目を瞬かせる。腕が邪魔でこちらの顔を伺えない事が不満なのか、カウンターに顔を落とすようにして見上げてくる。それでも、決して無理矢理腕を振り払わす事も、無粋に覗き見る事もなかった。
    見極めようと、しているのか。綴るべき言葉を模索しながら。………待って、いるのか。この腕がとかれ、自ら籠の鳥を止める事を。
    どちらかは解らない。解らないまま、スカイハイは額に押し当てた手のひらの熱が上がる事を感じながら、固く閉ざした目蓋の裏に浮かぶ、見た事もない彼の笑顔を思った。
    「ヒーローである限り、ヒーローというレッテルからは離れられない。それを、私はついこの間まで、嫌になるほど自覚させられた」
    KOHではなくなった自分。期待に応えられない自分。自らが掲げ、見据えていたものが霧散してしまう恐怖。
    これを生涯、忘れる事はないだろう。そしてそれは負の遺産ではなく、乗り越え前に進む為に与えられた試練であり、自身の不遜な思い上がりへの戒めだ。
    この腕は、決して万能ではない。KOHと謳われようと、最強ではない。
    人でしかないNEXTは、その力の在りようを心で決める。そうして、その心によって制御される全ては、そうであるが故に脆く不安定で、暴発するかも解らない。
    その危険を知らず歩みながら、全ては自分の腕で解決出来ると慢心した自分の、あの敗北は当たり前の結果だったと今なら思える。
    「その間も、君は待ってくれていたね。飲みの誘いを断り続けても、いつでも声を掛けろと、笑い掛けてくれた」
    だからこそ彼に甘えられず、彼の気遣いを力なく振る首1つで断り続けた。彼の誘いに乗る時は、自分自身で踏ん切りをつけたあとに、笑い合う為に、酒を酌み交わしたかった。甘やかされ慰められる、それだけの存在には、なりたくなかった。
    ………それはおそらくは、自分の身勝手な物思いだと、解っている。解っているが、その選択が過ちだとは思わない。
    あの時、彼の優しさに寄りかかったなら、自分はきっと彼の違和に気付く事はなかっただろう。
    だから、彼に与えた心配も躊躇いも不安も、申し訳なくは思うが、幾度同じ場に巻き戻っても自分は彼の誘いにだけは乗らないだろう。
    そう、己の心を見据えて、スカイハイは目蓋を持ち上げた。視界に映るのは隣でだらしなくカウンターに突っ伏したままの男の瞳によく似た、ハイボールの光。思い、もっと濃い色だと、明かりに透かして煌めくそれを見つめて唇を弧に変えた。
    「鬱憤溜めてそうな奴にはガス抜きが必要な事くらい、誰だって解るもんだ。もっとも、俺のこれは完璧ただのお節介だけどな」
    それが隙間から見えたのか、彼の声が少しだけいつもの調子で流れる。
    彼は傷付いた人間にはとても繊細だ。それはきっと、失う事を知っていて、離れる事を知っていて、それらによって打ち沈む心を知っているからだろう。
    相手には何も言わず、ただその心でだけ勘づいてしまい、どうにかしたいと腕を伸ばすお節介で甘い、シビアなこの社会で生き抜くには不向きな人。…………その世界で10年間、何があろうとヒーローたろうとした人。
    それが恋しくて、スカイハイはそっと輝くハイボールのグラスを手放し、カウンターにそれを戻すのと同時に、自分を見上げる澄んだ琥珀を見つめた。
    「……それが必要な時があるだろう。君は普段はいくらでも戯けるが、そういう時はただ、待ってくれる」
    どうしていいか解らずたたらを踏む足先で、小さく笑んだままいつだって手を差し伸べ、その手を取るまで待ってくれている。
    躊躇い怯え、時には間違った方に歩みそうになる足を、窘め引き寄せ、それでもまた手を離して、己の意思で掴みとるまで、じっとそこにいてくれる人。
    ………希有な、人だ。解っている。だからこそ孤独なヒーロー達は彼を拠り所にしてしまう。
    「こちらが答えを出すまで、ちゃんと待ってくれる。だから、今日は私が誘ったんだ」
    瞬く琥珀は不思議そうに明かりを灯して輝いていた。照明が眩いのだろう。眇めた眼差しが閉ざされたあと、そのまま起き上がり、彼は首を回した。
    まるで、今まで突っ伏していたのは眠かったからだとでも言いたそうに、わざと噛み殺した欠伸を付け加えながら。
    「うん?どういうこった?」
    素っ気ないくらい当たり前の声で問う。その癖、気配はこちらに向いたままだ。
    それに笑いかけ、スカイハイは頷いた。
    「簡単な話だ。そして単純だ」
    肩を寄せたままの状態で、そっと身体を反らしている彼の鼻先に指先を向ける。行儀は悪いがその点は目を瞑ってもらおう。丸まった瞳が、彼の顔を歳よりも随分幼く見せた。……東洋人の血のせいだろうか。
    それに嬉し気に笑みを向けながら、からかうようにその鼻先を爪弾いた。
    「君にも教えたかった。救いなど与えられないだろうけれど、待っている腕がある。君がどんな状態になろうと、環境に置かれようと、その手に持つものも、君という価値も、何一つ変わらない」
    不満そうに痛む鼻を手のひらで覆いながら、肩をすぼめた虎徹が睨むようにスカイハイを見上げた。
    真っすぐに彼を映す琥珀の奥底、微かに波打つ、何か。
    それがなんであるのか、スカイハイは解らない。予測は、している。いくつかの状況と、それに合致する彼の行動。導かれる解答。
    けれど、その答えをスカイハイは知らない。まだ、きっと彼自身も解ってはいない。否、解っていても、決めかねている。きっと自分が悩み惑っていた10ヶ月と同じ期間に入り込んでいるのだ。
    だから誘った。彼が誘い続けてくれたように、同じ思いでこの手を差し出したと知ってほしかったから。
    ………鈍くて、そして誰かのヒーローであり続けようとする彼には、差し出す腕だけでなく、一度は掴んでそうなのだと自己主張しなくては届かないのは、少しだけ格好がつかなくて滑稽だったけれど。
    それでも、贈る言葉に躊躇いなどなかった。告げたかった。与えたかった。……そうあれる事が、いっそ誇らしい程、嬉しかったのだから。
    「君は君だ。そして君以外の何者にもなれない」
    だから咲いた花浅葱の鮮やかな笑みに、虎徹は肩を竦めるようにして身体から力を抜き、戯けるようにシニカルな笑みを浮かべた。
    「解らねぇよ?俺だってただの人間だ。苛立ちゃ八つ当たりもするし、人を憎んだり恨んだりもするだろうよ」
    そんな風に大層な言葉を捧げられる程己が出来た人間ではない事を知っている虎徹にしてみれば、過ぎた評価だ。
    竦めた肩は自虐でもなんでもなく、真実その通りなのだから、夢を壊さない程度には現実を知ってもらわなくてはいけない。
    過大評価は、今の自分には困る代物だ。いざという時、それに応えられない場合、互いの命を危険に晒す可能性がある。
    そう示唆する虎徹に、解っているというようにスカイハイは頷いた。
    決して、自分とて彼を美しく清らかな、絶対のヒーローだなどと崇拝するつもりはない。そんなものは、自分達ヒーローにしてみれば足枷になりかねないものだ。
    だから、自分が信じているものはそこではないと教えるように、彼の元に贈る架け橋が繋がるにはまだ残されたままの溝を埋める言葉を、綴った。
    「それを君自身は知っていて、それを乗り越えようと今までも足掻き、生きてきた。その結果が今の君ならば、それが答えだろう?……それを、伝えたかった」
    誰の心にだって負の感情は植えられていて、必ず顔を覗かせる事がある。それが一度もないなどというのは、あからさまな嘘か、自己弁護でしかない。
    そして彼は、それを知り、それを見据え、同時に己の在りたい姿を模索して、澱みを飲み込み浄化する術を見出そうと足掻いてきた人だ。
    その、拙く幼稚で、不器用極まりない危なっかしい歩みを、自分は愛している。その歩みこそが、自分が彼をヒーローなのだと思い憧れ、その背に己のヒーローたる在り方を見出しこの世界に入った、理由だ。
    「君の悩みも、抱えている問題も、私には口出し出来ない」
    同じヒーローであっても同時にライバルでしかない自分に、差し出せるカードは彼とてないだろう。解っているから、深入りはしない。彼がいいとそう思えるその時まで、聞き出そうとも思わない。
    それが許されるのは、彼のバディだけだ。解っている。それを悔しいと思う心だって、きちんと自覚している。
    きっと、この彼の悩みを共に分ち乗り越えるのは、自分ではない。彼の隣にいるのもまた、自分ではないのだ。
    コンビという異色のヒーローである事が羨ましい。……たったそれだけで、決められた会社の方針というそれだけで、彼の抱えるものを詰問する事も、共に戦う事も、彼に涙を流させは澱みの全てを吐き出させる事も、許されるのだから。
    「…………ただの勘違いかもしれないし、思い過ごしかもしれないからね」
    未だそのアクションを起こしていない事だけが気になるけれど、きっとそう遅くはならないだろう。速く、彼が動き出して、悩みの中に沈む己のバディーをすくいあげてくれればいい。
    ………悔しいけれど、その役目だけは、自分では成せないのだから。
    思い、噛み締めかけた唇を必死の虚勢で笑みに変えていれば、かたんと、彼の手のひらがカウンターの上で跳ねた。
    「お前、何か……知ってんのか?」
    見開かれた琥珀の中の、微かな怯え。まだ答えを見出していないものにとって、暴かれる事は、恐怖だ。
    それを思い、スカイハイは首を振った。事実、まだ自分は彼の抱えるものを、知り得ているわけではないのだ。
    「いいや、何も。残念ながら私は影で何かをやろうとしても、必ず失敗するんだ。だから、君が知る以上の何も、私は知らないだろう。ただ、私が見てきた君の事は、知っている」
    そっとグラスをとって、苦笑を零す。本当に自分は暗躍とか、陰で支えるとか、そうした事が不得手だ。夜のパトロールだって、誰にも見つからないようにこっそり行っているつもりだったのに、ファイヤーエンブレムはもとより、自分よりも古馴染みのヒーローや会社の人間にはあっさりバレてしまっていた。
    「だから、出来る事なら勘違いであればいいとも、思う。が、この先の答えを見出すのは、君自身だ」
    KOHだった自分も、拙く滑稽で、幼かった。だからこの世に完璧なヒーローなどおらず、必ず挫折や苦しみを味わって、そうして成長していくのだ。
    それはヒーローに限らず、人間という生き物が味わい乗り越えなくてはいけない、当たり前の試練だ。
    だから、そんなにも惑う眼差しで俯く必要はない。種類は違う。意味も違う。それでも、誰もが必ず味わう、遣る瀬無い程の無力感は在る。
    ただそれは、独りでは乗り越えられない。どれ程孤独な道のりでも、その出口に光がなくては進めない。
    自分の出口には、彼がいると知っていた。待ち続けてくれた。首を降り続ける自分に、それでも絶えず差し伸べられたままの手のひら。
    ………今度は、自分が彼に差し伸べる番だ。
    「待つよ、私も。君が10ヶ月間も待ち、見守ってくれたように。いくらでも、君が必要としてくれるまで、私も待ってみよう」
    負担とならないように気軽に、軽い声で。彼を真似て、告げてみる。
    揺れた琥珀が彷徨うように店内を見回していた。
    「だからどうか、ワイルドくん。忘れないでくれ」
    重ねる言葉に、返る言葉はない。解っている。彼が応えられる言葉がない事を。
    それでいいのだというように頷き、手の中のグラスを回した。煌めくハイボールの中の氷が、高い音を響かせた。
    「君は独りではなく、何を考え選択したとしても」
    それを見つめながら、やはりこの明るく薄い色ではなく、深く鮮やかな琥珀色を覗きたくなった。
    誘惑は抗い難く、スカイハイは隣の男を盗み見るように視線を映した。同時に交わった眼差しに、思わずこちらまで目を丸めてしまう。
    逸らされなかった視線が嬉しくて、視野が揺れた。こんな事で自分が満たされるべきではないと解っていながら、拒まれなかった安堵に、涙が浮かんだ。
    「………必ず、私達はどんな時でも君を思い、迎えるだろう」
    躊躇わず、彼の顔を覗き込むように、囁きかけた。僅かに引かれた彼の顎。見据えるように真っすぐな琥珀の瞳。
    逃げない、生粋の眼差しが、自分を射た。
    「君がヒーローではなく、ひとりの人として対峙し続けてくれたように」
    ひとつとして嘘ではないと、教えるように、刻むように、さえずった。その声が甘く満ちていた事など、自分では解らない。ただ、懇願にも似た思いで、捧げたかった。
    自分達が抱え、彼が気付かない、彼への祈りであり、彼と同じ程の慈しみを。
    「私達もまた、君という個を、とても愛しているんだ」
    どうかそれを忘れないで。……小さく小さくそう呟いて、それ以上を囁きそうな唇を戒めるように、スカイハイは手の中のハイボールを口に含んだ。
    冷えた液体が喉を通過する、その僅かな時間。
    隣では微かに吸い込まれた息が、ゆるゆると吐き出され、そっと俯きその目元に影を作った。
    きっと、その眼差しは揺れているだろう。推測が合っているならば、彼の能力に何かしらの異変が生じている筈だ。
    それは、あるいはヒーローとしての活動に支障をきたしている事かもしれない。知識を持ち合わせていない自分には、残念ながら何も解りはしない。それが、歯痒い。
    歯痒いけれど、下手に探りを入れて彼に迷惑を掛ける結果を招くくらいならば、その苦しみくらいは飲み込んでおこうと、決めた。
    そっと彼の左手がカウンターの上、蠢いた。ずっと手をつけていなかった焼酎が、ようやくその手に包まれた。
    水滴の浮かぶグラスを包む、銀の指輪を薬指にはめた手のひらを横目に見た。
    グラスの側面をいじりながら、暫くの躊躇いの間。そうしてその指先が止まると同時に響いた、小さな……自分にだけ聞こえる程に微かな声。

    …………ありがとうと、震えた、その音。


    それに視界がぼやけてしまう。
    彼が、言葉を受け取ってくれた事が、嬉しかった。




    ………君の中、何かをほぐせる言葉が贈れたならいい。
    君がくれた多くの喜びと安堵のように、与えられればいい。

    ヒーロー達を繋ぐ架け橋の君。

    同じように私達もまた、君に捧げる腕を持っていると、伝わればいい。



    架け橋は決して一方通行ではないのだから……………

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