ねえ君は今どこにいる?
こんな風に囚われて足手まといになっている自分とは違い、君は相も変わらず颯爽と駆けて人々を守り微笑んでいるだろうか。
出来る事ならそうだといい。そうあってくれればいい。
それでも悲しいくらい、伝わってくるよ。君の嘆きと慟哭が。苦しみと愛惜と淀む程に暗い世界の残酷さが。
………そんなものを足蹴にして、逃げ出す君ならよかったのに。
逃げ出さない君だから、こんなにも心を預けてしまった。
君は今どこにいる?
教団の中、いつもの自室で、ティムと戯れているといい。
そのドアをノックして、返事もない内に開けて、怒る君の拗ねた顔が見たい。
………うん、わざとって、君は知っていたね。それでもちゃんと、いつも必ず注意をする、そんな君だった。
ねえ君は、どこにいる?
どうしてその部屋はきっと空で、明かりも灯っていないと思うのだろう。
ああ…ノアの声が煩い。耳にざらつき、君の柔らかな音色が穢されそうだ。
幾度も幾度もリフレインさせる。君の声、君の微笑み、日差しに溶けた真っ白な髪、月を映した銀灰の瞳。
まるで夢のように綺麗だ。そう告げてみれば、買い被りと苦笑した、その仕草さえ溜め息が出る程目を惹き付ける。
今すぐ教団に帰れたら、またその笑みを見せてくれる?
………ああ、どうして君がそこにいないと、確信してしまえるのだろう。
外は朝か夜か。それとも昼間か夕方か。何一つ解らない。
これで世界の記録者だなんて笑ってしまう。
自分置かれた空間の情報すら手に入らないなんて、とんだ失態だ。
早く帰らないと。……そうして君を抱き締めよう。
泣いている君の声が聞こえるよ。どうしてだろう、君は悲しみの涙なんて一度だって見せはしなかったのに。
いつだって前を睨んで突き進もうと、光の中溶けるように白いその身を舞わせていた。
その白が黒く侵されはしないかと、どうして今そんな事を思うのだろう。
………まだ大丈夫。世界は壊れていない。闇に染まってはいない。
小さく呟き、脳裏の君に笑いかける。
その頬を染める涙を、口吻けで全て無くせればいいのに。
ほら、独り背負わないで。悲しければ悲しいと涙して、苦しいのだと泣き言を言ってごらん。
それくらい、受け止める度量はあるつもりだ。そうして泣いて喚いて、お互い心の中を空っぽに出来るくらい、吐き出して。
そうしたら、空を見上げよう?
二人流した涙の代わりに、きっと綺麗な青空に虹が輝く。
離れ離れ、隣にもいない。
それでも脳裏に君は涙して、苦しんでいる事が解るよ。
だから、隣に駆けて行きたい。そうして二人手を繋ぎ、果てる程に泣いて喚いて。
そうして、空っぽになって見上げた空の虹の先、歩いて行こう。
君と二人なら、明日を信じられるんだ。

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