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気の向くまま、思うがままの行動記録ですよ。
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    カフェ物語18。

    やっと書き終わった。ギリで2月だからバレンタインの季節は許して!!!

    まあそうはいっても、別にバレンタインだから何かあるわけじゃないですよー。
    パティスリーの面々はアレンの餌付けが大好きです。そんな話。


    あとあと笑顔に怒りマーク貼付けたカフェオーナーに殴り込みかけられるといいよ。人の店のスタッフ懐柔しようとすんなさって(笑)




     「出来ましたわ、兄様」
     緊張した面持ちでテワクが手にした皿をマダラオに差し出した。
     皿の上に乗っているのは飾り気のないショコラだ。ただし、キューブの形をしたそれには、マドラーが差し込まれていて手を汚さずとも口に運べるようになっている。勿論、あたたかいミルクにそのまま放り込んで掻き混ぜればあっという間にショコラショーが出来上がる代物だ。
     じっとそれを見つめるマダラオに、テワクは覚悟を決めたかのようにこくりと息を飲んだ。
     「味見を、お願いします」
     真剣な眼差しに応えるように頷き、マダラオはマドラーを摘み、ショコラを口に運ぶ。
     口に含んだ時の香り、口どけ、味わい。吟味しながらゆっくりと味わい、マダラオは睫毛を落とした。微かなキャラメルのほろ苦さがアクセントになっており、違和感なくほろりと崩れ抑えられた甘味が口腔内に広がる。テンパリングは完璧で、舌触りに違和感はなかった。
     「……大丈夫だ。喜んでくれるだろう」
     「よかった…!では、早速ラッピングをしてきますわ。ああ、その前に連絡をしなくては!」
     マダラオの言葉に目を輝かせたテワクは嬉しげに顔をほころばせて、珍しくもはしゃぐような仕草で声を弾ませていた。
     その後ろ姿を見遣り、近くにいたトクサが砂糖の計量の手を止める事なく問いかけた。
     「随分はしゃいでいますね」
     「バレンタインだから仕方がない」
     微かに鋭い声音に、ちらり、トクサを見遣ったあと、軽い吐息をマダラオは落とした。
     トクサの話し方はどうにも棘が含まれる事が多い。当人の意思ではなく、自分達の生い立ち故の一種の自己防衛手段だ。が、もう少し慣れたものには柔げられてもいいだろうとも、思う。そんな器用な相手ではないと解ってはいるが。
     ……もっとも、かくいうマダラオ自身とて、さした差がないのが実情だ。このパティスリーのパティシエ達は、どうにも接客には向かない面々なのだ。
     「……テワクに相手が?」
     その癖、懐に入れた相手に対してひどく過保護なのも同じだ。そう彼の声の中にある冷たさに不安と心配を読み取りながら、マダラオは小さく頤を振った。
     「違う。感謝と礼だ。アレンに」
     ………つい先日彼はインフルエンザにかかったテワクに代わり、ここで働いてくれた。
     その事への感謝の印だ。そう告げてみれば、まるで名案を聞いたと言わんばかりにトクサの眼差しが輝いた。………嫌な予感がした。むしろ、嫌な予感しかしなかった。
     「ああ、そういう事ですか。そうですね、礼くらいはするのが筋というものです」
     そう口早に告げたトクサは、いそいそと計量の終わった砂糖を脇に避け、林檎に手を伸ばした。
     おかしい。彼がいま作ろうとしていた菓子はガトー・バスクであって、林檎は使わない。
     「待て。……何を作り出している、トクサ」
     訝しみ問うマダラオに、トクサは怪訝な顔で眉を顰め、さくりと林檎を切り始めた。
     「何ですか。私のタルト・タタンは好評ですよ」
     あの食いしん坊ならホールで与えても喜ぶ。そう得意気に告げながら、彼の指先は止まる事なく林檎を刻み、皮を剥いていく。見事な腕前だ。
     「……リンク」
     止めるべきかと悩み、近くを通りすぎようとしたリンクを視線も向けずに呼び止めた。
     名の中に全ての問い掛けを含むマダラオの声に軽い溜め息を落としながら、リンクは長閑になったキッチンの雰囲気を見つめた。
     「諦めなさい。すでにキレドリとゴウシも作り始めています」
     言われ、そちらを見たマダラオは微かな苦笑を浮かべてしまう。……しっかり聞き耳を立てていたらしい面々が、それぞれに得意な菓子に着手し始めている。
     キレドリはパウンドケーキを、ゴウシは飴細工を。どちらも季節に合わせてフレーバーと細工の形を変えている。
     「………アレンは好かれているな」
     アレンジはなかなか面倒臭いものだ。それでも即座にそれを想定し、手を伸ばす。その原動力は、間違いなく純粋な好意と感謝だろう。
     「今更ですよ、マダラオ」
     そう告げる密やかな声にリンクは視線を揺らし、微かに眉間にシワを寄せた。
     「だからこそ、こちらに来てほしいところですが…」
     「アレン自身に意思がない。……難しい話だ」
     彼は菓子を愛しみ心を織り込む。ただ喜びに咲く笑みを願い種を蒔く、得難い存在だ。
     彼がいた、たった一週間を思い出す。……もっと共に働きたいと願わせる、少年だった。
     それでも彼が望んだのは彼の仲間のいるカフェで、このパティスリーは彼の帰る場所にはなり得なかった。
     ……思い、小さな吐息を落とし、二人はその話を切り上げた。



     「こんにちは…って、何があったんですか?」
     メールで今日帰りに寄るように呼ばれてやってきたアレンは、パティスリーの従業員用の出入口から中に入り込むと同時に驚いたように問いかけた。
     それを気に掛ける事なくアレンの姿に気付いたキレドリが顔を向けて会釈をした。
     「よく来た、アレン」
     「息災で何よりだ」
     ゴウシもそれに応じ、アレンに声を掛けた。
     「ありがとうございます。……ところで、マダラオはどうかしたんですか?」
     それらに顔を向けて頭を下げ、改めてアレンは問いかけた。明らかにマダラオの顔色が良くない。その上、普段纏っている雰囲気というか気配というか、凛としたそれらがどこかほころび疲れを滲ませている。
     そんなマダラオは初めて見た。テワクが病に倒れた一週間の忙殺されそうな時期ですら、彼は飄々と全てをこなしていたのだ。アレンの微かな驚きを含む声を、けれど取り合わないかのような静かな声で、マダラオは澄ました顔のまま低く呟きかえした。
     「…………なんの話だ」
     「見て丸解りですよ、全く。強情なのは相変わらずですね」
     そんなマダラオの素っ気なさを密やかに非難するようにトクサが顔を顰めて告げた。鋭い眼光がマダラオから寄越されたが、構う必要はないだろう。そう素知らぬ顔で受け流すトクサに、不安を銀灰に乗せたアレンが小さく問い掛けた。
     「何か、あったんですか?」
     「……昨日、兄様は催事場に行かれましたの」
     ぎゅっと手を握り締め、テワクはマダラオの影に隠れるようにして、けれど心配そうに兄を見遣りながら小さくアレンに答えた。
     「え?デパートとかのですか?」
     「マダラオは前年度の入賞者だ、アレン」
     不思議そうなアレンに、キレドリが端的な説明を綴る。それに目を向けて、それでもまだよく解らないと首を傾げるアレンに、キレドリの奥にいたゴウシが言葉を付け加えた。
     「ショコラティエとして名が通っている。その上、若く見た目もこの通りだからな。バレンタインの時期には催事場に引っ張り凧だ」
     「へ?ショコラティエがですか?」
     「チョコの実演は元より、購入者の箱にサインをしたりもしますよ」
     ますますきょとんとしたアレンに、今度はトクサが溜め息を吐きながら告げた。
     ……けしてそれは小馬鹿にしたものではなく、自身がまだそのレベルにいない事に対してのものだ。
     言われずとも知っているアレンは、ただ目を丸めて珍しく疲れを表に出しているマダラオを見つめた。
     「……た、大変なんですね」
     ただお菓子を作るだけでは済まない、その事実にアレンは素直に驚いた。
     みんな菓子を作る事は得意だが、営業スマイルさえ出来ない不器用者だ。そんな彼らにとって、これはなかなかの試練だろう。
     しかもバレンタインの催事場。………女性達の戦場だ。食いしん坊で美味しいものが大好きな自分ですら、入り込む事を躊躇う世界と言って過言ではない。
     「慣れている」
     「でも、顔色よくないですよ。ご苦労様でした」
     溜め息のような解答にも普段の覇気がない。心配そうに眉を垂らしたアレンは、ちらりと時計を仰ぎ見て、こくりと頷いた。
     そうしてぱんっと軽く両手を合わせてにこりと極上の笑顔を浮かべ、提案した。
     「そうだ。折角ですし、僕、少し手伝いますよ。閉め作業、までまだありますよね?」
     早速と腕捲りをするアレンに、キレドリが慌てたように制止をかけた。
     「アレン、無理はしなくていい」
     無表情なキレドリの顔の中、微かに眇められた眼差しが揺れて心配そうに瞬いた。……一緒にいられるのは、嬉しい。嬉しいが、だからといっと彼に無理をさせたいとは思わないのだ。
     同じ思いのゴウシもまた、巨漢を小さくするようにしてアレンを見遣り、軽く首を振った。
     「カフェの帰りだろう?」
     疲れている筈だと言外に響かせる優しい声達に、アレンは変わらぬ笑顔のまま、力強く頤を振る。
     「平気ですよ。ほら、二人も早く仕込みに戻ってください。フロアは僕が受け持ちますから」
     きっと今はフロアはリンクがいる事だろう。ならばリンクにもキッチンに入ってもらえば、マダラオの負担は減る。そう囁く真っ直ぐな声音。優しさを称えた眼差し。
     ………手助けをしたいのだと告げるいとけない仕草に、パティシエ達は自然、顔を見合わせた。
     今日呼び寄せたのは自分達だ。彼に感謝と好意を捧げる事が許される日だからと、みんな彼が好みそうな菓子を作って待っていた。
     喜ばせたかったから、呼んだ、のに。……これでは自分達が嬉しいばかりだ。
     「でも、アレン…いいんですの?」
     困ったように眉を垂らしたテワクが、マダラオに寄り添いながら不安そうに小さく問いかける。
     それに不思議そうに首を傾げ、アレンは頷いた。
     「?構いませんよ。さ、テワクはマダラオに少し休憩させて」
     そっと彼女に兄の世話を促した。……マダラオは言葉数も少なくそつなく素っ気ないが、妹をとても大事にしている。それは関われば誰もがすぐに気付く事だ。そして勿論、アレンもそれを熟知していた。
     だからこその采配に、マダラオは微かに渋い顔をしている。そんな彼に、アレンは茶目っ気を乗せて輝かせた銀灰でウインクを落とした。
     「ちゃんと休む事も仕事の一環です。って、前にリンクに言われましたよ」
     あなた方の長の言葉なら従うでしょう、と暗に示す戯けながらもいたわる声に、マダラオ達は虚を突かれたように目を丸めた。……ついで仕方がなさそうに微かに唇を笑みに染め、交わした視線で頷きあった。
     それを眺め、後日カフェのオーナーからの小言を想像しながら、マダラオはアレンを見遣る。
     「………解った。頼めるか」
     「勿論です!」
     明るく響いたアレンの声に、テワクはほころぶように笑った。……以前自分がインフルエンザにかかった時、彼がヘルプしてくれた。
     助けてもらいながらの我が儘だとは解っているけれど、自分とて一緒に働きたかった。
     菓子を愛し、その作り手の心を思い、大切に食む事を知る人だ。彩りなす自分達の菓子が彼の手で人々の笑顔に変わる様を見れるなんて、どれ程素晴らしい時間だろうか。
     思い、ギュッとマダラオの服を握り締めながら、テワクは必死に一歩を踏み出した。そうして幾度も練習した言葉を綴った。
     「ア、アレン、あの、あとで…以前のお礼、に……チョコを作りましたの、受け取っていただけます?」
     声が、僅かに震えていた。まだまだ人と関わる事が不得手なテワクにとって、兄の影越しに眺めたり声を掛ける事がずっと精一杯だった。
     そんな彼女からの突然の真っ直ぐな発言に、アレンは驚いたように目を瞬かせた。
     「え?いいんですか?」
     「も、勿論ですわっ」
     言葉を繋げる事も緊張している様に、アレンはふわり、笑った。彼女の勇気と怯えは、自分にもよく解る。そして、その怖さをし言っているからこそ、それを与えようとしてくれる彼女の優しさが嬉しかった。
     だから浮かんだ笑みは、誰もに喜びを教える柔らかな笑み。
     「ありがとうございます、楽しみにしていますね」
     響く声も柔らかく、喜びに染まり感謝を讃えていた。
     「ああ、私も新作がありました。折角ですから、味見をさせてあげてもいいですよ」
     テワクが告げれば、トクサがそれに便乗するように声を添えた。
     それにパチリと目を瞬かせたアレンに、キレドリが躊躇いがちに袖を引いて棚の上部に置かれた、二つの並んだ紙袋を指差した。
     「僕も、お礼…持ち帰れるから、帰りに渡す」
     「飴細工が余っているから、それも食べてくれ」
     隣の袋だと分厚い唇を笑みに彩らせたゴウシが告げた。
     「え?えっと?いいん…ですか?みんな??」
     「構わない。受け取ってくれ、アレン」
     何事だろうと目を丸めて戸惑うアレンに、マダラオは小さく笑んだ。微かすぎてそれは慣れ親しんだ人間にしか伝わらない華だ。
     が、アレンは銀灰を溶かすように細めてそれを見つめ、嬉しげに笑みを浮かべた。
     「助かった感謝の気持ちだ」
     「ふふ、嬉しいです。僕もね、お土産があるんです」
     柔らかに響くマダラオの声に応えるように優しい音色でアレンが笑う。
     「ラビが分けてくれた、とっておきの紅茶!店を閉めたら淹れますから、みんなで休憩しましょう♪」
     朗らかにアレンは笑い、明るい声を響かせた。それを見つめ、パティシエ達は頷き小さく笑う。
     不器用な彼らの精一杯の喜びの形にアレンは柔らかく銀灰を細めて笑むと、キッチンを気にしているだろうリンクの待つフロアへとむかっていった。



     ………閉店まであと一時間。
     物足りないくらいの時間が、今は少しでも早く過ぎればいいと願ってしまう。

     そうして店を閉めて声を掛け合い、彼の淹れた紅茶の香りに満たされる。
     自分達の菓子を幸せそうに食み、喜びの声を与えてくれる。

     それはなんて幸せな時間だろう。


     ………そう、静かに落とした唇の笑みでパティシエ達は語らった。

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