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気の向くまま、思うがままの行動記録ですよ。
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    短文連載6

     龍笛のお稽古に行ったおかげで、短文連載が1つ出来上がりましたよー。

    スクラン小説はまだ無理。うん、長いわ、これ。ザハミル小説くらいになりそうな予感………(遠い目)



      軽いノックの音に老人は目を向けた。確認するまでもなく、ドアの外の気配は少年のものだ。

     「遅くなりました」

     「時間の約束まではしていない。気にするな」

     「あれ、ラビは………」

     いつもならば老人に続いて彼の声も響くが、今日は聞こえない。室内にいる事だけは確かな筈だと 首を傾げてみれば、老人が顎をしゃくって奥にいる青年を示した。

     「没頭しておるから、気にかけるな」

     今はまだ気付かないだろう。少年の気配もささやかで、その声も潜められている。

     首だけを室内に入り込ませた少年は奥の机に向かう背中を見つけて目を丸めた。

     「うわぁ…ドアの音も解らないくらいなんですね」

     「危険がない限りは入り込む。それくらいの集中力は不可欠だ」

     「………大変ですね、『ブックマン』は」

     小さく呟き、少年は躊躇いがちに眉を垂らしている。そこにいる青年は確かによく知る背中だが、同じくらい知らない背中だ。容易く踏み込む事は許されない、彼らの本来の姿。

     「それを選んだ人間の性(さが)によく似たものだ。気にするな」

     そんな躊躇いの様子に苦笑し、老人は素っ気ないほど軽く青年の背中を流した。その気遣いに小さく少年は笑い、手にしていた荷物を掲げた。

     「あの、ブックマン、これ、一応食堂で淹れてきました」

     ドアから中を覗いたまま、少年は訪ね来た理由であるポットを二つ、差し出した。

     片方は紅茶が、片方には緑茶が入っている。どちらも食堂から借りたポットだが、絵柄が兎とパンダを渡された辺り、料理長はなかなか二人を気に入っているようだ。

     それを愉快そうに眺めた茶目っ気のある老人が、少年が入れるようにドアを押し開いた。

     「すまんな。ここもなんだ、中に………」

     「えっ?で、でもラビの邪魔になりますから」

     彼らの仕事は繊細だ。文書も記録も必要とせず、全て脳という、当人の生体器官に頼って成される。

     記録される全ては正しく分類されてはいるが、圧縮もされている。きちんとそれらのラベルを間違う事なく見出だし繋ぎ合わせ、そうしてその中から更に必要ものを選り分けたあと、やっと記述する為の材料が出来上がり、組み合わせ試算する作業に入る。

     他人が傍にいれば邪魔になるだろう。初めから差し入れだけを持ってくるつもりだった少年は、老人の言葉に首を振った。

     「おぬし一人いるだけで途切れる集中ならば、折檻が必要だな」

     「ええっ」

     「冗談だ。今のところ、な」

     とぼけたふりでニヤリと笑う老人に、少年は吹き出すように破顔した。

     ………多分、戯けて見せているが、実際そうなれば本当に蹴り倒すか仕事割り増しか組手か、何か青年が嫌だと思うものをチョイスして与える事だろう。

     あくまでも原因は集中力を持続出来なかった青年にあり、少年は無関係なのだと、遠慮を差し出すと告げてくれる優しさが嬉しかった。

     「ははっ、じゃあ、少しだけ。あ、お菓子もいただいたんです。ほら♪」

     緑茶の葉っぱを分けてもらおうと料理長に話をしたら、あれもこれもと手軽に食べられる菓子を包んでくれた。

     嬉しげに可愛い紙袋を掲げた少年に目で頷き、老人は室内に招いた。

     大分散らかってはいるが、今更だ。老人は少年に一番近い本の山を指差した。

     「その辺りは返却分だ。適当によけて座るといい」

     そのまま奥に進み、恐らくはカップや菓子を置く皿を準備するらしい老人の背中に、控えめな声で少年が追いかけた。

     「あ、僕がしますよ」

     座るスペースは当然だが、お茶の準備くらい、出来る。もう勝手知ったる部屋だった。

     「たわけ、部屋の主の言う事をきかんか」

     「う、ん?………なら、お言葉に甘えて。手伝う事があったら言ってくださいね」

     少しは休んで人に甘える時間も必要だ。そう言葉にはせずに告げてくれる老人の背中に感謝を込めて囁けば、ちらりと老人の視線が青年の背中に注がれた。

     「それならそこの馬鹿がサボらんように見張ってくれ」

     僅かながら、こちらを気にして手の動きが鈍りだした。それは老人でなければ解らないレベルの差異だ。

     それを知らない少年はふわりと目を細めて仕事に勤しむ青年の背を見つめた。

     「サボったら左手発動させておきます♪」

     クスクスと答えながら、少年はベッドの近くに山積みになった本を丁寧に重ね直して、人が座れるスペースを作った。

     ……早く青年の仕事が終わるといい。

     そうしたなら一緒にお茶を飲んで、このあと遊びにいく場所の話を聞いて。

     それから、出来る事なら、重なり膨らみ溢れてしまうほどに増えた感謝の言葉を、捧げてみたい。

     笑ってくれるか、窘められるか。

     

     

     ………厭われなかったなら、クロウリーにこっそり報告しなくては。

     

     

     

     そんな事を考えながら、少年は老人が手渡してくれたカップに紅茶を注いだ。

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