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気の向くまま、思うがままの行動記録ですよ。
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    短文の続き物に挑戦。

     いかに短めで、きりよくうまくまとまるかが勝負…………!

    うん、なんだか負ける為に起こした勝負っていう声が聞こえるね。
    でも初めはうまく言ったから勝負を仕掛けたんですよ!次がどうなるかは謎だけどね!

    そんなわけで、今回はまだ成立前のラビアレで、ブックマンとともに流れていきますよ。
    ブックマン書きたかっただけとか、そんな核心を突いたらいけません。
    ちゃんとアレンも書きたいですよ。うん、兎もね。
    一応目安では3か4話程度で終わる予定です。それより短くはなりません。現状で2で終わってないもん(オイ)

    では短いからさくっと読み終えられる量ですよー。珍しいね、私が!
    でもこれでも過去に書いていた拍手小説よりは長い。やっぱりまだ昔の方が短文書けたのかなぁ………
    退化していっとる………!



     

     食堂から自室に向かう途中、小柄な背中が周囲を見回している姿が見えた。

     廊下の先だけでなく、折れ曲がる道や階段の上下までくまなく視線を走らせている。

     決して仰々しい仕草ではないが、物静かなその背中が辺りを探索するかのように注意深く観察している事が、一緒に旅をしていた少年には解った。

     ………あの老人には珍しい仕草だ。いつも目的のものを一瞬で見出して、知らぬ内にそれを手にしているのだから。

     何かあったのだろうかと、少年はその背中に声をかけた。

     「ブックマン!おはようございます、何か探し物ですか?」

     「む、アレンか。いや、物というかな、ラビを見かけんかったか?」

     辺りを見回していた老人は少年に振り返ると、さも当たり前のように自身の弟子の名を問いかけた。それに少年はぱちりと目を瞬かせた。

     その反応に、老人は気付かれぬよう苦笑した。彼なら知っている可能性が高いと、老人は知っていて、少年は知らない事実だ。当然といえば当然の仕草を失念するのは、あまりに己の弟子があからさまだからだろうか。

     けれど人の機微に過敏な程鋭い彼は、何故かこちら方面に関しては決定的なまでに鈍かった。証拠に、老人の問いかけに少年は首を傾げてしまった。何故自分に聞かれたか解らないと、その仕草が教えていて、少々弟子が不憫に思える程だ。

     まだ朝で、やっと先程昼食が終わったところだ。食堂で会わない限り、いくら同じ建物内にいると言っても、敷地が広大すぎて出会う事はそうはない。だからこそ、何か特別な事情でもない限り、少年の反応こそが当たり前のものだった。

     「今日はまだ会っていませんが、何かあったんですか?」

     むしろ少年にとっては、二人が一緒にいない方が珍しい気がする。目を瞬かせながら問いかける少年に、やれやれと言いたげに肩を落とした老人が溜め息とともに呟いた。

     「本職の方でな。記録をまとめさせるつもりだったのだが、見当たらん」

     覚えた記録を必要に応じて圧縮し編纂して記述する事も重要な技術だ。ひとつでも多くこなさせようとするが、年相応の好奇心の強さからか、じっとはしていない青年を捕まえて机に向かわせるのはなかなか苦労を要する作業だ。

     「それは困りましたね。僕も探しましょうか」

     そんな老人の苦労を知っている少年は、困ったような苦笑を浮かべていた。旅に出ていたあの時も、青年はことあるごとに老人からの言いつけをすり抜けて、歳の近い自分を連れ出してはあちらこちらに出かけたものだ。

      そうした意味では共犯の少年は、少し申し訳なさを感じて、助力を申し出た。それに片眉を上げるような仕草を落とし、老人は軽く首を振った。

     「見掛けたらで構わん。時間に切迫しようとあやつがやる事に変わりはないからな」

     それを嫌がる癖に、こんな風に姿をくらませる事が最近増えた。それは『ブックマン』の家業を厭うのではなく、それと同時に成したい事があるからだろう。

     思い、嘆息しそうだ。あの未熟者は己の裁量に見合わないものを求めてはいないかと、憂える事も今更だろう。

     裏歴史を記録すること。そして、その傍らに愛しい存在を住まわせること。

     同時には成り立たないそれを、どちらも欲しいと足掻いてはその方法を模索も出来ずに凹んでいる。

     ………もっとも、と。老人は告げた言葉に苦笑している少年を見遣った。

     「あはは、それは確かに。僕でも手伝えればいいですが、流石に無理ですからね」

     まっさらな綺麗な銀灰が柔らかくほころびながら答える。………その姿を見れば、未だその腕を掴み引き寄せようとする相手の存在に気付いていない事は明白だ。

     足掻いている癖に、捕らえる事を恐れているのだ、あの愚かな弟子は。

     中途半端で未成熟な、稚拙さだ。開花しきらない蕾のまま、与えられる日差しはないかと惑いの中、待っている。欲しがっている癖に、気付いて伸ばされる腕を焦がれるのだから、厄介なものだと、老人は胸中で盛大に溜め息を落とした。

     「それがあやつの性だ。気にかけるな」

     甘やかせば付け上がる。まるでそういうかのような老人に、少年はクスリと笑った。

     ………どうも彼は自分が青年の我が儘を聞いていると思いがちだ。むしろ自分こそが彼らに甘やかされていると思うというのに。

     「解っています、ブックマン。………あ、そうだ、ブックマンはこれからお仕事ですか?」

     ふと思い出して、少年は老人に躊躇いがちに問いかけた。

     相変わらずこの少年は自身の言葉が相手の負担になる事を恐れて、響く音を隠して告げる癖がある。

     ………それは悪い事ではないが、過ぎれば沈黙の中に己を埋没させて、緩やかに意思を摩滅させる行為だ。

     胸中で嘆息を落としながら、老人は何でもないような顔をして口を開いた。この程度の話にまで遠慮を見せるのは、少年の年齢を鑑みるならばない方がいい気遣いだろう。

     まだ、我が儘を口にして窘められるべき歳であろうに、彼はそれを日常で晒す事がない。

     「いや、わしは記録物があるから、そちらだな」

     当たり前の流れの当たり前の問答。それに慣れて飲み込む言葉が減ればいい。………らしくもない好好爺じみた己の考えに、老人は胸中で苦笑した。

     どうも、この少年と関わると調子が狂うようだ。それは誰もが、というべきなのかもしれない。一途過ぎて抱えるものが多過ぎて、それら全て誰にも触れさせまいと隠し込んでしまうから、鎧うその全てが、人の情に触れて響いてしまうのだろう。

     ………その奥にきっとある、本来開花すべき少年の花。零れ落ちる欠片ですら人目を引く程に鮮やかだからこそ、その先にたたずむ本質を引き出したいと、誰もが腕を伸ばしてしまう真っ白さ。

     それに、自分は加わらぬよう距離を保たなくてはいけないと、未熟な弟子を窘める思いで己自身にもそっと呟いて落とす。

     その癖、少年の問いには少年に合わせて答えてしまう辺り、自分もまだまだ無には徹しきれない情があると気付いてしまうけれど。

     ………本来の意義を考えるならば、ある意味それも仕事の範疇だが、いまいちそれと普通の読書の差が解らない少年に合わせて答えるのはいつもの事だ。

     不要な訂正はする意味もない。どこか言葉を飲み込む癖のあるこの少年には尚更だ。出来る事なら、その声が豊かに響けばいいと思う事すら、あってはいけない事であろうけれど。

     そんな老人の微かな返事に、少年は僅かに眉を垂らして、物侘しく小さく笑った。

     「そっか残念です」

     頬を掻いて自分の発言を流すように呟き、少年は力を込めるように笑んだ唇の弧を深めた。

     それを見遣り、老人は不可解そうに隈取りの奥の瞳を瞬かせる。

     「何かあったか」

     特に今日、急ぎの用はない。自分達もだが、少年もだ。プライベートは解らないが、公式の任務に関わる事ならば老人の耳にも入る。

     どこか気遣わしい気配の滲む老人の声に、少年は慌てて首を振った。………そんなにも気にかけてもらうような理由はないのだ。

     「いえ、ジェリーさんが新しいケーキを作ったってくれたんです。だから暇ならなぁって」

     大体新作を試作すると、任務でいない場合を除き、初めに少年に振る舞われるのは、最早慣例に近い。

     それを知っている老人は少年の言葉に疑問は挟まなかった。が、その情報から合致した事実と推論を重ねた仮説を辿り、導かれた解答に微かに瞳を眇てしまう。

     「………ふむ、なるほどな。アレン、それは食堂か?」

     そっと伏せられた隈取りの奥は覗けない。きっとわざとそうした角度を保っているのだろう。

     少年は唐突な老人の質問の意図を読み取れず、不思議そうに首を傾げた。

     「え、いや、僕の部屋に持っていってます。ジェリーさんが秘密だからって。………あ、みんなに言ったらダメですからね。新作で驚かせるの、楽しみなんだって言ってましたから!」

     告げる内に思い出し、慌てて少年は老人に口止めを要請した。つい彼には甘えていらない事まで話してしまう。そう過去のぼやいたなら、不貞腐れた青年が、あまり気を許すなと叱った事を思い出す。

     老人も勘違いをするけれど、青年もやはり勘違いをしていると思うのだ。二人はどちらの事も少々過小評価している。………二人とも、少年から見ればとても優しくあたたかい人達だ。

     そうして見下ろした老人は、いつものようにニッと笑うその口許を、親しみやすいお茶目な笑みに染めている。

     こんな風に笑う人が、悪意を示すとも思えない。そうむくれて言っても、きっと青年はお人好しだと窘めてくるのだろうけれど。彼らは自分とは違い、本職の使命故の緊迫した絆がある。だからきっと、そこから派生する鋭さが、自分には解らない色を灯しているのだろうと、思う。

     「心得とる。………ならばあとでそちらに行くか」

     それでも、こうして老人を前にすれば、鮮やかに解るのに。

     ともすれば冷たくも響く嗄れたその声は、慈しみを知るからこそそれを包み隠し相手の動静を見定めて、与えるべき物を選り分け選出している。

     「………いいんですか?」

     それを当の老人も観察者故の境界線というけれど、与えられた自分はそれがどれ程優しく自分をいたわりながら見つめているか、知っているのだ。

     ………だからつい、了承を与えられれば、分不相応な喜びに、知らず笑みが零れてしまう。

     その生粋の笑みに苦笑するように唇を歪め、老人は瞬きと共に頷いた。

     「おそらくわしの用事もその方が早く片付くからな」

     そうしてどこか呆れた雰囲気で、少年には不思議な事を呟いた。それに首を傾げながらも、少年は交わせた約束ににっこりと笑った。

     「そうですか?じゃあ、紅茶でいいですか?」

     「構わん。ではまたあとでな」

     「はい、またあとで!」

     嬉しげに答えて頭を下げた少年は、そのまま細い背中を晒して去っていった。

     それを眺め、老人は小さく息を吐く。

     ………馬鹿な弟子はきっと、と思ったならまた漏れた溜め息を見送り、自室へと戻っていった。

    拍手

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