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昔以上に短文を書けなくなっている……。昔から苦手だったのに、どんどん長文体質にー!!!
だからといって長文が得意かと言われると、設定消化する事に必死になっていくので中盤以降がきつくなるから嫌です。
何でもかんでも詰め込んでいっていい書き始めはいいよね☆………そのフォローをしていくと恐ろしい長さになる事はもう経験済みです。
ジバクの長編も結局未完の状態で200ページ近かったから(←全てコピーの癖に2冊でまとめたんだよ☆)それを考えるときっとアレは完結させると400くらいいったのか………。その1/3をパソコンとともに喪ったから丸投げ中ですけどね、かれこれ何年?
この間机の整理していたらその設定ノートが出てきて懐かしくて眺めていたよー。
設定の甘さと知識不足がよく解る稚拙さに血を吐きそうになった。読み直したくないな…これ………(汗)
とまあ、話は逸れましたが。
とりあえず下の小説はあの天使と悪魔のシリーズとは無関係の、ごく普通のツウェルブワールドのお話ですよ。
かなり昔に書いた、愛の国のクッキーのお話のジバク版です。
カイ爆にしたけど、カイ爆である意味はないんじゃなかろうか、と思います。ジバクくんとピンクの方がでばっているいつも通りの仕上がりです。仕方ない、カイだからな………
そしてちょっとした私信っつーかつぶやき。
あー、確か『月瀬刹那』から改名したのは過去のサークル名がなんかの神話に出てくる神殿の名前にあんまりにも酷似していたので、呪われる前に変えておくかーと変えたのがきっかけだったような。ついでだからこっちももっと短いのにしよう、と。
まあ月瀬もやっぱり地域名に酷似していて気になったからな。という、たいした理由はない(キッパリ)
いっそ虎月とかにしたくもあったけど、虎主張を控えめにしてベタなところにいってみた。
まあ別に私は呼び名は当人が呼ばれている事が解れば何でもいいと思っているから月瀬でも何でも呼ぶといいよ。通じるなら何も気にする必要はないさー。
………まあ確かに神奈川と愛知に平謝りは同意ですけどね(吐血)いやもう本当に色々その地域にお住まいの方々に申し訳ない個人の代名詞使用法………!
そこの店も、ただいい匂いがして入り込んだだけだった。
焼きたてのクッキーの匂いは、懐かしかった。昔、院ではよく焼いていた。その人にまとわりついて手元を眺め、きっと邪魔にしかならなかった手伝いをしながら、得意げに自分が焼いたと胸を張っていたものだ。
そんな事を思い出してふらふらと引かれた店は、棚一面にクッキーが陳列されている。菓子の店……というよりは、クッキーの店だ。珍しいその光景に目を瞬かせると、肩で聖霊が嬉しそうな鳴き声を上げた。
突然はしゃいだ聖霊に首を傾げはしたが、別段不審にも思わなかった。もとより彼は菓子を売る店も、おもちゃを売る店も好きだ。興味と好奇心の赴くままに駆けずり回って迷惑をかけるくらいに。
それをせずに自分の肩におさまっていただけ、いいだろう。そう思っていたが、不意にピョンッと跳ねたかと思うと、キャッチする間もなく商品の上に着地してしまう。…………クッキーが割れなかったのはただ幸運なだけだっただろうと顔を顰めてしまった。
「ジバクくん、食べ物の上に乗るなと……」
「ジー!!!」
叱りつける声を吐き出しかけた子供に、聖霊はまさに自分が飛び乗ったクッキーを掲げもって何かを訴えだした。ピョコピョコと上下左右に振り回して一体何が言いたいのか、謎だ。
謎だが、店で菓子を持って何かを訴えるといえば、結果は1つしかないだろう。………それが欲しい、という事だ。
深く長く溜め息を吐き、子供は辺りを見回した。
クッキーはどれもこれも少し大きめで、可愛らしく絵が描かれている。知らない国の言葉で何かメッセージも入っているが、多分ありがとうとか頑張ってねとか、そんな他愛無いメッセージだろう。
思い、子供は聖霊をクッキーごと鷲掴むと、肩に戻した。それだけで買ってくれる事が決定して、聖霊は上機嫌で肩でくつろいでクッキーを眺めている。
そんなに美味しいクッキーなのだろうか。意外に食通な彼だ、この店も知っていたのかもしれない。
ならばお土産はこれでいいと、子供もクッキーを物色した。この町のような田園風景のイラストや、可愛らしい動物のイラスト。色とりどりの花や幾何学模様。どれも目を楽しませてくれる。
美味しそうなクッキーの香りも相俟って、いっそ全部欲しいと言ってしまいたくなるくらいだ。肩の聖霊はそちらを奨励したそうだが、そわそわとまた何かを探し始めている様子に、子供の指先が叱りつけるようにその背を弾いたので不服そうに沈黙した。
ゆっくりと吟味するように、店内を楽しみながら子供が選んだのは、3つのクッキー。
帰るのを待っているだろう少年と少女に。それから、1つでは足りないと文句を言うだろう聖霊に分けられるように、自分用の大きめのクッキーを1つ。
それに聖霊が掴んで離さないクッキーも入れて会計を済ませると、子供はドライブモンスターを呼び寄せて帰路についた。
家の近くまでくると、見慣れたドライブモンスターが去って行くところだった。その背には誰も乗ってはおらず、それが訪れたばかりである事を教えた。
ちらりとそちらを見てみれば、もう慣れたドライブモンスターは目だけで笑んで去って行く。………どうやら主人がそこに来た理由をきちんと知っているようだ。
もっとも、自分の家にやってきて、その目的が自分でない方がおかしい話だ。そう思う事にして、子供は肩の聖霊がイビキをかいて寝ている事に少し感謝した。
きっと彼があのドライブモンスターに気付いたら、一人飛び降りてそのまま自爆でもしかねない。
………厭っているのではなく、ただ今日くらいは休ませろと、そんな事を叱りつけにいくに違いない。
どこかこの聖霊は、生きた時間の長さ故か、普段は子供のような真似をする癖に、こちらが無理を重ねている事には敏感で、周囲を巻き込んで休憩を取らせようとするから厄介だ。
そんな聖霊の鼻提灯が弾けると同時に、子供の乗ったドライブモンスターも下降した。それにあわせ、目を擦った聖霊が眼下を見下ろす。
その視野に、先程のドライブモンスターの主と、もう一人、少女も一緒に歩いている背中が見えた。
………小さく鳴く、声。不貞腐れたような、けれど仕方がないと諦めたような、そんな音に、子供は小さく含み笑った。
なんだかんだ言って子供達に甘い聖霊は、寄り集まっていたわろうとする彼らの意思を無下にする程横暴ではない。
どうせ一緒に夕飯でもと、きっと準備をしにきただけの彼らだ。追い返すには至るまいと、子供はニッと唇を笑みに彩らせて、大好きな空からの光景を眺めた。
それに気付いたらしい少女が、振り仰いだ。楽しげに笑って手を振るその仕草に笑みで答えながら、子供は彼らを追い越して家の前、小さな敷地にドライブモンスターを誘導した。
まるまると太ったペンギンのようなドライブモンスターは着地するにも場所が必要だ。
それだけはネックだが、ふかふかの背中も子供のような仕草も、生まれたての時から見守ったものだからどうにも愛着が湧いて仕方がない。
今もまだ高い場所が怖いと泣く空を飛ぶドライブモンスターは、かけがえのない仲間の一人だ。………口に出してなど言ってはやらないけれど。
ぷっくりと丸いお腹を撫でるようにして労をねぎらい、またと声をかけれると嬉しそうに頷いてドライブモンスターは去って行く。
それを見送っていれば、パタパタという足音が近付いてきた。
「爆〜!早かったじゃない!もっと遅くなると思っていたのに」
元気に腕を振りながら駆け寄ってきた少女は、嬉しそうな笑顔だ。自分の国へと呼ばれていた子供が怪我1つなく帰ってきた事に心底安堵したような笑み。
それに苦笑し、子供は腕を組んで不敵に笑った。
「貴様の国は相変わらず甘ったるくて平和ボケしていたからな。さしてやる事がなかった」
どうも自分に対して不要な心配をする少女達だ。否、心配ではないのだろう。誰もがみんな、自分が必ず帰ってくる事を疑う事はない。
ただ、きっと、これ以上独り何も背負わず、分かち合わせてほしいと、願ってくれる優しい仲間達。
そんなものが手に入るなど、幼かった頃は思いもしなかったのに、不可解な未来を手に入れたものだと、子供は胸中でこっそりと笑んだ。
「失礼ね!あたしがちゃんと日々働いているからよ!感謝しなさいよ?!」
子供の心理など推察しようもない少女は、むっと顔を顰めて叱りつけるように指を突きつけてきた。………この場に彼女の祖母がいたなら、行儀が悪いとその指先を折る勢いでたたき落とすだろう仕草だ。
それを眺めながら、普段と変わらぬ不遜さで子供は真顔で返した。
「何を言うか、下僕が主の為に労働する事に何のおかしさがある」
「あんたその物言いホントどうにかしなさいよ!!!」
「まあまあピンクさん、それが爆殿なんですから、落ち着いて」
本気で言っている訳ではきっとないのだからと、すぐに言い合いに突入してしまう、どこか気の合う二人を仲裁するように少年が声を掛けた。
その声に目的を思い出したのか、少女は不満そうに唇を尖らせて頬を膨らませる。それを眺めた子供は、何となく二人が今日やってきた理由を予測出来て顔を顰めそうになった。
それすら解ったのか、少年は苦笑を浮かべて困ったように眉を垂らしている。
「お久しぶりです、爆殿。お怪我はありませんか?」
改めて少女が問いたかった事を柔らかく尋ねられ、知らず眉を顰めた子供は顔を逸らすようにして素っ気なく答えた。
「セカンで怪我なんぞしたら末代までの恥だ」
「だ〜か〜ら〜っ!!!!」
その仕草が自国を馬鹿にされたと思ったのか、押し黙っていた少女がまた噛み付こうとする。それを押さえるように少年が宥めながら、今日ここに来た目的を問いかけた。
「まあまあ……で、爆殿、今回は暫くは滞在を?」
そう、いつも世界各地を飛び回る忙しいこの子供が、一体どれくらい留まるのか、その確認に来たのだ。
それくらいはGCウオッチを使えばすぐだと思うけれど、束縛を好まない子供は、不要な連絡には一切答えを返さないのだ。
そうして、きっと滞在期間など、彼にとっては不要な連絡以外の何ものでもないだろう。
「あ、そうよ!アリババ達も爆が帰ってきているなら来るって、はりきっていたわよ。早速明日」
…………どれくらいそこに留まるかがバレれば、こうして近隣の国から元GC達が集まってしまうのだ。
思った通りの話の運びに、子供は憮然とした顔で叱りつける声を少女に向けた。
「明日?!何を勝手に決めている!」
「あんたの返事待っていたら何年後になるのよ、この放浪児」
「世界を制覇する男は一カ所になんぞ留まっておれん」
痛いところを突かれたなどとは欠片程も思っていない子供は、キッパリと誰も頷く事の出来ない理由を胸を張ってのたまった。
「はいはい、解りましたから、とりあえず明日の準備させて下さいね」
少女達の手にかかれば拒否権など既にない事は子供も解っているだろうと、少年はさらりと躱すように断りだけを入れてきた。
「はいは一回!何度言ったら解る、まったく!」
それもまた解っている子供は、少しだけ忌々しそうに唇を引き結んだが、疾うに諦めているらしく、それ以上は抵抗する事なくその話は打ち切った。
それを知ってか知らずか、不意に少女はじっと二人を見つめたまま悩んでいるように眉を寄せ、丁度話が一区切りしたらしいその間を縫って、子供に問いかけた。
「………ところで、さっきから気になっていたんだけど」
どこか神妙な面持ちで声を掛けてきた少女に、子供は怪訝そうに片眉をあげる。
………どうせもう、この家にやってきた時点で勝手にここを会場にしているのは明白だ。それを受け入れたにも拘らずまだ何か言いたい事があるというのだろうか。
「?なんだ?」
これ以上の我が侭など黙殺しようと決めた子供が問うと、まるで占い師が託宣を与えるようにその指先を真っすぐ子供に向けて、真剣な眼差しの少女が呟いた。
「あんたの肩でそれはもう呑気に我関せずでクッキー貪り食べている聖霊の、そのクッキーって、セカンの奴じゃない?」
見覚えがある上に、ずっと気になっていたクッキーだ。見間違える筈がないと真剣な眼差しで食い入るようにガツガツ食べている聖霊を睨み据える少女の眼差しは、どちらかというと狩人のそれだ。
それにつられるように自身の肩を見下ろせば、近過ぎる距離にぼやけた焦点でも解る程盛大に食べ散らかしながらクッキーを貪っているピンクのナマモノが鎮座していた。
「ジバクくん!俺の肩にいる時にものを食べるなと言っているだろう!食べかすだらけにすなっ!」
慌てて聖霊を掴み上げたが、もはや後の祭りだ。子供の肩は既にクッキーカスまみれだし、聖霊はどこ吹く風と言わんばかりに美味しそうにクッキーを頬張ったままだ。全く悪びれていない。
「…………………聞いていませんね」
それを眺めていた少年の方が呆気にとられてしまうくらい、見事に子供の怒気を受け流している。素晴らしい集中力だ。
よく解らない感心をしている少年と、怒鳴りつけている子供。それを聞き流してクッキーを食べる聖霊。………そんな男達の様子は放って置いて、少女はにっこりと笑うと、子供の前に進み出てその顔を覗き込んだ。
未だ聖霊と格闘している子供は、それに何事かと怪訝そうな顔を向けた。交わった視線にますます上機嫌の笑顔を浮かべた少女は、さっと両手を差し出して可愛らしく首を傾げた。
「爆〜、はい?」
聖霊のせいで漂う甘いクッキーに負けない、甘い声で少女が問いかけてくる。全く言葉の足りない問いかけだ。言葉だけを聞けば、否、仕草も合わせて見てみても、何かを与えるように見えるが、その手の上は空っぽだ。
辟易とした顔でそれを眺めた子供は、言いたい事に気付きながらも、知らない振りをして顔を顰めてみせた。
「………何だその手は」
「何って、お・土・産☆トーゼンあるんでしょ?ジバクくんが食べているんだから!」
いつも必ず聖霊がお菓子を食べていれば自分達にもあった。それならば今回だって同じだろう。
なかなかこの子供は甘いものが好きで、お菓子を買う事に恥や躊躇いがない。その為意外にお土産で買ってくるお菓子は期待が出来るのだ。
わくわくとしたその声に子供は盛大に溜め息を落とし、仕方なしにバックに腕を突っ込んだ。
「…………いらんところだけ学習しおって、食い意地の張った女だな」
ぶつぶつと文句を言いながらも、確かに今しか渡すタイミングはないだろう。
明日になれば他のGC達もやってくる。そうなれば流石に二人だけにというわけにはいかなくなるのは当然だ。
それを理解している少女はニコニコと嬉しそうだ。それがどこか普段のお菓子を与えられる事への期待とは少し違う気がして、子供は不可解そうにその顔を眺めた。
「なんとでもお言いなさい!ほらっ」
そんな眼差しを躱すように機嫌良くねだる少女に、首を傾げながらも子供はバックの中から購入したクッキーを2枚、取り出した。
それに気付いた聖霊が小さく鳴いた。
………どうもこの聖霊は、このクッキーが気に入ったようだ。そんなに美味しいのかと目を瞬かせていると、聖霊はまた肩へとよじ登ってきてコテンとその丸い身体を頬に押し付けるようにして残りのクッキーを口に放り込んでいる。
………何がしたいのかよく解らないその行動に眉を顰めながらも、子供はひとまず手に取ったクッキーを少女達に差し出した。
「仕方がない、貴様達にも恵んでやろう。どっちか好きな方を選べ」
どちらも違う絵柄だ。二人で好きに分ければいいと、少女の手のひらに乗せれば、ぱっと輝く少女の笑顔。
やはり、このクッキーの店は有名店だったのだろうか。クッキーを知っている聖霊も少女も随分嬉しそうだ。そう思ったなら、自分用に購入したクッキーも気になりだして、子供はバックをもう一度まさぐり始めた。
その視界の端、少女の手元を覗き込んでいた少年が、どうにも珍妙な顔をし始めた。
「……………………………」
何かを言おうとしながらも凍り付いたような、それでも口はぱくぱくと開閉していて、驚愕という言葉では足りないくらいの驚きようにも見える。
たかがクッキーだ。確かにイラストは可愛らしいが、その程度で驚きはしないだろう。土産物などどれもこれもにたようなものだ。
怪訝そうに片眉をあげて、子供は少年を見遣るが、その視線に気付いた少年の顔が、どんどんと赤く染まっていった。
「?どうした、カイ。顔が赤いぞ?熱か?」
顔を合わせた程度で照れる筈もない。そんな赤面症ならば、先程話していた時からこうなった筈だ。ここに帰ってきた時にお土産が渡される事もそう珍しくもない。なら、感動とか感激も除外される。
一体何が起きたのかと訝しげな子供の声に、慌てたように少年は首を振って普段よりも早口で大きなその声で否定した。
「い、いえ?!なんでもありませんっ!」
そんな少年に不可解そうな眼差しは向けたものの、さして関心を払わなかった子供は、取り出したクッキーに群がってきた聖霊をいなす方へと意識を向けてしまう。
ありがたいような虚しいようなその態度に若干肩を落とした少年に、少女は小さく声を掛けてきた。
「………あー、カイは読めるのね」
「ピンクさん、知っているんですか?!」
子供には聞こえないように顰めたその声に、内容まで解っていると知れて少年はギョッとした。
わざわざ自分が押さえた声を台無しにする声量で答える少年の頭を、少女は遠慮なく殴りつけて黙らせると、子供が渡してくれた2枚のクッキーを眺めながらクスリと笑った。
「読めないけどね。このクッキー、セカンでは有名だもん」
「……………どういうクッキーなんですか」
殴られた頭をさすりながら問う少年は、きちんと声を潜ませている。もっとも、既に一連の二人の挙動不振さに子供は怪訝そうに眺めているが、二人は気にしていなかった。
どうせ声さえ聞こえなければ、精々クッキーを両方とも少女が奪おうとして少年が阻止する図にしか見えない。その予測は正しいのか、呆れたように息を吐いた子供は二人の奇妙さは気にもかけずに、肩に乗る聖霊が自身のクッキーに群がるのを必死に阻止していた。
「読んで字のごとく。思いを伝える為のクッキーよ。まあ古語だから言われなきゃ解らないけど、このクッキーを贈るのは告白の代わり、かな」
ちらりとそんな微笑ましい子供達を視界の端で見遣りながら、少女が殊更声を小さくして呟いた。
………これは、トップシークレットだ。決して子供に今知られてはいけない。知ってしまえば、きっとその肩に乗る聖霊を投げつけてでもなかった事にするに決まっている。
それを確認し合うような視線の交錯のあと、ごくりと息を飲んで恐る恐る少年が問いかけた。
「………爆殿は……」
もしもバレた場合、明日の集まりとて反故されそうだ。そして、自身があの子供に怪しまれた場合、最後まで隠し通す自信も嘘を貫ける自信もなかった。
そんな情けない声に呆れたような眼差しを向けながら、少女は肩を竦めて首を振った。
「知らないわね、アレは。いいんじゃない?折角だもの、あいつの気持ちありがたくもらってやりましょ?」
どうせ普通には口になどする事のない、彼の好意の表れだ。クッキーにかこつけて与えられたと思えば、それもまた愛おしい。
幸せそうにクッキーを頬張っている聖霊も同じ思いなのだろう。ちらりと見遣ってみれば、ニッカと笑って親指を突きつけられた。
彼もまた、子供に教える気はなさそうだ。少女は当然言わないだろう。あとは自分が子供に勘づかれなければ隠し通せる。小さく息を吐き出して覚悟を決めながら、少年は嬉しげに手元のクッキーを眺めている少女を見遣った。
………なんだかんだと文句を言うけれど、結局は彼女もまた、そのクッキーが嬉しいのだ。何も知らなくとも、それを自分達の為に選び買ってきてくれた、その事が、純粋に。
それに苦笑しながら、青年は少女の持つクッキーの片方を選んだ。………出来ればそれは、自分以外が口に食む事がなければいい、なんて。尊大な事を思いながら。
「カイ、それはなんて書いてあんのよ?」
迷いもしないで選んだそのクッキーに興味がわいたのか、少女が少年の手元を覗き込んだ。
武人らしい年齢に見合わない厳つさを見せる手のひらの中、可愛らしいクッキーが小さく乗っている。蝶と花の舞う、鮮やかな色彩のクッキー。
それを見下ろし、少年は開きかけた口を少し引き結んで顔を逸らすと、小さく口ごもるような声で答えた。
「…………黙秘です」
結局返されたのはそんな言葉で、むっとしたように少女が少年を睨んだ。
「あんたね〜っ!ったく、じゃあ、あたしのは?」
が、逸らされたままの顔が赤く熟れていて、聞かなくても内容が解る気がして、盛大な溜め息を落としながら呆れたように肩を竦めた。
「ピンクさんのは、『優しいあなたに花束を』ですよ」
「ふ〜ん、意外とイラストから読めそうな言葉なのね」
手の中にあるクッキーは色とりどりの種類も豊かな花畑だ。思いの外甘ったるくもない言葉を見出してしまう辺り、あの子供は勘がいいのか悪いのか、微妙だ。
「……ちなみに、爆殿が手にしている、今ジバクくんがたかろうとしているのは『永久に分かち合う事を誓う』ですね」
少々見えづらいが、見えない部分の綴りを補ったなら、そうなる。何よりも聖霊が我先にとその手に飛び乗って齧りついていたから、きっと間違いはない。
そんな少年の声に、少女は呆れたように子供と聖霊を見ながら苦笑した。
「あー、あいつららしいわね」
その明るい声に微かに眉を寄せて、少年は困ったようにその光景を見ている。
「………ちょっと、羨ましいですね」
当たり前のように一緒にいる事が許されて、それが分たれる事こそが日常との離別だ。そんな存在は、そう手に入る事はない。
そして、それは残念ながら、自分ではあり得ない。同じ道を歩む事を望まれていない事くらい、少年にも解っている。
己の歩みは己で見出し進むものと、子供はその小さな背中を晒して前を進む事で、ずっと示してきたのだから。
その傍らに留まりたくとも留まりようもない身としては、そのクッキーを食む事が許されるのは、とても…………
「盛大に、の間違いでしょ?」
思えば、少女はニヤリと笑ってからかってきた。まさにその通りなのだから苦笑するしかない少年は、長い耳を垂れさせて情けなく笑った。
「手厳しいですね、ピンク殿…………」
「そりゃそうよ。自分の奴だけ何て書いているか言わないなんて、逆に解りやすいわ」
「えっ?!」
ふんっと軽くあしらう少女の声に、ギョッとした少年は目を丸めて少女を見遣った。読めないと言っていたのに、解る筈がないと高をくくって選んだクッキーだ。その内容を推察されるなんて、考えてはいなかった
「ど〜せ、はっきりした愛の言葉でも書いてあるんでしょ?」
言われ、それを肯定するかのように青年の顔が赤く染まる。
それをからかう少女を子供と聖霊は不可解そうに眺めながら、1つのクッキーを分け合いながら食べていた。
……………それがそのクッキーの正しい姿など、知らぬまま。
ただ当たり前のように、ずっと、分かち合う事を願って。
…………………小さくこっそりと、聖霊が笑った気がした。