■水薬、ランプ、残業■(ラビアレ)
窓際に微かな灯り。それを目印に忍び寄った。思った通り難しい本と知らない文字で書かれた書類の上、青年は 眠っている。そろり、額に触れた。まだ熱い。仕方のない人だと溜め息を吐き、彼が身体を冷やさないように肩にコートをかけてあげてから食堂に向かった。… お粥と一緒に、どんなに嫌がっても絶対に薬を飲ませる為に。
■責任、自己暗示、銃弾■(ラビアレ)
アクマの弾丸が貫いたモノを考える。塵芥と化しアクマを育んでいくモノ。それはあるいは、と考えかけて蓋をした。「ラビ、お待たせしました!」「ん、じゃあそろそろ行くさ~」「…ラビ何か悩み事ですか?シワ寄ってます、眉間」「ん?殺意と恋と境界線について、ちょっとな」
■流行、舞台、かさぶた■(ラビアレ)
「知っ てる、アレン?」廃墟を見上げ、ラビが呟いた。「ここにはさ、オペラ座があったんさ。でっかくて、国中の人間がこぞって集まってた」「…何も、無くなって ますね」呟きに辺りを見回して返せば、彼は頷いた。「無為自然さ」よく解らない返答をした彼は、先程の戦闘で負った傷のせいで笑って見えた。
■シャボン玉、包丁、マナーモード■(ラビアレ)
食 堂でのバイトはもうお馴染みだ。鮮やかなジェリーの料理を片目で追いながら泡にまみれた食器を流す白い少年。調度それが覗ける唯一の席を独占しながら、彼 お勧めのみたらし片手に本を読んだ。沢山話したい事があるけれど、あと少し、彼が戻ってくるまでは沈黙のまま。日差しの中の、呑気な昼下がりの話。
■一人、意識、ノイズ■(ラビアレ)
眼 を閉じると音が谺する。今まで記録してきた事実と事象と命の声。それはゆっくりと身体を心を蝕んで、そろり心臓に杭を忍ばせる。その甘い衝動を噛み殺し押 さえ込もうとした。「ラビ?変な顔して、どうしたんですか?」響いたのは、少年の声。……まるでそれは聖なる十字架のように、胸の杭を霧散させた。
■カーテン、未対応、青■(ラビアレ)
レー スのカーテンの先、少年が空を見上げていた。月もない濃紺の空を。銀灰は瞬く事もなく一心に微かな星明かりを見つめている。その横顔を、こっそり記録し た。歴史になど無関係なその情景は美しく、悲しい程清らかだ。そんなものをこそ刻み残したいと、不可能な願いを微かな吐息に混ぜて落とした。
■録画、難易度、記憶■(ラビアレ)
記 録する事はコピーする事に似ている。ただ目に映るもの、耳に聞くもの、全てをそのまま脳裏に刻む。一寸の不備も変化も与えず、そのままを。それなのに、何 故かただひとり、ほんの少し変わる記録がある。鮮やかな彩りを持つ記録。それはコピーした記録ではなく、心が刻んだ記憶なのだと、遠い昔誰かが言っていた 気がした。
■プール、包丁、名前■(ラビアレ)
「ラビ」不意に呼ばれたそれに、ぼんやりと空を眺めた、自分につけられた 49番目の名称。あくまでも個を判じる為の記号。今まで振り返りもしなかった数々の呼称。躊躇いもせずに捨てて歩んだただひとつの道。それら全て刻んで放 り投げる、人工物にすぎない自身の海馬。「ラビ!」怒ったようなその声に、やっと笑って顔を向けた。
■約束、シャボン玉、記憶■(ラビアレ)
ぼ んやりとした視界の中、ノアの声が響く。師の嗄れた音、自分の鼓動、呼気。記録しながら、その先にたたずむ白い影を思う。交わした約束を破棄するぐらい、 今までのログ地でもあったのに。悲しみの中で微笑む影に、瞼を落とす。全て、弾けて消えればどれ程…望むべきでない祈りに、嘆息した。
■お茶、留守、サイト■(D灰:カフェ物語)
紅 茶に緑茶にコーヒー。たまに抹茶に中国茶。何でもござれの高校生カフェは、それでもなかなか盛況だ。それぞれに精通した仲間を見遣りながら、クスリと小さ く笑う。今月のメニューはハロウィンに。ティムも飾って看板猫に変えて。嬉しそうに笑う店員達を思い浮かべ、ラビはHPの更新をした。
■薔薇色、英語、ぬくもり■(ラビアレ)
いくつかの本は同じ作品のそれぞれの国の翻訳版。勉強など遣り方も解らないと言っていた少年は今は夢の中だ。クスリと笑い、成長途中の細い肩にコートをかけた。微かに開いた唇が綴る本の中の語句。差し込む日差しに色づいた頬を撫で、傍らで囁くように朗読を始めた。
■グラス、シャボン玉、乳■(ラビアレ)
大 きなグラスには所狭しと数々のお菓子が詰め込まれていた。それを幸せそうに眺めている少年は、いつもならあっという間に食べてしまうそれらに手を出さな かった。どうかしたのかと問い掛ければ、初めてだからとはにかんだ。…何かを誰かと祝い騒ぐその時を、ピエロととなって働いていた事を思い出す。それでも なった腹の虫に苦笑して、それならおまけと、ポケットにあったミルクキャラメルを与えた。
■包丁、合格、青■(ラビアレ)
次 々に空になる皿を見ながら、辺りが驚きの歓声に包まれる。大食いのチャレンジャーは数知れなくとも、この少年に敵う人はいないだろう。真っ青な店主には一 応赤字にならない原価程度の金銭は支払おう。どのみち教団の経費だ。気にする事もない。清々しく食べ続ける少年を見ながら、青年は呑気にそんな事を考えて いた。

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