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気の向くまま、思うがままの行動記録ですよ。
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    逆転裁判

      なんか来週まではバタバタしている感じなのでいつ更新出来るか解らんし(というかすでに書き上げて数日経っているのに推敲もしとらん)こっちにアップしておきますよ。
     以前コンポート作った時に小説書こーといっていたやつです。
     この作品と風邪気味な春美ちゃんへのプレゼントなお話があったのですが、イースターの話(←アニョーパスカル)で春美ちゃん書きたいのでここでは断念しておきました。

     そんなわけで逆転裁判パラレル、パティスリーCHIHIRO小説ですよ。





     

     

     その日は久しぶりに御剣の家に訪れていた。

     

     

     午前中は互いに所用があったため店での製菓を中止にしたのだが、後日何故か御剣の母親からメールがきて、父親が新しい紅茶の茶葉を手に入れたので味見に来ないかと誘われたのだ。

     御剣家は紅茶党で、なかなか凝っている。故に、その方面には疎い成歩堂からしてみれば目から鱗が零れるような美味しい紅茶を飲ませてくれる。喜んで来訪出来る時間を返信し、ついでに試作品を差し入れする旨を伝えると、彼女は折角だからと試作品の品評会を兼ねた茶会をと、可愛らしいデコメールの返信があったのは今朝のことだった。

     当然、それには自分と彼女だけではなく、品物を手に入れた旦那は勿論、彼女の息子であり自分の友人でもある御剣も用を済ませ次第加わると言う。

     おそらく御剣の都合を合わせるのに時間を要したのだろう。迷惑をかたのではないかとハラハラしていた成歩堂が拍子抜けするほど、訪れた先の空間は和やかで優しかった。もっとも、それはいつもの事で、この家の中にいると御剣の眉間の皺も若干薄くなっている気がするほどだ。

     「いらっしゃい、成歩堂くん」

     柔らかな笑顔で迎え入れてくれたのは御剣の母親で、それだけでまだ御剣の用事が済んでいないことが窺える。

     彼は人を家に招くことに未だ慣れておらず、成歩堂が尋ねる時間帯になると自室から通りをまるで監視するかのように凝視して、成歩堂を発見すると同時に玄関を開けるために階下に降りてしまう。

     ………つまり、御剣が在宅中ならば成歩堂がこの家のチャイムを鳴らす必要がないのだ。

     そんな必要はないとはすでに御剣にもいっているが、あまりくどくいって人間関係に疎いこの友人がより閉鎖的になってしまうことは避けたいし、何より嫌なわけではないので強くもいえず、彼と再会してからあと少しで一年を経とうというのに、未だにこの状態は改善の兆しを見せていない。

     なんとなく久しぶりのチャイムと、出迎えられるくすぐったさに成歩堂がはにかむとなんとはなしにその思いが伝わったのか、彼女も目を細めて微笑んだ。

     「どうぞ、あがって。レイジももうすぐ帰ってくるはずなの。だから、先に紅茶はいただいちゃいましょ?」

     「ジャストタイミングだよ、成歩堂くん」

     軽やかな彼女の声に重なるようにして奥から男性の声が響く。聞き覚えのあるそれは御剣の父親の声だ。

     靴を脱ぎつつ首を傾げながら、成歩堂は断りを入れながら玄関を上がると問い掛けるように答えた。

     「こんにちは、お久しぶりです。えっと……何かあるんですか?」

     ニコニコと上機嫌の父親の顔につられるように成歩堂もまた笑みを浮かべた。先を歩く母親の背中と笑顔の父親との二人共に投げかけた言葉は、一瞬虚空で消えた。

     調度歩を止めてキッチンの入り口に経つ父親と顔を見合わせた母親は、くるりと振り返って無邪気とも悪戯っぽいともとれる楽しそうな顔をしている。

     それに対して父親は困ったような苦笑を唇に浮かべ、成歩堂の問いに答えた。

     「テイスティング、かな?」

     「あら、抜け駆けじゃないかしら?」

     「………まあ、そうともいうかもしれないかな?」

     くすくすと楽しげに笑ってチャチャを入れる母親は、改めて成歩堂を招き入れるように流れる仕草でキッチンの隣のリビングへと誘った。

     二人の会話から察するに、彼らの愛息子が帰ってくる前に紅茶は開封されて味見へと回されたらしい。更に推測が許されるならば、それは家族だけではなく成歩堂と言う息子の友人が相伴に預かるにあたり、相手の職業柄自分たちの納得出来ない物を差し出すのは気が引けたからかもしれない。

     試してみて抽出時間や茶葉の量を調整しようと思ったのだろう。きっと普段も成歩堂が知らないだけでそうした気遣いを甘受しているのかも知れない。

     それに思い至り、成歩堂は数度目を瞬かせたあと、嬉しそうな笑みを浮かべて頭を下げ、母親の招くままリビングへと向かった。

     その様子を見ながら、誰かを思う優しい感情を愛しむ息子の友人の仕草に両親は目を綻ばせ、不器用な息子も同じようにその仕草を愛しみ他者を思うということの本質をてに出来ればいいと、思う。

     過剰な期待を息子にかけるつもりはないけれど、そうあることで広がる世界は彼を傷つけるだけではなく優しく癒し包んでくれるだろうから。

     弁護士という職業に戻るためだけではなく、彼のこの先の人生のためにもそれを知ってくれるといい。

     この得難い友人との再会が息子を祝す天の采配であることを祈りつつ、両親はまた目を合わせて微笑みながら自分たちも気に入っている息子の友人をもてなすためにキッチンへと入り込んだ。

     

     

     「あの、遅くなってすみません。これ…メールでいっていたやつです」

     「あらあら、ありがとう!成歩堂くんのお菓子美味しいから嬉しいわ」

     カップをてにリビングにやって来た母親に成歩堂が声を掛けると、彼女はソファーに座りながら成歩堂の差し出した紙袋を受け取った。

     すでに中身は知っていた。新作として使用するか悩んでいると言う、コンポート。

     「あら…こんなに、いいの?」

     楽しげな笑顔を浮かべていた彼女はぱちりと目を瞬かせ、ずしりと重い紙袋にビックリしている。

     その置くから父親も自分の分のカップとおそらく茶請けを乗せられているのであろう硝子のボールをを持って歩み寄って来ていた。

     振り返った母親の顔が少しだけ困っていたのか、彼もまた目を瞬かせて彼女を見つめた視線をそのまま不思議そうに成歩堂に返した。

     「遠慮しないで下さい……というより、貰ってくれると有り難いんです。つい作り過ぎちゃって、同じ量が家にあるんで………」

     少し恐縮するように眉を垂らしていう成歩堂の言葉に、大体の流れを察した父親が苦笑した。

     「おや、やっぱり多かったかな」

     「生で食べるにはちょっと…でも、傷むと勿体無いしと思って、ついガバッと……癖で」

     店の感覚で作ってしまったと顔を真っ赤にしていう成歩堂の持ってきた紙袋の中には、まるでシロップ漬けで売っているかのような黄色い小さな実が半円状に切られて浮かんでいた。………否、ぎゅうっと詰め込まれていた。

     手のひらサイズの瓶に一杯、シロップに隙間を埋められながら詰め込まれているのは冬場には見覚えのある小さな柑橘系の果物。金柑だった。

     先日御剣経由で袋一杯に店に差し入れられたものだった。知り合いから譲られたと言うが、量が異様だ。もしかしたら過去に弁護を担当した依頼人からの新年の挨拶の品だったのかも知れない。だとしたら果樹園の持ち主だろうか。そんなことを考えてしまうくらい、多かった。

     一応スタッフで配りはしたがそれでも余ってしまう。残念ながらみんな一人暮らしの人間ばかりでなかなか減らなかった。

     そこで保存しやすいようにと持ち帰った成歩堂がコンポートとジャムを作成したのが昨日と今日の午前中の話だった。おかげでと言うべきか、しっかり手洗いしたけれど指先からは仄かに柑橘系の甘酸っぱい香りがして、それが気になるのか飼い犬のミツルギが匂いを嗅いでは指先を甘噛みしていてなかなか離してもらえなかったくらいだ。

     ……………そんな余談もあったが、それは後日成歩堂から聞いた響也の必死の説得で、この家の息子である御剣の耳に入ることはなかったが。

     ともかく出来上がったコンポートもジャムもなかなかの量だった。ジャムであれば真宵たちに渡せばそのままパンでもホットケーキでもかけて使うだろう。けれどそこに更にコンポートまで与えては流石に飽きるかと困っていた矢先に茶会の誘いは有り難かった。

     いただいたものを加工して返礼するという奇妙な巡回に若干恐縮している成歩堂を労るように父親が笑い、手に持っていたクッキーの入ったボールをテーブルに乗せた。

     「わざわざ手間をかけさせて悪かったね。ではこれは遠慮なく食べさせてもらうよ」

     「いいえ、こちらこそすみません、押し付けるみたいで」

     「あら、そんなことないわ。成歩堂くんのお手製なら大歓迎よ」

     嬉しそうな二人の声はお世辞ではないと教える優しい笑顔に彩られていた。

     それに感化されるように知らず成歩堂の唇も笑みに染まる。和やかな雰囲気に染まった空間に、そっと窺うような視線を感じて成歩堂は何気なく首を回す。

     大体察しはついていたので視線はすぐに庭に面したガラスドアへと向けられ、そこに鎮座する己の飼い犬が拗ねたような寂しいような目で眺めているのが見えた。

     それでも彼は吠えたり室内に入り込もうとしたりはせず、言いつけられた通りの場所でただ見つめている。気づいてと訴えるように、強く。

     コンポートやジャムは当然犬に与えるわけにはいかない。だから昨日も今日も作るのに掛かり切りで彼は寂しかったのかもしれない。その上今は間近に擦り寄ることも出来ないから尚更だろうか。

     困ったような笑みを浮かべる成歩堂の耳に、愛らしいメロディーが流れる。おそらく、母親の携帯着信だろうか。

     目を向けてみれば予想通りで、画面を操作していた彼女の顔が微かにほころんだ。

     「レイジももう家に着くそうだから、早速コンポートをいただこうかしら」

     「もうか?………随分急いだようだね」

     「あら、用事をすっぽかさなかっただけ偉かったと思うわ。あ、そうそう成歩堂くん。ミツくんににんじんのミルクゼリーを作ったんだけど、あげても平気かしら?」

     「え、本当ですか?ありがとうございます」

     楽しげに会話をしていた夫婦は不意に成歩堂に目を向けて問い掛け、その内容に目を瞬かせた成歩堂が感謝するように頭を下げた。

     その仕草に嬉しそうに笑んだ母親はそそくさと鼻歌さえ歌いながらキッチンへと向かう。

     「私たちはミルクプリンのコンポート添えのようだよ」

     キッチンに向かった背中を眺めながら告げた彼の口ぶりは小さく、おそらく彼女から教えられたのではなく冷蔵庫で発見したのだろう。ちらりと彼を見てみればそっと口元に指を寄せて秘密だと笑っている。

     それに破顔しながら、成歩堂は彼が歩む先に付き従うように立ち上がった。

     彼は真っ直ぐに成歩堂の飼い犬の元に向かっている。二人取り残されれば目上の彼を置いて飼い犬の元には行けない成歩堂を知っているからだろう、余計な手出しはせず、尻尾を振って飼い主を待っている犬を愛しげに見つめるだけで彼はガラスドアに寄り添って立っていた。

     「お待たせ、ミツルギ」

     初めて出会った時のように飼い犬を呼ぶ成歩堂の声。滅多にないその名をどのような経緯で名付けるに至ったのか、しどろもどろに語った言葉は恐らくは本当ではあっても足りない説明だっただろう。

     けれどそれを追求するつもりもまた、ない。成歩堂がその名を与えたから息子は気づき、自分も縁を結んだ。それだけで十分だろうとも、思う。

     そっと差し出された成歩堂の指先を至福の笑みで受け入れる犬の仕草を見つめながら、父親は苦笑する。

     

     どこかこの犬の仕草は自分たちの息子に似ていると、そんなことを考えながら。

     

     大急ぎで家に向かっているだろう必死な息子を思う。

     

     

     ………どこか未だ青々しい、人との縁に疎い息子の、初めての友人に感謝を捧げながら。

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