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「…………………爆、くん?」
驚きに思わず声が洩れる。知らず濡れた喜色の音色に、自分自身が苦笑するより早く、彼がドライブモンスターの背から飛び降りた。
着地と同時に空に浮かぶドライブモンスターに手を振り、労をねぎらうように笑みを浮かべている。
どうも彼は、自身と同じ人間よりも、動物や植物に対しての方が素直にその優しさを与えられる節がある。
もっとも、彼の一番近くを陣取っている、人間ではないもの…聖霊はその例外で、いつもいつもちょっとした喧嘩を繰り返してはお互いにプリプリして……また、いつの間にか楽しげに笑い合っている。
………それが少し、羨ましい。
自分はきっと、この先も永遠に彼と喧嘩など出来ないだろう。する気にもならない。
彼はいつだって輝いていて、彼の行動全てを自分は盲目的なまでに信じられる程、信を置いてしまっている。
………そしてそれは決して裏切られる事がないのだ。
その意志こそが盲信だと、きっと彼に告げれば諌められる意識を、自分は確かに内包していた。
それでも、思う。
軽やかな足取りで、闇夜の世界を鮮やかな太陽に染めた人を。
傷を恐れず、闇を飲み込める人を。
人の痛みしか省みる事の出来ない、不器用で痛ましい人を。
一体誰が厭えるというのか。
………彼が裏切るような世界なら、きっと破滅した方がいいのだ。
そんな物暗い思考、彼が一番嫌うだろうから、闇の奥底に溶かして消してしまうけれど。
歩み寄ってくる、小さな子供。まだまだ発展途上の身体は、いとけない程のまろみを残している柔らかなもの。
自分も決して武闘派ではないので身体は細いけれど、その自分と大差ない程子供も細く小さい。
それでもその身に内包するしなやかさは、他の誰の追随も許さない程鮮やかだ。
歩み寄る足。その顔には、笑んだ唇。………出会った頃に比べて、圧倒的に含む笑みの柔らかさが増した。
あの頃が、彼にとってどれほど痛みを背負う時期だったか、今頃ようやく省みれる。
当初から彼に寄り添っていた二人以外のGCなど、そのほとんどが出会いからして最悪だっただろうに、それでも彼は誰一人その手を弾かずに抱えてくれる。
「調度テンパの野草が必要になってな。通り道だから寄ったが……お前も行くか?」
………そうして、その手のひらに聖痕を残させた騒動の当事者の、あの馬鹿な鳥の事すら、随分と気に掛けているのだ。
ムッとしてしまうのは、彼がこれ以上傷付かないで欲しいからだ。
もうあの戦いも終わり、世界は平穏へと歩み始めているけれど、それでもあの未開の地は、未だ危険を多く孕んでいる。
それを一人に背負わせる気はないというように、彼は理由を見つけては足繁く赴いている事も知っている。
自分がそれを知って、通り道のこの国に立ち寄ってくれなかった事を、鳥に八つ当たりをしたのも記憶に新しい。
………おそらく、その後にでも赴いて、傷だらけの鳥から事情を聞いて、こうして現れたのだろう。
そう考えてしまうと、どうにも腹立たしい。またあの鳥の形をした藁人形に五寸釘を打ち付けてみようかと物騒な事を考えてしまうくらい、眉が険しくなる。
それに気付いてか、彼が苦笑する。肩に乗る、この世界にたった一匹になってしまった聖霊も、彼と同じ顔をして己の唯一のパートナーを見上げていた。
それは優しい光景で、その光景を守るためなら、自分が一緒に行って彼の代わりに少しでも動き回りたいのも、確かだ。
「………行く前に、ここで少しお茶を飲んで行くなら、ご一緒しますよ…」
それでも、やはり少しくらい、彼を独占しておきたい。
この国は静かで平穏で。………言うなれば、この世界の中で唯一、異変を知らない眠りの土地。
ここにいればきっと彼は傷付かない。傷つける事象が何一つ起こらない。
だから、彼が立ち寄る理由がなく、もしも赴いてくれたならそれは純粋に自分に会うためで。
…………それがどれほど嬉しいかなど、多分他の誰にも解らないのだ。
何かのついでで立ち寄るよりも、この何も無い世界に来て欲しい、なんて。ただの我が侭の自己満足で、決して言うつもりはないけれど。
「どうせ、あの鳥はそんな気遣いも知らないでしょうし……」
お茶を出すという習慣などない、そうした環境で育ってしまった寂しい鳥を、きっと彼は何も言わずに受け入れているのだろうけれど。
………ここで少しだけ休んで、お茶を飲んで。そんな話を馬鹿な鳥にしてやって、折角来てくれた大切な人には、それくらいをするものだと教えてやればいい。
彼が行く先は、どこであっても安らぎと慈しみで満ちていて欲しい。不可能な話と解っているけれど、そう願わずにはいられない。
伝えきらない言葉は、けれど確実に伝わっていて。
柔らかな唇の弧が、それを知らしめていて。
仕方なく、こちらも小さく破顔する。
多分、彼は全部知っているのだ。知らずとも、感じ取っているのだ。
あの馬鹿な鳥が夜毎訪れては、凍える大気に震えて。
………仕方なしに温かなカップを差し出される。
その光景を、見ずとも彼は知っていて。
だからこそ、その慈しみ深き意志を、降り注ぐように笑うのだ。
……………願わくば、彼のその身にこそ、その笑みがより多く降り注ぎますように。